キミのおこした奇跡ーAnother Blue


≫Clap ≫Top

瞳の中の暗殺者


側にいるよ


「快斗の誕生日も終わったし、私そろそろパリに戻るけど、大丈夫?」


俺の17回目の誕生日も親父の命日も済んだ数日後、お袋がそう言ってきた。


「何が?大丈夫じゃなかったこと今までねーじゃん」
「…ならいいけど」


本当は気づいてる。
お袋が言いたいことは、そういうことじゃない。


「千影さん、何も聞かねーんだな」


翌朝にはお袋が家を出る、って日。
最後の晩餐よろしく、親子で飯食った後のこと。
気になっていたことをポロッと漏らした。


「…聞いてほしいなら聞いてあげるわよ?」
「別に言うことねーけど」
「なら聞くことはないわね」


そう言って自分の部屋に行こうしたお袋に、


「あんたも可愛がってたじゃねーか」


そう言葉を投げかけた。


「…まぁ確かに?可愛がってたし、実際可愛い子だけど。図体ばかりデカくなって可愛くない息子でも、私と盗一さんのたった1人の息子でしょ?こういう時に、あなたが望まないことはしないわよ」
「母さんて案外イイ女なんじゃね?」
「あら?今頃気づいたの?あなたもまだまだねぇ」


ポン、と俺の頭に手を置いた後で、今度こそ部屋に戻って行った。
あおいちゃんがいない日常は、あおいちゃんだけがいない日常で。
それは確かにあの子が言うように、元に戻るだけなのかも、とか。
そんなことを考えるようになった頃。


「何あれ!誰のお迎え!?」
「ちょっ、ベンツ?あれベンツ?」


うちの学校の校門前に、黒塗りのベンツが横づけされた。


「快斗も見た?校門前に止まってるベンツ!」
「興味なーし」


俺には関係ねぇや、と思いながら帰ろうとした時。
黒塗りベンツの前を通り過ぎようとしたら、バン!とドアが開いた。
…このタイミングでベンツから偉そうに出てくるような知り合いなんて、


「遅いっ!!」
「え?確か…園子ちゃん、だっけ?前に文化祭で会った、」


俺には1人しかいねぇ…。


「ちょっと顔貸しなさい」


しかもオメー、青子の存在無視かよ…。


「…聞いてねぇの?園子ちゃんが何してぇのか知らねーけど、俺はもう」
「あおいが今大変だから顔貸せって言ってんのよ!」


俺の言葉を遮って、園子ちゃんはまるで悲鳴を上げるかのようにそう叫んだ。


「あおいちゃんが何?」
「…先に車に乗って」
「ね、ねぇ、園子ちゃん。快斗が何か」
「部外者は黙ってて!」


俺とあおいちゃんのことを正確には知らない青子が、間に入ろうと園子ちゃんに声をかけるものの、まさに一刀両断。


「…オーケー、とりあえず車に乗ればいいのか?」
「快斗!」
「いーから、オメーは先に帰ってろ。で?乗ればいいの?」
「えぇ。乗ってちょうだい」


園子ちゃんはそう言って先にベンツに乗り込み、その後に続いた。


「破局理由」
「あ?」
「あおいは一っ言も言おうとしなかったけど、だいたい想像ついたわ」
「どーとでも。ただ青子はマジでそんなんじゃねーからってだけは言っとく」


俺たちが乗り込んだ直後、最初から目的地は決まっているのかベンツは走り出した。


「あんたが今どーいう心境でいるのか知りたくもないし、どーでもいいし、ほんとは頼りたくもないけど、」
「オメー喧嘩売ってんなら、今の俺は女だろうが買うぞ?」
「今私が思いつく方法で、あおいを救えるかもしれないのは、あんたしかいないんだからしっかり働きなさいよ?」


俺を睨みつける園子ちゃん。
…さっきも思ったけど、コイツの顔、よく見たら少し泣いたように感じる。


「何があった?」
「…見たらわかるわよ」


そう言ったきり、園子ちゃんは黙った。
そして沈黙のまま、


「…病院?」


俺たちを乗せた車は病院に横づけた。
…園子ちゃんのあの態度と、あおいちゃんを救えるかもと言ったあの言葉。


「何、もしかしてあおいちゃん怪我か何かしたの?」
「…怪我、なら、どれだけ良かったか」
「え?」


その言葉に、園子ちゃんの方を見た。
今の今まで俺の前では怖いもの知らずなお嬢様の姿しか見せていなかった園子ちゃんが、今にも泣き出しそうな顔をしていた。


「…あおいちゃんに何があった?」


心拍数が上がっていくのがわかる。
それは最悪のケースが脳内を過るからだろうか…。


「…報道あったでしょ?米花サンプラザホテルであった発砲事件」
「刑事が殺されてる事件の同一犯じゃねーか、ってあれ?」


園子ちゃんは、中庭にいるって言うからこっちよ、と言って歩き始めた。
その後を追いながら、会話を続ける。


「発砲されたのは、警視庁捜査一課の女刑事。人気のないトイレ内でフロア全体を停電させた後で襲われた。その時たまたまトイレに居合わせた『女子高生』が巻き込まれた、って報道があったと思うけど」
「…おい、まさか」
「正確には、トイレ内に犯人が置いた懐中電灯を、女子高生が持ったことで室内が照らされ、犯人に狙われないようにと女子高生を庇った女刑事が撃たれたの。目の前で銃弾を浴びて倒れた女刑事を見た女子高生は自分を責めた」


淡々と語る園子ちゃん。
どう考えてもその女子高生ってのは…。
中庭に着くと、蘭ちゃんと、探偵ボウズ。
それから博士と呼ばれていた人と、ボウズの仲間のガキ共数人。
そして、


「ワシのことも覚えとらんか?阿笠博士じゃ!ほれ、君もよく知っとる、工藤新一くん家の隣に住んどる天才科学者じゃよ!」
「くどう…しんいち…」
「新一兄ちゃんのこと覚えてるの!?」
「…ううん。…わからない」


生気のない、虚ろな瞳で座っている、あおいちゃん。


「医者の話だと、あおいは『佐藤刑事が撃たれたのは自分のせいだ』って強く思ったみたいで、その現実に耐えられなくて記憶から消すことで、自分を守ってるんじゃないか、って…」
「つまり、記憶喪失、ってこと?」
「…事件のことだけじゃなく、私たちのことも、全部忘れてる」
「全部…」
「でももしかしたら黒羽くんのことは覚えてるかもって」


園子ちゃんが俺に話しかけてきていたが、最後まで聞かずに自然と足があおいちゃんのところへ向かっていた。


「黒羽くん!良かった、来てくれて」


蘭ちゃんが俺を見て、ホッとしたような声をあげた。
ベンチに座るあおいちゃんの前にしゃがみこんで、あおいちゃんの顔を見上げると、


「…」


いつも俺を写していた漆黒の瞳は、何も写さず虚ろな目をしていた。
…そーいや、前もこんな格好になった時あったな。
そうそう、あの時は工藤新一と口論みたいになってあおいちゃんを怒らせたんだっけ。
それでも…。
例え怒っていたとしても、その瞳には俺をしっかりと写していたのにな…。


「俺、黒羽快斗ってんだ。よろしくな」


あおいちゃんの目の前でしゃがんだまま、花を差し出した。
虚ろな目をしているあおいちゃんの瞳に、花が写るように。


「すっごーい!お兄さん、マジシャン!?」
「手から花が出てきましたよ!?」
「てゆーか、この兄ちゃん誰だよ?」
「もしかしてもしかして、あおいお姉さんの恋人さん!?」
「元カレよ!も・と・か・れ!昔の男って奴よ!」
「園子ちゃーん?俺の心、抉るのヤメてくんねー?」


あおいちゃんの周りにいたガキ共が騒ぎ出した。
それに園子ちゃんが乗っかるもんだから、右手に花を持ったまま立ち上がった。


「あおい!?どうしたの!?」


その一拍後で、蘭ちゃんが声を荒げた。
バッ!とあおいちゃんを振り返ると、


「…わ、たし…?」


無表情なまま、涙を流していて。
何をどう思ったとかじゃなく、それを見た瞬間に、あおいちゃんの頭を抱えるように抱きしめていた。


「ダイジョーブ。俺が側にいるよ」
「……はい」


腕の中のあおいちゃんは、小さく、でもはっきりと返事をした。

.

prev next


bkm

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -