キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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誕生日直前の、


母の忠告


ブルーワンダーの一件から3日経ち、身体の痛みもなんとか落ち着いて来た頃、


「あれっ?帰ってきてたの?」


お袋がどこかから帰ってきて、


「帰ってきたの?じゃないわよ!寺井さんから『ぼっちゃまが大変です』って連絡着たから、すぐ来たんじゃない!」
「マジかよ、ジイちゃんも心配性だなー」
「心配性だなー、じゃないでしょ!?油断してるんじゃないわよ!」


説教を喰らった…。


「いやあれはさぁ、油断どーのじゃなくて、」
「しかも傷だらけなのにあおいちゃんに会いに行くって聞かなかったみたいじゃない!」
「うわぁ、ジイちゃん全部チクッてんな」


ジイちゃんが親父の息子の俺を大事に思ってくれるのはありがたいことだ。
でもだからってそこまでチクんなくてもよくね?


「私もせっかくこっちに来たんだし、あおいちゃんに会いたいならうちに呼んでまた3人でご飯食べましょ」


それはたぶん、俺らの関係では当たり前のことだと思う。
でも…。


「あー…、あおいちゃん、うちには、ちょっと…」


恐らくあの子は、ここに、少なくとももうしばらくは来ないだろう。


「え?あなたまさか捨てられたの?」
「人聞きの悪ぃこと言うんじゃねぇよ!捨てられてねぇからっ!!」
「じゃあなに?」
「……何とかじゃなく、たぶんしばらくはこっちに来ねぇよ」


そう言って話を終わらせた俺は部屋に戻った。
…ことを後悔したのは翌々日のことだった。


「あれっ?今日外で夕飯食ってくるって言ってなかった?」
「もう行って帰ってきたのよ、米花町から」
「……………はっ?」


一昨日の俺の言動を不審に思ったお袋は、あおいちゃんに直接聞きに行くという暴挙に出た。


「いやいやいや、何やってんだよ、千影さん!」
「それはこっちのセリフでしょ!?あなた何やってるのよっ!」


お袋のこの言い方、間違いない。


「いくら青子ちゃんだからって、自分の恋人が来るのわかってて部屋に入れるってどーいうことよ!?」


あおいちゃん自ら、何故うちに来たくないかを、話したってことだ…。


「だから俺その時熱出してぶっ倒れてて、」
「しかも言い訳するのね?情けない!」
「言い訳じゃなくて事実だろ!?」


俺が言い返すと、お袋は深い深いため息を1つ吐いた。


「あなたねぇ、自分がどれだけ恵まれてるのかもっと考えなさい」
「何?」
「私があの子の立場なら、そんなことする男その場で切り捨てるわ」


フン、と鼻を鳴らしお袋は言う。


「はっきり言って、そんな男要らないもの。一緒にいるだけ時間の無駄」
「…時間の無駄って、」
「男は繰り返すのよ、学習しないから。断言出来るけど、あなた青子ちゃんのことであの子とモメたの、それが初めてじゃないでしょ?」


俺を睨みあげるように見ながらお袋は言う。


「なんでそう思うの?」
「まずその返答がもう前科あるって言ってるようなものよね」
「べ、つに、前科とかそーいうんじゃねぇし、」
「はぁぁぁ…」


俺の言葉にあからさまにクソデカいため息を吐いた。


「誰がどう見ても、あなたに否があるっていうのはわかってるわよね?」
「…まぁ、それは、」
「なのにあの子、私に謝ってきたのよ。『私が心狭いんです』って言ってね」


お袋が人差し指で俺の肩を突きながら言う。


「誰だって弱ってる恋人の看病に行って、自分より先に他の女が看病してたらブチ切れるでしょ。でもね、あの子は『幼馴染なんだから、きっと2人には当たり前のことでそれを許せない自分が悪い』って思ってるのよ!」
「そ、れは、」
「快斗にとって青子ちゃんは性別関係なく仲良くできる『幼馴染』だったとしても、あおいちゃんにとっては『自分以外の女』でしかないのよ。それをもっと理解しなさい」
「…わーってるよ」
「わかってないから言ってるんでしょ!?」
「いっ!?」


お袋は、ピンポイントで先日喰らった擦り傷に爪を立てて来やがった。


「今まだ捨てられてないだけありがたく思いなさいよ?」
「ってぇぇな!何すんだよ!?」


さすがに今のは涙が滲んできた。


「気をつけることね」
「何が!?」
「あの子たぶん、次はないわ」
「…え」
「女の勘、て奴ね。次に同じことあったら、今度こそあなた捨てられるわよ」
「なっ、」
「それが嫌なら、いい加減青子ちゃんとの近すぎる距離をどーにかなさい」


ひらひらと片手をあげ、お袋は自室に消えていった。


「んなこと、俺だってわかってるっての」


痛む傷口と、突かれた肩の感触に、誰に言うわけでもない言葉を漏らした。
でも…。
この時の俺は、わかっているようで、全くわかっていなかったんだと思い知らされるのは数日後のことだった。

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bkm

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