キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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誕生日直前の、


似た者親子


「よろしいですか?滲みますよ?」
「…いっっ!?ってぇえ…!!」


まさか傷だらけで潮留から江古田まで帰るわけにはいかず、ジイちゃんに回収さるのを待っていた俺。
無事回収されたはいいが、俺の姿にジイちゃんがぶったまげて、急遽最寄りのセーフハウスに寄り治療することとなった。


「だから滲みます、と、」
「わーってるよ!」


名探偵のせいで、擦り傷だらけになった俺にまずは消毒、と、ジイちゃんは手当てを始めたんだが、これがもう滲みる滲みる。
これしばらく風呂が地獄だな…。
温泉旅行前じゃなくて良かったぜ…。


「とりあえず手当てはしましたが、今日はこのままここに泊まって、しばらくは安静にしててくださいね」
「あ、俺明日朝イチで出掛けなきゃだから帰るわ」
「ぼっちゃま!」


ジイちゃんの回収後、車内であおいちゃんとメールのやり取りをしていたら、現在微熱だと判明。
完全に風邪じゃねーか、と、明日行くと返信したのはついさっきのこと。


「もっとご自分の体を労って、」
「いやそれがさぁ、あおいちゃんが熱出したっぽくて見に行くって言ったんだよな」


ほんとに微熱なだけだから大丈夫、と、体温計の写真付きで着た。
その体温は36.8度を指していて、普段が35度後半から36度前半な子だから、本当に微熱の域ではあった。
その微熱で済めばいいけど、何せ1人暮らしな子だ。
放っといたらどーなるかわかんねぇし、俺も別に血がダラダラ出てるわけでもねぇし。
そりゃあ服が擦れて痛ぇし、打ち身の場所も地味に痛むけど、これくらいはもう大したことじゃねぇし。


「差し出がましいようですが、言わせて頂きます」


なんて思ったのは俺だけなようで。


「ぼっちゃまが芳賀あおい様と交際されているのは存じ上げておりますが、私は反対です」


俺を真正面に見据えてジイちゃんは言ってきた。


「ぼっちゃまが大変な状況で、そこまで無理を強いられるような方、寺井はぼっちゃまのお相手として認めることができません」


ジイちゃんはキッド関連のことはそりゃあ親身になって話を聞いてくれるが、俺のプライベートに口出すことはない。
…にも関わらず、はっきりとそう言ってきた。


「大変な状況っつっても、あおいちゃんはそれを知らないわけだし、」
「ですがこれが仮にぼっちゃまの幼馴染の方でしたら、どうですか?」
「幼馴染、って、青子か?」
「ええ。あの方にでしたらぼっちゃまはツラいならツラいと仰られるでしょう」


ジイちゃんの言いたいことはわかる。
わかりは、する。


「いやでもそれは青子だからであって、あおいちゃんはそーいうんじゃねぇって言うか、」
「ですから私は中森様の方がぼっちゃまに相応しいお相手だと、」
「勘弁してくれよ。青子となんて考えらんねーって」


あおいちゃんを前にした時、別に無理にカッコつけてるとか、そういうことはしていない(俺の性格上そんなん長続きしねぇし)
でもやっぱりどこか…、あの子の「王子様」であり続けたいと言う気持ちは確実にあるわけで。
じゃあやっぱり言えないこととか、出てきてしまうわけで…。


「年の功で申し上げますが、自分の状態、状況を打ち明けられないような方とは上手くいきません」
「いやだからそれはさぁ、」
「あの方は駄目です」


どう言いくるめようかと考えていた俺に、ジイちゃんははっきりとノーを示した。


「ジイちゃんはあおいちゃんのことを知らねーから、」
「千影様からお話を伺った後で、幾らか調べさせて頂きました」
「えっ?調べたの!?」
「はい。だからこそ今、申し上げてるんです。あの方は駄目です」


ジイちゃんは至極真剣な顔で俺を見てきた。


「何それ。親がいねぇからとか言うんじゃねーだろうな?」
「そう言ったことではありません。…ぼっちゃまには黙っていましたが、盗一様が私に千影様を初めて紹介してくださった時も、私は猛反対致しました」
「…え?」


ジイちゃんは目を伏せながら言う。
…千影さんとジイちゃんは、仲がいいわけじゃねぇが、それなりのつきあいがあるはずだ。
でも最初は猛反対していた?


「私は盗一様やぼっちゃまよりも遥かに多くの人間を見てきております。だからこそ、千影様を紹介された時、この方は危険だと感じました。…最も紹介された時は既に遅く、ご結婚を決めておられたんですが…」


確か千影さんの話だと、親父と出逢ったその日にプロポーズされてそのまま一緒にいるようになった、って話だったよな?
怪盗から足を洗わせるため、親父がキッドになった、って。


「初めて紹介された時から、盗一様は千影様のためならば命を賭すことも厭わないのだと、だからこそ、この方は危険だと思いました。…もしあの時、私がもっと反対していれば、今もまだ、盗一様は生きておられたかもしれない、と今でも思います」


親父の死は、怪盗キッドとしてパンドラを狙うようになったから起こったこと。
…つまり、お袋と出逢ってなけりゃ、もしくは、お袋から怪盗の仕事を継承していなけりゃ、今も生きていた、の、かも、しれない。


「ぼっちゃまと芳賀様は、あの時の盗一様と千影様を思い出してしまうんです」


けどそれは、もう過ぎ去った時のイフの話でしかない。


「あおいちゃんは千影さんと似ても似つかねーだろ」


そもそも親父とお袋が出逢っていなかったり、親父が怪盗キッドになっていなければ、俺は生まれてこなかった。


「見た目や能力の問題ではなく、」
「ジイちゃんの言いたいことはわかるよ」


ジイちゃんの話しを、片手を上げながら遮った。


「でもさぁ、きっと親父も言ったと思うぜ?自分だけのトクベツな宝石を見つけちまったんだから仕方ねぇ、ってさ」


俺の言葉に、ジイちゃんは深い深いため息を吐いた。


「本当に、共に過ごせた時間は短かったはずなのに、ぼっちゃまは間違いなく、盗一様の血を引いておられます」
「1人の女への入れ込み方がソックリ、てか?」
「この世にはきっと、より相応しいお相手が存在するというのに、あえて難しいお相手を選んでしまうあたり本当にそっくりです」
「ははっ!親子だから仕方ねぇよ」


そこまで言って、ジイちゃんはもう1度ため息を吐いた。


「お止めしても聞き入れてもらえないところも、」
「ソックリだろーなぁ!」


ケケケ、と笑う俺を、珍しくジイちゃんはどこか呆れたような顔で見てきた。


「ならばもう、口出しは致しません。ですが今後も芳賀様と一緒におられるつもりなら、せめて、辛いなら辛いと、痛いなら痛いと言える関係になってください」


そこまで言った後で、ぼっちゃまにまで何かあったら寺井は盗一様に顔向けできません!と、いつものアレが始まった…。


「別に痩せ我慢してるわけじゃねーけど、…カッコ悪ぃとこ、見せたくねーじゃん」
「盗一様のご子息であるぼっちゃまに、格好悪いところなんてありますか?」
「…ジイちゃん、たぶんあおいちゃんと話し合うわ」


分厚い王子様フィルター(もしくは王子様に見える魔法)がかかってるあおいちゃんと、親父フィルターがかかってるジイちゃんは、案外気が合うかもしれない。
そんなことを思った。

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bkm

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