キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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怪盗キッドの驚異空中歩行


魔女への貢物


紅子の摩訶不思議な、魔法と言わざるを得ないような時間を過ごした翌々日の登校日。
朝から紅子を捕まえて、机の上に3つ、桃缶を並べた。


「何よこれ」
「優しい快斗くんがオメーにくれてやるんだ、って」
「要らないんだけど」
「オメーの好物なんだろ?まぁ貰っとけよ。ほら、ビニール袋もやるから」


そう言いながらビニール袋を差し出すと、紅子は一度俺を睨みつけた後で


「何が目的?」


桃缶に視線を落としながら、そう聞いてきた。


「ちょっと聞きてぇことがあってさ」
「何?」
「この間のアレ。オメーの言い方だと、俺が来るの遅かったから俺とはあんな短時間だったんだよな?でも俺が行く前にもういたんだろ?紅子、オメーは何を話した?」


俺の言葉に、紅子は頬づえをつきながら大きくため息を吐いた。


「こんなものじゃ騙されないわ」
「は!?オメー、桃缶好物じゃねーの!?」
「好きなんて誰が言ったのかしら」
「えっ、でも桃缶の対価って自分で、」
「あれはあの時だけよ」


フン!と鼻で笑う紅子。
…くっそー、これで紅子に楽に聞けると薄っすら期待しちまったけど、桃缶はあおいちゃん専用アイテムかよ、やっぱり。


「ケチくせーな、ちょっとくらい教えてくれてもいいだろ。だいたい、肝心のあおいちゃんもなーんにも覚えてねーし、今となっては気づかないうちに変な薬でも嗅がされて幻覚見たとしか思えねーしよ」


ブツブツと誰に言うわけでもなく呟いちまった俺に、紅子はもう一度あからさまにため息を吐いた。


「別に大したこと話してないわ。そもそも成功する可能性も低かったことだし」
「…どゆこと?」


俺の言葉に、紅子は頬づえを止めて、真っ直ぐ真正面に俺を見据えた。


「元々どこにもいないと思っていたってことよ。今回成功したのは、あの子のいる未来が、たった1つだけど存在していたからね」


紅子は言う。
だからあのあおいちゃんを呼び寄せることができたのだ、と。
……つまり?


「オメーの言い方だと10年後は死んでるみたいに聞こえんだけど?」
「…」


俺の言葉に、紅子はだんまりを決めた。


「待て待て待て待て。オメー、何言ってんだよ?俺にもよくわかるように話せ」


あのあおいちゃんは言っていた。
未来はいくつも枝分かれしている、と。
そして紅子は、あおいちゃんがいる未来はたった1つだけど存在していると言った。
…どういうことだ?


「彼女、よほどあなたに苦労してほしくないのか、私にも詳細は一切語らなかったけど」
「え?」
「以前あなたに言ったわよね?その覚悟も力もないなら、見て見ぬふりをするのが賢い生き方よ、と」


ビニール袋に桃缶を詰め直し、そのビニール袋ごと俺に突き返しながら紅子は言った。
何かを思い、考えるよりも先に、その紅子の手首を掴み、


「オメーには俺がその程度の覚悟も力もないような男に思えてるってわけか?」


挑発するようにそう言っていた。


「あなたが思うよりもずっと、あなたが望む未来は面倒ってことよ」
「上等じゃねーか。簡単に開く扉には興味ねーんだよ。難攻不落な物ほど燃えるだろ?」
「…愚かな男」
「知ってるよ」


俺の言葉に、再び紅子はため息を吐いた。


「私も詳細は知らない。でもこの前も言ったけど、今あなたがすべきは『協力者』を探し出すことよ」
「それなんだけどさ」
「何?」
「あのあおいちゃんは『協力者を作る』って言ったんだよ。『協力者を見つける』じゃなくな。つまりもう、俺が出逢ってる奴の中にいると思わねーか?」
「…一理あるわね」
「だろ?あ、ちなみに俺の中の候補Aはオメーだからな?」
「お断りするわ。メリットが何もないもの」


手を離してちょうだい、と言いながら、大袈裟に俺の手を振り払った紅子。


「でもオメーは今、こうやって俺と会話してんのは、協力者候補としてあまりあるよな?ほら、コレはコレでやるから持ってけよ」


そう言って、もう一度紅子に桃缶の入ったビニール袋を渡した。


「今日はあなたの前払いに対する対価よ」
「前払い?」
「…以前あなたに頼んだ本をヒントに、今回の魔法が成功したから」
「あぁ…」
「だから作るなら、私以外の協力者を作ることね」
「うーん、候補Bは今どこで何してんのかわかんねーからなぁ」


あおいちゃんの未来のことに関する俺の協力者。
紅子以外に、今現在で俺が考えられる奴は1人しかいねぇ。


「あてがあるなら、まずそこを当たることね」
「だーから、今どこで何してんのかわかんねーんだ、って」
「じゃあ他を探しなさい」
「つってもよぉ、」
「くどいようだけど、あれは数多ある可能性の中にたった1つしか存在していなかった。モタモタしてると掴み損ねるわよ」


それだけ言うと、仕方ないから貰ってあげる、と、俺の前から去って行った紅子。


「チャンスの神様は前髪しかなくて後ろツルッパゲなんだっけか」
「は?ハゲの神様?快斗、何言ってんの?」
「可愛い彼女に会いてぇな、って話!」


とりあえず今の会話でわかったのは、紅子にとっても10年後の(もしくは1年後の)あおいちゃんは、ここにいねー可能性の方が高いってことだ。
…それは下手したら死を連想させるようなものでの別離の可能性すらあるように取れた。
仮にそれを前提として考えた場合、じゃあなんでそんなこと知ってる、って、余命宣告でもされたとかじゃない限り、わかるわけねーし。
事件にこそ巻き込まれやすいけど、別に不健康な子じゃねーし、ぶっちゃけ余命宣告とかの深刻な病気とは無縁な健康な子だと思うし。


「あー!もう!!わかんねぇな!!」
「そうか、黒羽。これがわからないと認めるのはいいが、授業中だ。わざわざ声に出すな」
「うぃーっす。すんませーん」


とにかく、本人と話してみるかと、授業の終わりを待つことにした。

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bkm

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