キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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夏祭り


ウィンウィン


「江古田までじゃなくて、いいの?」


快斗くんは途中で、米花町で止めてと言ってきた。
その言葉通り、米花町に着くと、マンションまで行くように言われたから、マンション前で停めた。


「だって江古田まで来たらあおいちゃん帰れねーだろ?」
「でも腕、」
「まぁなんとかなるって!」
「けど…」
「言っただろ?全力で口説きにいく、って」
「え」
「こんな時間にあおいちゃんを電車に乗せるようなことしねーよ」


快斗くんはそう言って、私が被っていたヘルメットを受け取った。


「とりあえずさー、」
「うん?」
「友達に戻ろうぜ?今みたいに音信不通じゃなくて。1番始めの俺たちの関係に戻ろ?」
「…そ、れは、うん、…いい、よ」


快斗くんの彼女でいると、中森さんのことはきっと切り離せない。
でも、「友達」なら…。
江古田に行く必要もないと思うし、中森さんと関わることもきっとない。
だから頷いた。


ー全力で口説きにいくからー


別にそういうこと期待してるとかじゃない。
せっかく知り合えたんだから、ぷっつりと縁を切るのはもったいないから、とか。
そんな言い訳と取れるようなことをずっと考えていた。
そして翌日、玄関チャイムが鳴って確認すると園子と蘭がいた(プラス、引っ越し業者みたいな人もいた)
園子の家にあった私の荷物を届けに来てくれたそうだ。
…でもほぼほぼ、鈴木家で揃えてくれた物だから、私の荷物というより、私が使っていた物を業者のお兄さんが運んでくれた感じだ。


「園子のお父さん、お母さんにもお世話になっちゃったし、お礼言いに行かないと、」
「そうね。ほんとに大丈夫か、特にママが心配してたわ」


園子が頷いたことで、近々鈴木家にお礼に行くことになった。


「で?」
「うん?」
「元サヤ戻った?」


園子の今日の本題はコレらしい。


「べ、つに、戻ってなんか、」
「はぁ!?戻ってないの!?なんでっ!?」


園子が、グワッ!と近寄ってきた。


「なんで、って言われても、」
「あんたねぇ、この際だから言うけど、私はアイツを見直したのよ?」


園子の言葉に、えっ、となって園子を見た。


「あんたたちの破局理由がどうであれ、あんな身体張って守ってくれる奴、なかなかいないって!」
「私もそう思うよ」


園子の言葉に、蘭もうんうんと頷いた。


「私、空手やってるから体力には自信ある方だけど、黒羽くん、なんて言うか…、すっごい身軽で、パルクールって言うのかな?走るとか跳ぶとか、とにかく早くて、私なかなか追いつけなかったんだよね」


蘭が思い出すように話す。
…それたぶん、キッドだからだよ…。
日頃本気で逃げることに全力投球してる人だからだよ…。
なんて、言えるわけないから黙ってた…。


「ただでさえそんな状況だったのに、あおいを見つけた!って思ったら、さらに引き離されちゃったんだよね。足早いって言うのもあるだろうけど、それだけあおいのこと心配で必死だったんだと思うよ」


困ったように笑いながら、蘭は言う。


「そ、れは、だって、」
「アイツさぁ、私に言ったのよね」


頬づえ付きながら、園子が言う。


「あんたらの破局原因。…幼馴染のお父さんが撃たれた、って、連絡着たんだって」
「え?」
「幼馴染のお父さん、て、中森警部のこと?」
「でしょうね。仕事中、って話だし、犯人追って、とかじゃない?」


以前、キッドの犯行現場で会った中森警部と江古田高で会った中森さんのこと、園子と蘭にもチラッと話したけど、そのことを2人とも覚えていたようだ。


「で、言われたらしいわよ?『助けて』って。それで病院連れて行った、ってさ」
「…そ、っか…」


そういう理由があったのに、全然話を聞こうとしなかった私。
…それでもまだ、快斗くんは一緒にいたい、とか、思ってくれてるのかな…。


「まぁ、あおいがキレるのもわかるわよ?でも彼のそーいう事情も、ちょこっとは汲んでやってあげなって」


ね?と園子が言う。


「快斗くん、」
「うん?」
「『もう1度好きになってもらえるよう頑張るし、全力で口説きにいく』って…」


なんで、自分の話しも聞かないで、一方的に別れを告げた私にまだ、そんなことを言うのかな…。


「かーっ!もうあんにゃろめ、抑えるとこ抑えてるわねっ!」
「黒羽くん、そういうことサラッと言えるからすごいよね」


園子と蘭は、うっかり私が記憶喪失になってる間に、快斗くん贔屓になったようだ。


「と、とりあえず、さ、」
「「うんうん」」
「もう1度、最初の頃みたいな友達に戻ろうってなって、今ほら、全然連絡してないっていうか、連絡先消してたんだけど、もう1度友達になるってことで話まとまった、っていうか…」
「いいじゃん、いいじゃん!」
「で、でもさぁ、」
「なぁに?」
「最初の頃の友達、って、快斗くんほら、毎日連絡くれてたじゃん」
「「あ…」」
「な、なんかそれってどうなの、って、」


昨日別れ際、快斗くんは「んじゃあ、あおいちゃんからの連絡待ってるね。そしたら前みたく毎日連絡するから」って語尾にハートついてるような声で言ってきた。
でもさぁ、今のこの状況でそれって…。


「良い暇つぶしになるじゃん!」
「ちょっ、園子!」
「いいじゃん。アイツはあおいと連絡取れて嬉しいし、あおいは暇つぶしできてウィンウィンでしょ?」
「ウィンウィン…なの?」
「さ、さぁ…?」


暇つぶしに連絡しろしろ言う園子と、ちょっと困惑気味の蘭。
これは本当にウィンウィンなのかどうか…。
ううーん、と唸りながらも、園子にけしかけられたことで、快斗くんの番号を再登録してから初めて、快斗くんに連絡をした。

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bkm

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