■あなたを知っていく
「…んっ…」
快斗くんをぎゅってして横になったら、見事に2人で爆睡(主に快斗くんが熟睡)
快斗くんの体温は高めだから、くっついてると気持良くなっちゃうから仕方ないと思う。
「…あ、れ?俺…?」
それからどのくらい経ったか、腕の中の快斗くんが身動ぎした。
「お、おはよう、ダーリン」
「…………」
快斗くんは朝が弱いって言ってるわりに、一緒に寝る時はいつも私より早く起きてる。
だから目覚めの挨拶に「おはよう、ハニー」って言われることはあっても、私が「おはよう、ダーリン」なんて言えること、今までなかったわけだけど。
今初めて快斗くんのまねっ子して、ダーリンとか言ってしまったけど、快斗くんは寝起きでボーッとした顔して私を見ているだけだった。
…この顔も珍しい!
「おはよ、ハニー」
しばらくぼんやりとした目で私を見ていた快斗くんは、ようやく覚醒したのか笑いながらそう言った。
「よく眠れた?」
「おー、あおいちゃんの抱き枕マジで気持ち良かったわ」
ははっ、て笑う快斗くんは、朝来た時より確かに少し元気そうに見えた。
「ありがとな」
「え?」
「あおいちゃん、俺を休ませようとしてくれたんだろ?」
ふわっと私の頬に触れる快斗くんは、優しい顔で笑っていた。
「怪我してたのバレちまったんだよな?」
どこか困ったような、でもちょっと嬉しそうにも見える顔で快斗くんは言う。
「いつ、ケガ、したの?」
「ん?んー…、昨日ちょっと、知り合いのバイクに乗ったんだけど、そのバイクでコケてさ」
快斗くんはバイクでコケた、って言う言い方をしてるけど、やっぱり昨日、バイクから飛び降りて土手にスライディングしたんだと思った。
「大丈夫?」
「おー、怪我自体はダイジョーブなんだけどな。打ち身の場所が実は地味に痛かったりしてさ」
私の頬に快斗くんが触れてるように、私も快斗くんの頬に触れた。
「なんで隠そうとしたの?」
「だって怪我した、って言ったら、なんで?ってなるだろ?バイクでコケたとかカッコ悪ぃじゃん」
「ケガしたのに痩せ我慢してる方がカッコ悪いと思う」
「別に痩せ我慢してたわけじゃねーけど、」
「カッコ悪いと思う」
ジーッと快斗くんを見つめて言ったら、
「…次からは言います」
目を閉じながらそう言ってくれた。
そう言った快斗くんの頭を撫でたら、目を細めて私を見てきた。
「あおいちゃんてさ、どんな俺でも受け入れてくれそうだよな」
快斗くんの言う「どんな俺」って言うのは、怪盗キッドのことを指しているのか、私にはわからないけど。
「当たり前じゃんね?」
「当たり前なの?すげーね」
「なんで?」
「え?なんで、って、」
「どんな快斗くんでも、快斗くんが快斗くんなら、それはもう『私が大好きな快斗くん』なんだから、当たり前じゃない?」
自然とそう口から出ていた。
私の言葉に、快斗くんは何度も瞬きをした。
「だいたいさー、『受け入れる』ってのもおかしいよ」
「…何がおかしい?」
「だって好きな人のことだよ?それは『受け入れる』んじゃなくて、『知っていく』んでしょ?」
私は前の世界からの快斗くんマニアだ。
でもその私でもマックスで快斗くんのことを知っているわけじゃなくて、この世界に来て、ちょっとずつ「リアルな快斗くん」を知っていってると思う。
それはもう、受け入れる受け入れないとか、そういう問題じゃないと思うんだよなぁ。
「俺の彼女が天使すぎて今すげーハグしたい」
「え?天使?」
「でも身体痛くてできねー…」
「じ、じゃあ私がぎゅーする!」
ぎゅって快斗くんを抱き締めたら、快斗くんのおでこが私の顎の辺りにきた。
「例えばの話し、」
その体制で快斗くんは話し始めるから、声が少しくぐもっていた。
「知りたくなかったようなこともあるだろ?それでも知ってしまったとしたら、あおいちゃんならどうする?」
「え?快斗くんのことで?」
「そう。俺のことで。例えばの話しね」
それこそ例えば、快斗くんのこの話が怪盗キッドのことを指しているとして。
でも私はそれを知っているわけだから、
「そんなことまで教えてくれるようになったんだぁ、って思う?」
それを自分の口から言ってくれるって言うのは、喜ばしいことだと思う。
そう思って言った私に、
「あおいちゃんてマジでポジティブだよな」
快斗くんが笑ったのがわかった。
「快斗くんは違うの?」
「俺?」
「うん。私のことで知りたくなかったようなことを知ってしまったとして。どう思う?」
そう尋ねた私に、
「やっと言ってくれたかー、って思う」
快斗くんは一瞬黙った後でそう答えた。
「私の答えと大して変わらないじゃん!」
「ははっ、確かに」
似た者同士なのかもな、と快斗くんが笑う。
快斗くんと私が似た者同士っていうのはちょっと違うと思うけど。
それでも。
どんな道を選んでも、似たような答えを導き出せてたらいいなぁ、と思った。
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bkm