キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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瞳の中の暗殺者


夜空に浮かぶ星


それから3日後の朝、退院することになった。


「あおいはうちに来ればいいわよ!」


退院後、園子さんの家に行くらしい。
刑事さんやメガネの子も、園子さんの家なら安心だ、と言っていた。
快斗さんは昨日も一昨日も来てくれたけど、今朝は姿を見せなかった。


「ここがうちね!」


園子さんが連れてきてくれたお家は大きくて、使用人と呼ばれる人もいた。
困ったことがあったら、その使用人さんに何でも言って、と言われた。
園子さんは私を親友だと言う。
蘭さんも私を親友だと言う。
それがわかるような、わからないような…、変な感じだ。


「あおいちゃん、不便なことがあったら何でも言ってちょうだいね」
「そうですよ、あおいさん。遠慮は要らないですから」
「………ありがとう、ございます」


園子さんのお父さんとお母さんもよくしてくれる。
でも、やっぱりこの人たちも、少し、悲しそうな顔をしていた。
お夕飯を食べた後で、疲れたから休みます、と言って部屋に戻った。
何かあったら呼んでね、と言われた。
みんな優しい。
…でも少し、居心地が悪く感じる。
私のお父さん、お母さんは、遠くにいて来れないらしい。
だからなのか今のこの状態は上手く言えない、ちょっとの違和感があった。
それは園子さんが使ってと言っていた部屋が広いせいだからかもしれない。
今朝までいた病室とは違って広くて綺麗なこの部屋に、身の置き場がない気がした。
そんなことを思っていたら、カタン、と、窓が開く音がして、そっちに目を向けると、


「こんばんは、お嬢さん」


真っ白い服を着た人が立っていた。


「…側に行っても?」


白い人は黙っている私に、そう言ってきた。
頷くと、ありがとうございます、とその人は言って近寄ってきた。


「誰、です、か?」
「私ですか?」


ソファに座っていた私の近くまで来たその人は、シルクハットを脱いで、私の目の前で跪いた。


「あなたの王子、…に、なりきれなかった、しがない魔法使いですよ」


その人は片方にメガネを着けて顔が少し、隠れている、けど…。
すごく優しく、柔らかく笑うこの顔は、


「快斗、さん…?」
「え?」


私も知っている人だ。


「どーしてそう思ったの?」
「ちがう?」
「…いいや、違わないよ」


片目を隠していたメガネを外すと、やっぱり柔らかい笑顔の快斗さんだった。
その顔を、やわやわと触れてみた。


「快斗さんの瞳は、誰より優しく、綺麗だから、すぐ、わかる」
「それはあおいちゃんとずっと、一緒にいたからだよ」
「どうして?」
「あおいちゃんのことが、誰より大切で、大好きだからだよ」


そこまで言うと、快斗さんは泣きそうなほどに、顔を歪めた。


「ごめんな…。きっと俺のせいだ。事件のことだけじゃなく、今までの全部を記憶から消してしまったのは…!ほんとにごめんっ」


顔に触れていた手を両手で握りしめ、快斗さんは声を絞り出すようにそう言った。


「『私』と、何か、あった…?」


快斗さんに握られていない方の手で、快斗さんの髪に触れた。


「すげー、傷つけちまったんだ。…記憶を失くす前のあおいちゃんは…もう、俺に会いたくなかったかもしれない」


快斗さんの髪はふわふわで気持ちが良かった。


「…よく、覚えてない、けど、」
「うん」
「ち、がう、と思う」
「え…?」
「病院で、快斗さんを見て、たぶん嬉しいって、涙、が、出てきたと、思う、し、」
「…」
「会いたかった、の、かも…」


そう言った私の頬を、快斗さんが触れてきた。


「ねぇ、あおいちゃん」


病院で会った人たち。
園子さん、蘭さん、たんていだんのみんなや、刑事さんたち。


「俺たぶん、あおいちゃんにいっぱい嫌な思いさせちまったし、いっぱい泣かせちまったと思う」


いろんな人に会ったけど、快斗さんの手は、誰より優しい。


「そーいうの全部忘れた時に言うことじゃないのもわかってるけど、…また一から俺を好きになってもらえるよう頑張るよ」
「…好き、に、」
「何度でも、好きにさせる」


快斗さんの瞳は、星空色だ。


「それで、今度こそあおいちゃんが離れていかないようにする。…そりゃあ、たまには泣かせちまうかもしれねーけど、今度こそ、あおいちゃんが言葉に出来ない思いも全部、聞くよ」


夜空に浮かぶ星を捕まえ閉じ込めた。
そんな瞳をしている。


「こんなん言うの、俺だけだろーけど、…思い出さなくていーよ。事件のことも、…俺に傷つけられたことも。忘れたままでいていい」


快斗さんが私に触れてきたように、私ももう1度、快斗さんの顔に触れた。


「そうしてもう1度、俺に恋してくれる?」


いつの間にか、ソファの端に軽く膝をつけ、立ち膝のような状態になっていた快斗さんは、ソファに座っている私の額と自分の額をくっつけてそう言った。


「こ、い…?」
「そう。嫌?」
「…わ、からない…」
「じゃあわかるまで、一緒にいよう」


そう言うと快斗さんは私の額に、チュッ、と音を立てた。

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bkm

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