キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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怪盗キッドの驚異空中歩行


伝言


「あおいちゃん風邪引いたの?」
「んー…、風邪、って言うか…へくちっ!…くしゃみがちょっと?」


ブルーワンダー犯行当日の午前、少し時間が出来たから数日ぶりにあおいちゃんとゆっくり電話しようかと思ったら、あおいちゃんは風邪気味のようだった。
…何今のくしゃみ。
くしゃみも可愛いとかなんなんだ、この子。


「昨日夜に潮留行くって言ってたもんな。冷えたんじゃねーの?」
「んー…、かなぁ?へくちっ!」


くしゃみだけなんだけど、とあおいちゃんは言う。
けどそこから悪化しても大変だし、何より今日は潮留に行っても意味がない。


「今日は家でゆっくりしてなよ」
「んー…」
「俺午後から用あるから今日は行けねーけど、明日ヤバいようなら朝イチで行くから連絡して」
「や、それは大丈夫だけど」
「連絡して」
「あ、うん…へくちっ!」


電話の間中、可愛いくしゃみを繰り出していたあおいちゃん。
…これ明日念のため行った方がいいな。
今日は楽勝だし、明日朝イチで行けるよう準備しとくか。
そう思い、念のための風邪薬とか明日あおいちゃんちに向かうための準備をした後で、予定通り鈴木次郎吉になって潮留に向かった。
全ての事柄において、どうしても予定通りに行かないということはあるもので。
今回は生憎雨が当たってきやがった。
けどまぁあとは順調そのもの。
予定通り、ブルーワンダーを館内に回収。
警官連中を上手いこと言いくるめてサクッと持ち去ることに成功。


「フ…フフフ…」


余りの呆気なさに思わず笑いが込み上げた。
その時、


「何がおかしいの?怪盗キッドさん」


サイドカーから声が聞こえた。


「な、何をたわけたことを!わしが笑ったのはキッドからその宝石を守り通せたからで、」
「バーロー。オメーが今日博物館にこのバイクで乗りつけた時点で見抜いてたよ」


声の主は、いつの間にかサイドカーに乗り込み息を潜めていた探偵ボウズ、江戸川コナンだ。
ボウズは次郎吉じーさんがコンタクトレンズをしているにも関わらずゴーグルをせずにバイクでやってきた時点で気づいたらしい。
…あのじーさん古稀すぎてんのにコンタクトレンズなんかしちゃってんのかよ。
ジジイならジジイらしく老眼鏡かけてろ…。
そしてボウズは、今回俺が仕掛けたマジックのネタばらしを始める。
…ほんと、ガキのくせにオメーは誰より名探偵だよ。


「夕べの派手なデモンストレーションも、空から来ると見せかけ地上の検問を緩め鈴木次郎吉に変装して、ノーチェックで来るための伏線だったんだろうが、迂闊だったな?ゴーグルを着けずにバイクで乗りつけるオメーがテレビ画面にばっちり映ってたぜ?」
「いやいや、ゴーグルを着け忘れたのではなく、着けられなかったんだ。変装が崩れちまうからな!」


変装を解いた俺に、ボウズは麻酔針入りのヤベー時計を向けてきた。
もちろん、気にせずそのままバイクを走らせ続ける。


「さては7番の上にもう1枚本当の番号のステッカーを貼ってたな?飛び立つと風で剥がれるように軽くのりづけして」
「あぁ、おかげでヘリのパイロットは疑いもせず乗り込んでくれたよ。後で俺の仲間のヘリとして追い回されるとも知らずにな。そして混乱に乗じて仲間はトンズラ!まさにブルーワンダー。大空の奇跡の脱出、ってわけだ」
「大空?ブルーワンダーのブルーは大海のブルーだぜ?」
「同じじゃねーか!海のブルーは空のブルーが写ってんだろ?探偵や怪盗と一緒さ。天と地に別れているようで、元をただせば人が仕舞いこんでいる何かを好奇心という鍵を使ってこじ開ける無礼者同士」
「バーロー!空と海が青いのは色の散乱と反射。全く性質が異なる理由によるもんだ!一緒にすんな!その証拠に水溜りは青くねーだろうが!」


こんなガキのくせに、探偵なんかしてるから夢も何もありゃしねー。
もう少し夢でも見りゃあいいものを。
けどまぁ、いいや。
ちょうどコイツと話がしたかった。


「おい、名探偵!オメー、この前俺に質問してきたよな?今度は俺の番といこうじゃねぇか」
「何?」
「オメーは工藤新一の行方を知ってんのか?」


バイクを走らせてる俺はこの小さな名探偵の顔を正確には読み取れないが、目の端に映るコイツの顔色が変わった気がした。


「知っていようがいまいが、お前には関係ねぇことだろ?」
「そうか、知ってんだな」
「…」


俺の問いにボウズは答えない。


「工藤新一にお前が何の用だ?」
「おいおい、今日の質問ターンは俺だろ?アイツは何で今、表舞台から姿を消してる?」
「お前に教えてやる義理はない」
「なるほど?公には言えない、大方クビ突っ込んじゃいけねー犯罪組織かなんかにクビ突っ込んで、出るに出られねぇ、ってところか」
「…だとしても、怪盗キッド。お前には関係ねぇはずだ」


まるで絞り出すような声で、探偵ボウズは言った。


「ま、確かに?俺には関係ねーんだけどな。でもよ、名探偵。工藤新一に伝えておいてくんねーか?」
「は?」
「後悔したくねぇなら、3ヶ月以内に俺の前に出て来いってな!」
「…後悔?なんのことだ?」
「さてね。オメーも『探偵』なら推理してみればいいじゃねぇか」


俺の言葉に名探偵は改めて時計型麻酔銃を構え直した。


「…ほんとにその麻酔銃で俺を捕まえる気か?このスピードで俺が寝ちまったら大クラッシュだぜ?」
「このバイクが止まるまで撃たねーし、お前の身柄は俺の連絡でこっちに向かってる中森警部が」
「フッ、誰が止めるかよ。それに次郎吉のじーさんが自慢してたろ?」
「あ?」
「このバイクには、スピードアップの細工が施してある、ってな」
「なっ!?」


俺の言葉に、次の手を探すかのように辺りを見回すボウズ。
…じゃあな、名探偵。
その宝石は預けたぜ?
結局目当ての宝石じゃなかったし、今回は売られた喧嘩を買っただけだからな。
そしてそのまま、走行中にサイドカーを切り離す。
念のため、速度が落ちていくサイドカーに乗ってるボウズの安否を、バイクを止めてみたものの…。
いつの間にかガソリンタンクに穴を開けやがって、サイドカーのボディを使って火花を散らし引火させようとしていた。


「あんニャロォ、バイクごと燃やす気かよ!?…あ、あ、っああーー!!!」


バイクに引火直前、土手に転がり落ちるように滑り混んだ。


「…けほっ」


咄嗟の判断で、ダミーのキッドを空に飛ばすことが出来たものの、全身打ち身と擦り傷だらけになった。
…これさすがに明日あおいちゃんとこ行ったらツッコミ入れられちまうよな。
あの子の風邪が悪化してないことを祈りつつ、傷だらけの身体でジイちゃんからの連絡を待った。

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bkm

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