キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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瞳の中の暗殺者


血に染まる


園子たちとパーティードレス…とまではいかずとも、ちょっとキレイ目ないわゆるカジュアルフォーマルな服を買いに行った。


「パーティードレスじゃなくていいの?」
「披露宴じゃないしねー」
「新郎新婦の友達主催な結婚を祝う会、ってことみたいよ?」
「なるほど」


女子高生のお財布にも優しい服で、パーティードレスなんて代物じゃなくて良かったとほんとに思った。
そしてそこから数日。
世間では現役の警察官が連続で殺害される、って言う怖いニュースで盛り上がっていた。
…蘭の話だと、警視庁の人間も結婚を祝う会に来るみたいだし、大丈夫かな…。


ーあおいちゃんは巻き込まれ体質だからなー


フッと脳内に蘇る、過去の出来事や言葉たち。


「別に巻き込まれ体質じゃないし、」


誰に言うでもない言葉は空を切った。
ばいばい、って言ったのは私。
でも快斗くんがうちに置いていったものたちを、何一つ片づけることなんて出来ずにいた。
そして結婚を祝う会当日。
園子、蘭、おじさん、そしてコナンくんと共に会場に向かった。


「しかしなんだなぁ…。白鳥の妹も、間が悪いというか…。何もこんな時に、結婚披露パーティーしなくたって…」


白鳥警部始め、警視庁の人間が多く出席するものだから、おじさんがポロッと漏らした時だった。


「あおい姉ちゃん」


久しぶりに会ったコナンくんから声をかけられた。


「なぁに?コナンくん」
「…久しぶりだね」
「え、う、うん?久しぶりだね?」


ジーーーッと私を見てきた後、


「あおい姉ちゃんもしかして痩せた?」
「え!?」


コナンくんが言った。


「や、ややや痩せてないよっ?」


実は快斗くんとさよならした後、あんまりご飯が美味しく感じられなかった私は、どうせ1人だし、って、夕飯抜いたり朝ご飯抜いたりして、気がつけば3キロ体重が落ちていた。
の、だけど、それを目ざとく気づくって怖くない!?
新一くん怖くない!?!?


「んー…、僕の気のせいだったみたい」


だってよく考えて!
実は痩せたんだよね、とかうっかり言うじゃん?
なんで痩せたの?もしかしてダイエット?とかなるじゃん?
違うの実は、なんて、言えるわけないじゃぁぁん!!
ならしらばっくれるしかないわけで。
しらばっくれた私に、僕勘違いしちゃったー!みたいにコナンくんが言う。
…新一くんの観察眼、恐るべし…!


「ねぇねぇ、新郎の晴月さんて、どんな人?」
「画家だって言ってたわ」
「頭に『売れない』がつくな」
「売れない画家かぁ…。こりゃ友人関係の男はあまり期待できないな。ね?あおい」
「園子、ちょっと今日それは抑えて」
「うん?」


園子の言葉を受け、コナンくんがまたジーーーッと私を見てきた。
…絶対に自分からは聞けないし言わないけど、今ので新一くん絶対気づいたって。
私が快斗くんと何かあった、って気づいたって…!
冷やっ、と背中に冷たい汗が流れたような気がした私をよそに、蘭のお母さんも会場に現れた。


「あなたがあおいちゃん?」
「は、はじめまして…!」
「蘭といつも仲良くしてくれてありがとう」
「い、いえいえ!私が仲良くしてもらってて、」


有希子さんを見た時も、快斗くんのお母さんを見た時も、園子のお母さんを見た時も思った。
なんでこの世界の「お母さん」はこんなに美人しかいないんだろう…!!
キャリアウーマン!!て感じの蘭のお母さんに、無駄に緊張してしまった。
そしてみんなでクロークに荷物を預け会場へ入った。


「おっ!警部殿も来ているぞ」


おじさんの声に振り返ると、ちょっと怖い顔してる目暮警部がいた。


「警察関係者は一目でわかるわね。目付きが悪いし、重苦しい雰囲気だわ…」


まるで私の心の声を聞いたかのように、蘭のお母さんがそう言った。


「例の事件の捜査で、パーティー所じゃないんだろう」
「でも、佐藤刑事はいつも明るいわ!」


その言葉に佐藤刑事の方を見ると、こちらに気づいたようで軽く手を振ってくれたから、ペコリと頭を下げた。


「あおいは佐藤刑事と面識あるの?」
「う、うん。前に何度か会ってて、」
「皆様お待たせしました。新郎新婦のご入場です。どうぞ、盛大な拍手でお迎えください」


蘭と話していたら、会場の照明が落ち、新郎新婦がライトに照らされ入場してきた。
そして会は進み、新郎新婦がゲストたちに挨拶に回ることになって。


「じゃあ、プロポーズの言葉はなかったんですか?」


私たちのところにやってきた新郎新婦に、園子がガッツリと、でも「今後の参考に!」って押し切って2人の馴れ初めを聞いた。


「ええ、彼そういうの苦手だから」
「男はそれくらいのほうがいいわよ。歯の浮くような台詞言う奴にロクな奴はいないから」


蘭のお母さん(おばさんて呼ぶのは憚られる美人さんだかりそう呼んでる)は言う。


ーあなたが私の奇跡を望むなら、月明かりの下、会いに参りましょうー

ーそれがプリンセスのお望みとあらばー


…そう言えば最近、キッドのニュースも聞かないな、って。
そんなことを思っていた。


「ねぇ、前から聞こうと思ってたんだけど、お父さんはなんて言ってお母さんにプロポーズしたの?」
「だから歯の浮くようなくだらない台詞よ」
「先生!教えてください!」
「でも何か、忘れちゃったから…」
「もー、じらさないでよお母さん!」
「んーっと、『お前のことが好きなんだよ、この地球上の誰よりも』…だったかなぁ?」
「……うそぉ…」


蘭のお母さんの言葉に、驚いた顔でおじさんを見る園子。


「そんなこと言うように見えないわよね?」
「んー…、でもおじさんてヨーコちゃんのドラマ大好きだし、ヨーコちゃんのドラマってそういうセリフ言う人わりと出てるから、おじさんがそういうの言っても不思議じゃないかも」
「あー!確かに確かに」


私の言葉に園子はうんうんと頷いた。
新郎新婦も次のゲストのところに行ったし、今のうちにトイレに行っておこうかと思って、園子にその旨伝えた後で会場を出た。


「…ふぅ…」


快斗くんとさよならして、涙は出なかった。
…だからなのか、ちょっとしたことですぐ、快斗くんを思い出す。
今もキッドを思い出しちゃったし…。
中学の時からずっと、一緒にいた快斗くんだから…。
これはもう、仕方ないことなのかなぁ…。


「あら、あおいちゃんもトイレ?」
「は、はい!」


1人ひっそりと吐いたため息を聞かれたかも、とか、そんなこと思って少し焦ったけど、佐藤刑事は気づいてなかったようで、普通に話してきた。


「あれから事件に巻き込まれてない?」
「あ、あれからは平和ですよー!そんな頻繁に巻き込まれないです、って!」
「例え巻き込まれても、あおいちゃんは寝てる間に事件が終わってそうよね」


あはは、と佐藤刑事は笑う。
私が事件に巻き込まれるのは米花町在住オプションと、新一くんや園子と一緒にいるからだし。
…なんてこと言えるわけないから、一緒に誤魔化すように笑ってみた。
瞬間、電気が消えた。


「どうしたのかしら?」
「ブレーカーが落ちた、とか?」
「それにしてもおかしいわねぇ…。様子見てくるから、動かないで!」


私の肩を叩いた後で佐藤刑事が探り探りで動き出したのがわかった。
動くなって言われてもなぁ、って、キョロキョロしたら、洗面ボウルの下の扉から光が漏れてるのに気がついた。


「あ、佐藤刑事、こんなところに懐中電灯が、」


その扉を開けると、バケツの上に明かりの着いた懐中電灯が乗せてあって。


「懐中電灯?」
「ほら、」


その懐中電灯を取って立ち上がった。
瞬間、


「ダメあおいちゃんっ!それを放してっ!!」
「え?」


ほんの一瞬の出来事だった。
明かりの着いた懐中電灯を持って立ち上がった私が、佐藤刑事に明かりを向けて。
その直後佐藤刑事が私に向かって駆け寄ってきて。
なんとも言えない、微かに聞こえた音と共に、佐藤刑事が変な動きをしてるように見えて。
そんな中でも佐藤刑事が私を突き飛ばすように強く押すから、驚いて懐中電灯が手から離れて、くるくる、くるくると、宙を舞って。
その光の先に、もう1人、誰かが立っていたように見えて…。
え?って思った時には、目の前で佐藤刑事が倒れていて。


「さ、佐藤刑事…?」


倒れた佐藤刑事の身体に触れると、ぬるっと生暖かい感触が手のひらに広がって。


「…ち…?」


どくん、どくん、て脈が早くなってるのがわかる。
床に転がった懐中電灯は、暗闇の中でもはっきりと私の手のひらを照らしていた。


「わ、たし…?」


私の手のひらは間違いなく、真っ赤な、佐藤刑事の血に染まっていた。


「私、がっ…、」


ハッ、ハッ、と呼吸が浅くなる。


「懐中電灯を…、」


無意識に触れた頬に、ペチャッ、と何か液体が着いた音が聞こえた。


「っいやああああ!!」


バツン、と、まるで強制的に電源を落としたかのように、私の記憶はそこで途切れた。

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