キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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誕生日直前の、


相応しいよりずっと


ブルーワンダーの事件の翌日。
微熱が出たと言ったあおいちゃんのところに朝イチで行くと言った俺は、かけていたアラームの音で目が覚めたわけだが。


「…いっ、てぇ…」


昨日寝る前にはここまで酷くなかったはずの全身の痛みに襲われていた。
…あのガキ、覚えてやがれ。
そんなこと思いながら、痛み止めを飲んであおいちゃんちに向かった。


「い、いらっしゃい!」
「あおいちゃんダイジョーブ?」
「う、うん!大丈夫だよ」


出迎えてくれたあおいちゃんは案外元気そうで。
…ぶっちゃけ元気じゃない、満身創痍なのは俺か、なんて思っていた。


「熱は…、ダイジョブそうだな」
「だから大丈夫だってー」
「あおいちゃんは言っとくけど、前科あるからな?前に俺が救急車呼んだの忘れたとは言わせねーよ?」
「そっ、それは、ほら、……ね?」
「何が『ね?』なの!とにかく熱上がってなかったとしても、今日も大人しくしてなさい」
「…えー」
「何その顔、キスしろって?可愛い」


可愛い顔して俺を見てくるから、そのまま頬に両手を添えてキスし始めた。


「ち、ちょっ…ん…か、風邪っ、んん…、移るよっ!?」
「んー?移したら治るんじゃね?」


現金だと言われようが、こうしてる時は痛みを感じないんだから、自分から止めるわけがない。


「今日はだめ!」
「いっ!?」


っていう邪な心に鉄槌が下ったような瞬間。
恐らくあおいちゃんは俺の身体を押しただけ。
それでもピンポイントで昨日の傷口に強く触れられた俺は、思わず口から声が漏れてしまった。


「ん?何?」
「え?あ、いや、今…」
「どーした?」
「あ、う、ううん、なんにも…」
「そ?ごめん俺喉乾いた」
「あ、ああ、うん、わかった、用意するから座って待ってて」


ヤベー、これ絶対誤魔化しきれねぇって思ったけど、その怪我どーしたなんて聞かれたら答えに詰まる俺としてはバックレるしかないわけで。
傷の痛み、誤魔化しきれない焦りから、内心冷や汗なんてもんじゃねぇ。
あおいちゃんは一瞬怪しんだ顔をしたが、そのまま触れずにいてくれたことで、ふぅ、っと息を吐きながらソファに座った。


「やっぱりちょっと、身体ダルいから寝ようかな、って、」


茶持って戻って来たあおいちゃんがそう言ってきた。
…こうなったらあおいちゃんに寝てもらって、俺も早々に家帰って寝るか。


「快斗くん、添い寝してくれる?」
「え゛っ!?」


てゆう俺の考えをぶっ飛ばす、サキュバス要素高めな今日のあおいちゃんは、そんなお誘いをしてきやがった。
余りの驚きに思わず声が裏返っちまった…。


「添い寝。だめ?」


だからさーあ!
そんな悲しそうな顔して、俺の顔覗き込みながらそういう聞き方してきたら俺の選択は、はいかイエスしかないって言ってんだろっ!?


「快斗くんがただ添い寝してくれたら嬉しい」


小首を傾げて、だめ?ともう1度聞いてきたあおいちゃん。
逆に教えてほしい。
この聞き方されて、駄目って言える奴いんの?
いたとしたら、そいつほんとに男?


「わかった」


ヤバい、俺今腕枕して添い寝とか、完全に腕が死ぬ。
帰りバイク運転できるか怪しいぞこれ…。
でもバイク置いて帰るわけにはいかねーし、


「はい」
「え?な、なに?」


なんて思っていた俺に、先に横になったあおいちゃんが両手を伸ばしてきた。


「快斗くん、ぎゅー!」
「…あ、ああ、うん」


腕枕+ハグかー…。
俺家帰れっかな、今日…。
て、


「あおいちゃん?」
「うん?」
「俺が腕枕しなくていーの?」


ぎゅー、と言ってきたあおいちゃんは、俺にぎゅーしてほしかったわけじゃなく、俺をぎゅーっとしてきた。


「嫌?」
「え?い、いや、俺は別にいいけど、」
「私もこれでいいよ!」


あぁ、そうか、って。
やっぱりこの子はさっきの思わず漏れた声をばっちり聞いていて、俺に詳細を聞いて来ない代わりに、一緒に休ませようとしてんのか。
そう考え至ったら、抗うなんて無駄なこと早々に止めた。


「あおいちゃん」
「んー?」
「…ありがとな」


自分で思っていたよりも遥かに疲労困憊だったらしく。
それはそれは柔らかくて温かい枕を与えられた俺はそのまま爆睡。
あまりにも深く眠りについたため、目を覚ました時、ここがどこだか理解するまでに時間がかかった。


「お、おはよう、ダーリン」


目の前のあおいちゃんは、少し恥ずかしそうにそう言った。
…ダーリンかぁ…。
やっぱりいいなぁ、その響き。
あおいちゃんノリいいから、いつか言ってくれると言い続けた甲斐あったわ。


「おはよ、ハニー」
「よく眠れた?」
「おー、あおいちゃんの抱き枕マジで気持ち良かったわ」


俺の頭を抱えるように寝ていて、腕痺れてねーのかな、とか思いながら答えていた。
ほんと、この子は弱ってる奴にどこまでも優しい。


「怪我してたのバレちまったんだよな?」


俺の言葉に一瞬、目を見開いたあおいちゃん。


「いつ、ケガ、したの?」
「ん?んー…、昨日ちょっと、知り合いのバイクに乗ったんだけど、そのバイクでコケてさ」


キッドってこと以外、この子に嘘は、なるべくなら吐きたくない。
だからってこんなの言葉遊びじゃねーか、と言われようが、決して嘘は吐かないように状況説明をした。


「なんで隠そうとしたの?」


俺の頬に触れながらそう聞いてくるあおいちゃん。
その手は温かくて気持良い。


「だって怪我した、って言ったら、なんで?ってなるだろ?バイクでコケたとかカッコ悪ぃじゃん」
「ケガしたのに痩せ我慢してる方がカッコ悪いと思う」


正直、えっ、て思った。


「別に痩せ我慢してたわけじゃねーけど、」
「カッコ悪いと思う」


ジーッと俺を見つめて言ってくるあおいちゃん。
… あおいちゃんとつきあうようになって、いや、知り合ってから今の今まで、あおいちゃんから俺に向けて「カッコ悪い」っていうのを聞いたことがなかった。
それもそのはずだ。
あおいちゃんは俺が何しててもカッコよく見える魔法にかかってる。
にも関わらず、カッコ悪いって言ってきた(しかも2回…!)


「次からは言います」


そう言った俺の頭を、あおいちゃんは満足そうな顔をしながら撫でてきた。


「あおいちゃんてさ、どんな俺でも受け入れてくれそうだよな」


昨日のジイちゃんの言葉を思い出す。
辛いなら辛いと、痛いなら痛いと言えるような関係になれ、って。
それは確かに当初、俺がこの子に思っていたことで。
でも俺からもなんて、そんなんカッコ悪ぃって思ってるのは俺だけで、あおいちゃんは例えどんなにカッコ悪い俺でも、受け入れてくれそうだと思った。


「どんな快斗くんでも、快斗くんが快斗くんなら、それはもう『私が大好きな快斗くん』なんだから、当たり前じゃない?」


何言ってんだオメー、みたいな顔で、あおいちゃんは言う。
俺が俺であるなら、受け入れて当たり前だ、って、そう言った。


「だいたいさー、『受け入れる』ってのもおかしいよ」
「…何がおかしい?」
「だって好きな人のことだよ?それは『受け入れる』んじゃなくて、『知っていく』んでしょ?それはもう、受け入れる受け入れないとか、そういう問題じゃないと思うんだよなぁ」


どこか考え考えでも、しっかりと話すあおいちゃん。
…ジイちゃん、これだぜ?
ジイちゃんが言う、どこかにいるかもしれない「俺に相応しい女」って奴よりもずっと、いい女だと思わねーか?


「例えばの話し、」


なんでそんなこと聞いたのかはわからない。
でもフッと、そんなこと聞いていた。


「知りたくなかったようなこともあるだろ?それでも知ってしまったとしたら、あおいちゃんならどうする?」
「え?快斗くんのことで?」
「そう。俺のことで。例えばの話しね」
「…そんなことまで教えてくれるようになったんだぁ、って思う?」
「あおいちゃんてマジでポジティブだよな」


でもそういうところがこの子らしくあり、俺が好きなところでもあるんだけど。


「快斗くんは違うの?」
「俺?」
「うん。私のことで知りたくなかったようなことを知ってしまったとして。どう思う?」


別に「そのこと」を指してるわけじゃないのはわかってる。
でも、


「やっと言ってくれたかー、って思う」


口を吐いて出たのはそんな言葉だった。


「私の答えと大して変わらないじゃん!」
「ははっ、確かに」


キッドのことを言わない俺と、1年後のことを言わないあおいちゃん。
でも俺は1年後に何かがあるということを知っていて黙ってるし、あるいはあおいちゃんも、=キッドとまではいかずとも、俺が何かを隠していることに気づいていながらも、黙ってるのかも、しれない。
でもそれはたぶん、どちらも騙そうとしているからじゃなくて。
むしろそれは真逆なことで。
少なくとも俺は、そうであるわけで。
そして俺の知るこの子もきっと、そういう子で。


「案外俺たち、似た者同士なのかもなー」


そんなことを口にしていた。

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bkm

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