キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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夏祭り


全力で口説く


そーだろうなー、とは思っていたものの、案の定医務室に行くまであおいちゃんは無言。
気まずいのか、俺と喋りたくないのか…。


ー会いたかった、の、かも…ー


それは、記憶が戻った今、確かめてみねーとだよな…。
そして医務室に着いて、お姉さんから腕を動かすんじゃねー、みたいなこと言われながら、包帯巻き直してもらった。


「やっぱり明日、病院に連れて行ってくださいね」
「……えっ?私がっ!?」


お姉さんは何を勘違いしたのか、あおいちゃんにそう言ったものだから、あおいちゃんは声を裏返して驚いていた。
まぁ…、今の関係性なら、そーなるよなぁ…。


「それであおいちゃん、どーやって帰んの?」
「え?どう、って、…電車?」
「カバンも何も持ってねーけど、財布あんの?」
「…………ないっ…!」


だよな。
そのつもりで園子ちゃんは俺を医務室連れて行けって言ったんだろうしな。


「俺さー、バイクで来てっから、一緒に帰ろうぜ」
「…………や、それは、」
「て、ゆーか、」
「うん?」
「腕痛ぇからあおいちゃんが運転してくれたら助かるんだけど」


バイク運転できねーほど痛むかと尋ねられたら、ノーだ。
…でもこの子は、弱ってる人間に優しいから、こうすれば間違いなく、


「わ、かった」


イエスと言うのはわかりきったことだ。
そして2人で駐車場に向かった。
何をどう、話せば聞いてもらえるか。
そんなことを考えていた。


「はい、ヘルメット」


それはあおいちゃんが使っていた、いつものヘルメットだった。


「そ、れは、」
「うん?」
「……つ、かいたく、ない」


受け取ろうとしないどころか、そのヘルメットから目を逸らしてあおいちゃんはそう言った。
…あぁ、そうか。
原因はコレか。
そうだな、あの日、青子に使わせた。
あおいちゃん専用、って言っときながら、青子に手渡したのは他でもない俺だ。
ここに来てようやく、あの日のあおいちゃんの言動が腑に落ちた気がした。


「じゃああおいちゃんはコレね」
「わっ!?」
「あ、やっぱちょっとデケーか。でも我慢して」
「…待って!快斗くんは!?どうするの!?」
「俺ノーヘルで大丈夫ー!でも安全運転してね」


きっともう、これは被ってくれないだろう。
…もしこれが逆の立場で、例えば俺の私物を工藤新一が使ってた、とかだったら、それもういらねー、って。
俺でも思うと思う。
だから、


ガコン


なんの躊躇いもなく、投げ捨てていた。


「なっ、」
「ん?」
「なんで捨てたの!?」


俺の、少しデカいヘルメットを被りこちらを見てくるあおいちゃん。


「また新しいの買おうぜ」
「な、に言っ、」
「さて、んじゃああおいちゃん、安全運転で頼むわ!」


そう言ってバイクの後ろに乗った。
もちろん運転し難いのはわかるけど、あえて背中に抱き着いて乗った。
だってこれくらい近い距離ならさすがにヘルメット越しでも声が届くし、逃げるなんてこと、できねーだろ。


「あおいちゃんさー、記憶ない時の記憶って、あるの?」


記憶のないあおいちゃんは、キッドが俺だと見抜いたし、俺もそれを認めた。
その記憶が、今もあるのかどうか。
その確認もあるし、何よりあの時言ったこと、覚えてるのかってのがデカくてあおいちゃんに尋ねた。
まぁ想定内だけど、あおいちゃんは返事をしなかった。


「んじゃあ、ないと仮定して話すけど。俺さぁ、園子ちゃんが、あおいちゃんが大変、て俺んとこ来て病院に行った時、すっげー心臓バクバク言ってたんだぜ?」


久しぶりに抱き着いたあおいちゃんは、最後に抱き締めた時より少し、小さくなっているような気がした。


「病院着いて、あおいちゃんが記憶喪失って知って、…俺にだけ反応返してくれたの、マジで嬉しかった」


トクン、トクン、と伝わる音は、俺の音と混ざり合ってどちらのものなのか、わからなくなっている。


「俺たぶん、あおいちゃんから見た、青子との『近すぎる距離』っての、わかってなかったんだと思う。ヘルメットの事だってそう。『あおいちゃん専用』って言ったの、俺だったのにな。…ごめんな」


青子の名前を出した時、一瞬あおいちゃんが反応した気がした。


「ねぇ、このままあおいちゃんがいない生活とか無理なんだけど」


ちょうど、信号でバイクが止まろうとしていた。


「でもあおいちゃんはもう、俺の顔見たくないとか思ってんのかもしれねーけど」
「そ、んな、こと…」
「俺、あおいちゃんにもう1度好きになってもらうために頑張るし、全力で口説きにいくから」
「…えっ?」


俺の言葉に、驚いたように振り返ったあおいちゃん。


プップー


フリーズしたあおいちゃんは、信号が変わったことにも気づかずにいた。
慌てて前を向いて、バイクを走らせる。
その小さな背中にべったりとくっついていた。


「あおいちゃん、米花町で止めてー」
「え?江古田まで行くよ?」
「米花町で止めてー」
「…わ、わかった」


トロピカルランドからの帰路、案の定何も聞かずに江古田に向かおうしたあおいちゃんを静止し、米花町に向かってもらった。


「ほんとに江古田までじゃなくて、いいの?」


あおいちゃんちのマンション前に着いたところで、一旦バイクから降りた。


「だって江古田まで来たらあおいちゃん帰れねーだろ?」
「でも腕、」
「まぁなんとかなるって!」
「けど…」
「言っただろ?全力で口説きにいく、って」
「え」
「こんな時間にあおいちゃんを電車に乗せるようなことしねーよ」


そう言った俺に、あおいちゃんは顔を赤くして、目を見開いた。
…これ押し続けたら、イケそう。


「とりあえずさー、」
「うん?」
「友達に戻ろうぜ?今みたいに音信不通じゃなくて。1番始めの俺たちの関係に戻ろ?」
「…そ、れは、うん、…いい、よ」


あおいちゃんは一瞬ためらったものの、しっかりと頷いた。


「じゃあ俺の電話出てね」
「あ」
「うん?」
「…快斗くんの番号、削除しちゃったからわかんないや」
「うっそ!削除すんの早くね?」


ご、ごめん、だって、と、ゴニョゴニョと言い訳を始めるあおいちゃん。
…なんかこの感じも久しぶりだ。


「んじゃあ、もう1回連絡先教えるよ」
「ご、ごめんね」


今ケータイ手元にないから、と、あおいちゃん。
そーいや記憶なくなって、ケータイ使い用がなかったからその他の荷物も含めてうちで預かってるって園子ちゃん言ってたな。


「んー…、あ、レシートの裏でいい?番号書く」
「え、ま、また今度でいいよ、」
「今渡しとかねーと、あおいちゃん逃げるでしょ?」
「にっ、逃げないよ!」
「お?言ったな?じゃあ連絡寄越せよ?」


俺の言葉に、うっ、て感じの顔をしてあおいちゃん。


「はい、なくさないでね。連絡待ってるから」
「…ん」


困ったような顔をして、俺の番号が書いてあるレシートを受け取ったあおいちゃん。


「んじゃあ、またな」
「ねぇ」
「うん?」
「…明日、病院行ってね?」


今度は心配そうな顔で俺を見ていた。
…ほんと、こんな状況でも、俺の心配してくれるなんて、あおいちゃんだけだよ。


「あおいちゃんが連絡くれたら病院行くよ」
「連絡しなくても行かなきゃダメ!」
「えー、病院きらーい」
「んなっ!?」
「じゃ、またな!」
「あ、ちょっ、」


こうして長かった1日がようやく終わろうとした。

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bkm

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