キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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夏祭り


ヘルメット


「さっき血止まってたじゃないですか!動かしたら駄目ですよ!」
「すみませーん」


とりあえず快斗くんを医務室に連れて行ったら(その間無言)待機していたお姉さんに怒られた。


「やっぱり明日、病院に連れて行ってくださいね」
「……えっ?私がっ!?」


快斗くんに怒ってたはずのお姉さんが私の方を見てそう言ってきた。
ものだから、思わず声が裏返ってしまった。


「ごめんな、面倒かけちまって」
「あ、い、いや、大丈夫、」


医務室から出た後で、快斗くんが申し訳なさそうな声を出して謝ってきた。
そんな面倒なんて、明らかにここ数日の私の方がかけてしまったわけで。


「それであおいちゃん、どーやって帰んの?」
「え?どう、って、…電車?」
「カバンも何も持ってねーけど、財布あんの?」
「…………ないっ…!」


快斗くんに言われて、服のポケットとか触ってみたりするけど、どう考えても財布どころかケータイすら持ってなくて。
だよな、って快斗くん言うけど、これ私帰宅難民になるんじゃない!?


「俺さー、バイクで来てっから、一緒に帰ろうぜ」
「…………や、それは、」
「て、ゆーか、」
「うん?」
「腕痛ぇからあおいちゃんが運転してくれたら助かるんだけど」


快斗くんは包帯が巻かれた左腕を抑えながらそう言ってきた。
…これはもう、致し方なし、って奴だと思う。


「わ、かった」
「さんきゅ」


じゃあこっち、と、快斗くんがバイクが止めてあるのであろう方へと進んで行った。
その後を着いて行く、…けど、もうさっきまで繋いでいた手を繋ぐことはなくて。
…そ、りゃあ、そうだと思うし、私がそう言ったんだし、それが普通だと思うけど。
でも胸がチクリとした気がした。


「はい、ヘルメット」


シート下に仕舞ってあったヘルメットを私に差し出してきた快斗くん。
それはずっと、私が使っていたヘルメットで、…あの日、中森さんが使っていた物だ。


「そ、れは、」
「うん?」
「……つ、かいたく、ない」
「……………」


これからはきっと、中森さんが使う物だ。
ならそれを今私が使うのは、さすがにちょっとどうかと思う。


「じゃああおいちゃんはコレね」
「わっ!?」


そう言って快斗くんは、日頃自分が被っているフルフェイスのヘルメットを私に被せた。


「あ、やっぱちょっとデケーか。でも我慢して」
「…待って!快斗くんは!?どうするの!?」
「俺ノーヘルで大丈夫ー」


でも安全運転してね、と快斗くんは言う。
…いや、そういう問題じゃなくない!?


「わ、私やっぱり電車で帰」
「ほら、これ以上遅くなる前に帰ろうぜ」


電車で帰るからお金貸して、って言おうとした私の言葉に被せてきて快斗くんがそう言った。


「あ、入り口のとこのゴミ置き場でちょっと止まってくれる?」


早く早くと急かす快斗くんに、仕方なく快斗くんのヘルメットを被ってバイクを走らせ始めた直後にそう言われた。
ゴミでも捨てるのかと思って言われた通り、バイクをゴミ置き場の近くで停めたら、


ガコン


なんの躊躇いもなく、快斗くんがヘルメットを捨てた…。


「なっ、」
「ん?」
「なんで捨てたの!?」


それはかつて私が被っていたヘルメットで。
そしてきっと、これからは中森さんが被るヘルメットで。
でもそれを躊躇いもせず、ゴミとして投げ入れた。
快斗くんはフルフェイスのヘルメットを被っている私の頭頂部あたりに手を置きながら、


「また新しいの買おうぜ」


前のように、優しく笑いながら言った。


「な、に言っ、」
「さて、んじゃああおいちゃん、安全運転で頼むわ!」


私が話始める前に、快斗くんはバイクの後ろに跨り、そう言ってきた。
べったり、と、私の背中に抱き着くように座って。


「あおいちゃんさー、記憶ない時の記憶って、あるの?」


フルフェイスのヘルメットでは、大きい声を出さないと聞こえない。
だから快斗くんは、いつも以上に大きい声を出してるんだと思う、けど…。
あえてそれには答えずに運転していた。


「んじゃあ、ないと仮定して話すけど。俺さぁ、園子ちゃんが、あおいちゃんが大変、て俺んとこ来て病院に行った時、すっげー心臓バクバク言ってたんだぜ?」


快斗くんは私の返事を待たずに話し続けた。


「病院着いて、あおいちゃんが記憶喪失って知って、…俺にだけ反応返してくれたの、マジで嬉しかった」


快斗くんの声は、バイクの音にかき消されることなく、私の耳に届く。


「俺たぶん、あおいちゃんから見た、青子との『近すぎる距離』っての、わかってなかったんだと思う。ヘルメットの事だってそう。『あおいちゃん専用』って言ったの、俺だったのにな」


ごめん、て、ヘルメット越しで消え入りそうなほど小さい声で快斗くんは言った。


「ねぇ、このままあおいちゃんがいない生活とか無理なんだけど」


快斗くんは私のお腹に回してた手に力を込めた。


「でもあおいちゃんはもう、俺の顔見たくないとか思ってんのかもしれねーけど」
「そ、んな、こと…」


思わず漏れた言葉が、快斗くんに聞こえたのかはわからないけど。
信号待ちで止まっていたタイミングで、快斗くんは言う。


「俺、あおいちゃんにもう1度好きになってもらうために頑張るし、全力で口説きにいくから」
「…えっ?」


快斗くんの言葉に、思わず後ろを振り返った私。
振り返った私を、ニヤリと笑って快斗くんが見ていた。


プップー


思考が停止して、信号が変わったことにも気づかなかった私に、後ろにいた車がクラクションを鳴らしたことで我に返った。
…今快斗くん「口説きにいく」って言った?
待って、でもそれって?
そんなことを思いながら、バイクを走らせた。

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bkm

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