キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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瞳の中の暗殺者


ありがたいプレゼント


翌朝、登校前のあおいちゃんを捕まえようと朝イチで米花町に向かった。
あの後も電話に出てくれることもなく、メールの返事もなかった。
何をどう話そうとか決めていたわけでもなく、ただ今会っておかなければという、そんな思いであおいちゃんを待っていた。


「ねぇ、あおいちゃん。ちゃんと話し合お」


こういうことがあった後、あおいちゃんはあからさまに俺を避ける。
…いや、避けていた。
でも今日は、真っ直ぐ俺を見上げて、その漆黒の瞳に俺を写していた。


「話し合うことなんて、もうないよ」
「あおいちゃん!」


逃げるとか、避けるとか、そういうことをせず。
泣くことも、怒ることもせず、あおいちゃんは真っ直ぐ俺を見ている。


「むしろ、遅くなっちゃって、ごめんね」


どこか困ったような顔をしながらそう言った。


「俺は別れるつもりねーからな?」
「…快斗くんはさ、優しいから、私の話を聞いて同情して好きを勘違いしてたんだよ」
「違う!そ、りゃあ、最初は同情だったかもしれねーけど、俺はっ」


勘違いなんかじゃなく、俺は本当にあおいちゃんのことが好きだ。
そう言えなかったのは、目の前のあおいちゃんが、いつものように、何もなかったかのように、ふわり、と俺に向かって笑ってきたから。


「大丈夫。今まで通り、…本来の姿に戻るだけだから、すぐに慣れるよきっと」


駄目だ、って。
この子はもう、決めてしまったんだ、って。
いつものように笑うあおいちゃんの顔を見て、自分が本当に取り返しのつかないことをしでかしたんだと、この時ようやく、本当の意味で理解が出来たんだと思う。


「じゃあ私、学校行くね。…ばいばい、快斗くん」


掴んでいた手を離したことで、あおいちゃんはすり抜けるように俺から離れて行った。
それからどこをどうやって帰ってきたのか、正直覚えてない。
気がついたら自分の部屋にいた気がする。
どうしたらいい?とか、どうすればいい?とか。
いくら考えてもきっともう全てが手遅れなのに、そんなことばかりが頭を過ぎった。


「快斗、おはよー!昨日休みだったけど、どうしたの?」
「…別にー」


その翌日、まさか連日休むわけにいかねーし、学校に向かったわけだけど、その途中で青子に遭遇。
そういや前に紅子が言ってたよな。
あおいちゃんが青子を警戒するのは、俺と青子が結ばれる未来があるとかどーとか、って。
そんな未来、あるわけがねーけど、でも今となってはあおいちゃんから見たらそう見えていたくらいのものだった、って、ことだよな。


「わざわざあの子から連絡着たけど?」


学校に行くと紅子が俺のところにやってきた。


「あー、俺を捨てたって奴?なら本当だぜ?」


俺の言葉に、紅子は大きくため息を吐いた。


「それで?あなたはもう協力者探しは止めるってこと?」
「…1年後、何があんのか知らねーけど、俺に助けられたくねーんじゃねぇの?」
「…そう」


ずっと引っかかっていた1年後、って奴も、今となっては関係ないことだ。
…と、いうか、こうなった以上、俺が首突っ込んじゃいけないことだ。
そう思って口にした俺に、紅子は特に何か言うわけでもなく、この場から去っていった。
それからしばらくして、俺の誕生日当日。


「快斗!お誕生日おめでとう!!」


朝っぱらから家の前で青子がクラッカーを鳴らした。


「オメー、朝からうるせぇぞ」
「えー?だって誕生日なんだから、盛り上がらなきゃでしょお?今日は青子が祝ってあげるから!」


あおいちゃんから直接聞いた紅子にこそ話したが、青子には何も言っていない。
けど、何か勘づいたらしい青子は、俺の誕生日を盛大に祝うらしい。
…きっと、こういうのの積み重ねが駄目だったんだろうと今にして思う。
そんなこと今は考えられねーけど、それはつまり、相手があおいちゃん以外だったとしても同じこと思われそうで。
結局俺の相手、青子しかいなくなるじゃねーか、なんてことを思った。


「誕生日なんですって?」


朝イチで少しぶりに紅子が俺に話しかけてきた。


「おー、プレゼントあんなら貰ってやるぜ?」
「…そうね、『今のあなた』にはもう要らないかもしれないプレゼントをあげるわ」
「へ?オメーが俺にプレゼントくれんの?マジで?」


あの紅子が?なんて思って、目見開いて紅子を見たら、弧を描くように笑って、


「1年後、…いいえ、もう半年くらいね。タイムリミットまでそれしかないけど、本当に後悔しないならそのままでいなさい。でも何もしないまま過ごしたあなたが後悔する頃には、あの子はもうここには存在しないわよ」


そう言ってきた。


「オメー、誕生日プレゼントは?」
「あら?ありがたいプレゼントでしょう?あなたは1年と思っていたけど、実際はあともう半年くらいなことがわかったし、その後あの子が存在しなくなることもわかったんだから」


フフ、と可笑しそうに笑いながら紅子は言う。
…いやいやいやいやいや。


「どこらへんがありがてぇプレゼントなんだよ?もう俺には」
「関係ないと思いたいならそれでいいと思うわよ。あなたはきっと、後悔した瞬間に、全てを忘れるんでしょうから」


ー直ぐに全部、忘れるからー


「オメー、マジで何を知ってんの?」
「それは等価交換ね。欲張らないでちょうだい」


そう言って去っていく紅子。
あおいちゃんの言葉と、今の紅子の言葉がダブる。
全てを忘れるなんて、それこそ記憶喪失にでもならない限りあり得るわけがない。
あぁ、でも記憶喪失にでもなるくらいが、今の俺にはちょうどいいのかもしれない。
でも「存在しなくなる」ってのはおかしいよな?
あおいちゃんの存在がなくなるって?
存在しなくなる、ってさ…。


「今さらンなこと言われてもよ…」


今日は俺の誕生日で。
だけど数日前から鳴らなくなった電話は、今日も鳴ることはなかった。

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bkm

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