■甘えていいよ
くしゃみが止まらない私は、快斗くんから今日は家にいるようにって言われた言葉通り、園子のお誘いを断り自宅待機することにした。
怪盗キッドの犯行なわけだから、もちろんテレビ中継もしていて、テレビを見ていたらヘリから吊られてるキッド人形がバレて、じゃああの吊っていたヘリがキッド!?みたいになって。
でもそのヘリと同じナンバーのヘリがゴロゴロいて。
画面越しにも伝わるほど、あっ!と言う間に、現場は大パニック。
その模様を放映していたテレビもしばらくしたら「放送が中断しております。しばらくお待ちください」って画面が流れ始めた。
…て、ことは、快斗くんは無事犯行を終えたのかな?
一応、くしゃみ多少治まってきたとメールをした。
そしてそこから2時間くらい経った時、快斗くんから返信がきた。
from:黒羽快斗
sub:熱は?
本文:くしゃみ落ち着いてきたなら良かったけど、熱は?ないの?ダイジョーブ?
実はこの段階で、ちょっといつもよりダルいかなぁ、くらいなところがあって、あえて熱は計らなかったわけだけど。
大丈夫、って送ったら、熱を計った後の体温表示されてる体温計の写真を要求されるっていうなかなかな心配性を発揮された。
「あ、微熱だ…」
まぁ…微熱だし、このくらいなら大丈夫、と、快斗くんにメールしたんだけど。
from:黒羽快斗
sub:だめ
本文:明日朝イチで行く
とだけ、返信が着た。
…でもさ、ブルーワンダーの事件、てことは、最後快斗くん、土手にスライディングしたんじゃないかなぁ…?
新一くん(てゆーかコナンくんだけど)が後先考えず、タンクに穴開けちゃうから、ガソリンに引火してバイクが爆発してさ。
逃げるために爆発直前にバイクから飛び降りる必要があったはずで…。
「ケガ、してないといいけど…」
ほんとに微熱だから来なくても大丈夫だよー、って送ったら、来てほしくないの?って言う、ちょっとおこなメールが着てしまったから、それ以上は何も言わなかった。
「い、いらっしゃい!」
「あおいちゃんダイジョーブ?」
翌朝、お昼が近づいた頃、快斗くんがやってきた。
「う、うん!大丈夫だよ」
「熱は…、ダイジョブそうだな」
ペタリ、と私の額に手を当てて、体温を確認する快斗くん。
「だから大丈夫だってー」
「あおいちゃんは言っとくけど、前科あるからな?前に俺が救急車呼んだの忘れたとは言わせねーよ?」
「そっ、それは、ほら、……ね?」
「何が『ね?』なの!とにかく熱上がってなかったとしても、今日も大人しくしてなさい」
「…えー」
「何その顔、キスしろって?可愛い」
えー、ってタコ口にしたら、キス魔には違う見え方をしたようで、快斗くんのちゅっちゅっタイムに突入してしまった。
「ち、ちょっ…ん…か、風邪っ、んん…、移るよっ!?」
「んー?移したら治るんじゃね?」
ちゅっちゅっされてる私は、言葉が途切れ途切れなのに、ちゅっちゅっしてる快斗くんはずいぶんとあっさりと言葉を口にした。
「今日はだめ!」
「いっ!?」
「え?」
ちゅうしてくる快斗くんの身体から離れようと、グイッと快斗くんの身体を押した。
あくまで押しただけ。
なんだ、けど…。
「…ん?何?」
「え?あ、いや、今…」
今絶対、快斗くんから「痛い」って繋がりそうな言葉が出た。
のに、次の瞬間には快斗くんは、は?俺そんなこと言ってないけど?みたいな涼し気な顔をしていた。
「どーした?」
「あ、う、ううん、なんにも…」
「そ?」
ごめん俺喉乾いたー、って快斗くんは話しを逸した。
飲み物を用意するからと言って、ソファに座って待ってもらうことにした。
…快斗くん、やっぱり土手にスライディングしたんだ!
それできっと…打ち身?か、何かのケガしたに違いない!
てゆーかさ、さっき絶対「痛い」って言いそうになってたのに、アレを丸っとなかったことにするなんて、さすがに無理あるって!!
でもなかったことにしないと、え?そこどうしたの?って聞かなきゃいけないし、そんなの答えられるわけないし、じゃあやっぱりなかったことになるの!?
「お、お茶です…?」
「おー、ありがと」
とりあえず麦茶を出したけど、えー、どうしようこれどーしたらいいの。
待って、考えて。
よく考えて。
快斗くんきっとケガしてるから、安静にさせなきゃでしょ?てことは横になってもらった方がよくない?でもさっきのアレが、なかったことになってるのに、いきなり横になってとか言い出したりしたら…ハッ!
「ね、ねぇ、」
「うん?」
「やっぱりちょっと、身体ダルいから寝ようかな、って、」
「あー、うん、それがいいな」
「快斗くん、添い寝してくれる?」
「え゛っ!?」
私が具合悪いんじゃ、って心配で快斗くんがうちにやって来たのを思い出した私は、そこをふんだんにアピールした。
「添い寝。だめ?」
「だっ、め、じゃねぇ、けど、」
「大丈夫。具合悪いからにゃーにゃーしないよ」
「う、うん…」
「快斗くんがただ添い寝してくれたら嬉しい」
「………わかった」
恐らく今の一瞬でいろんなことを考えたらしい快斗くんは、どこか渋い顔をしたけど、それでもオーケーと言ってくれた。
「はい」
「え?な、なに?」
先に横になって、快斗くんに両手を伸ばす。
「快斗くん、ぎゅー!」
「…あ、ああ、うん、…て、あおいちゃん?」
「うん?」
「俺が腕枕しなくていーの?」
快斗くんをぎゅってして、そのまま中道くんが教えてくれた「おっぱい枕」をした(中道くんがおっぱいを枕にするとヤベー気持ちいいから、黒羽くんにしてあげなよって教えてくれた)
「嫌?」
「え?い、いや、俺は別にいいけど、」
「私もこれでいいよ!」
おっぱいに顔を埋めてるから、快斗くんの表情は見えないけど、たぶん声の感じから、顔全体にクエスチョンマークが飛んでると思う。
「…俺も寝そー…」
「うん、寝よう」
「あおいちゃん」
「んー?」
「…ありがとな」
そう言うだけ言うと、快斗くんは寝息を立て始めた。
快斗くんがキッドになるということを、私が止められるわけがなく。
ケガしないように助けることも、できるわけがなく。
ならせめて、ケガしてしまった時は、甘えてくれてもいいのになー、なんて。
そんなこと思ってしまうわけで。
ぎゅって抱き締めた先の快斗くんが、気持ち良さそうにたてる寝息に、早く傷が良くなるようにと、ひっそりと願った。
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bkm