キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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10年後の異邦人


桃の缶詰


未来のあおいちゃんが消えた。
と、思った直後、それまで10年後のあおいちゃんがいた場所に、今のあおいちゃんが現れた(なんで直ぐわかったか、って、俺が今のあおいちゃんをわからないはずねーし、何より着てる服が俺も知ってるあおいちゃんお気に入りの服だった)


「っと!…あおいちゃん?あおいちゃん!」
「気を失ってるだけよ」


現れたと思ったら、ドサッと倒れそうになって、倒れる寸前に抱き寄せた。
成功したのよ、と、紅子が冷静に今の状況らしいことを口にする。
紅子曰く、未来のあおいちゃんを呼んだというより、今のあおいちゃんと、さっきいたあおいちゃんの存在する場所を入れ替えた、って言うのに近い現象らしい。
って、言われても、だ。


「俺もう、今自分の身に起こったことすら信じられねーんたけど、」


思わず本音が漏れた。


「自分の目で見た物は信じるタイプかと思ったけど?」
「そりゃあまぁ、そーだけど、だからってオメー、さすがに今のは…」
「あなたがどう思おうが構わないけど。でもこれではっきりしたでしょう」


あおいちゃんを抱き寄せながら、フローリングの床に膝をついた俺を、見下ろすように紅子は見てきた。


「あの未来を手繰り寄せたいのなら、あなたの協力者を見つけることね」
「…協力者、つってもよぉ…」
「あれはあくまでも可能性の1つでしかないんだから、あなたが動かなければ今日のあれは、夢幻で終わるだけよ」


じゃあ借りは返したから、と紅子は言う。


「そもそもオメーがここまでするって、あおいちゃんにどんな借り作ったんだよ?」


帰ろうと俺たちに背を向けていた紅子は、チラッと俺の方へ視線を投げた。


「別に大したことじゃないわ」
「いやでも、」
「この前体調を崩した時、その子がお見舞いに桃の缶詰を持ってきた、そのお礼よ」
「……へっ?」


じゃあね、と言いながら、フン、と髪を払い、紅子は去って行った。
…じゃあ何か?
魔法っていうのは何でもアリなのかよ?って言うくらいの奇妙奇天烈、摩訶不思議な、どー考えても頭がイカれたとしか思えない時間は、桃の缶詰の対価だってのか?


「オメー、どんだけ高ぇ缶詰やったんだよ…」


俺の腕の中で未だ気を失っているあおいちゃんに思わず溢れた言葉。
だってそうだろう?
アイツ、俺が情報聞き出す対価に盗みやれって言ったんだぞ?
そんな女が桃の缶詰で動いただと?
フザケてんのか?
さっきのあの時間と言い、やっぱり俺ドッキリか何かで騙されてんじゃねーのか?


「…んっ…」


俺の働き≦桃の缶詰に上手く言葉で言い表わせない敗北感を感じていた俺の耳に、あおいちゃんの声が聞こえてきた。


「あおいちゃん、起きた?」
「…あ、れ…?わた、し…?」


未来のあおいちゃんは、きっと覚えてない、と言っていたが、その言葉通り、目を覚ましたあおいちゃんは何が起こり、今どうなっているのか全くわかってないようだった。


「おはよう、ハニー。まだ夢の中?」
「…快斗くん?…あれ?私快斗くんとお話してた、よね?」


紅子の話が本当だったとするなら、あおいちゃんの言うそれはたぶん、もう一人の俺のこと、だろう。


「何話してたっけ?」
「え?なに、って…、なんだっけ?」
「覚えてないかー」


まぁそう都合よく物事が進むわけねーよなぁ…。
あおいちゃんが覚えてたら、紅子の話の検証も出来なくなくもなかったんだけどなぁ…。


「あれ?」
「うん?」
「…快斗くん、髪、伸びた?」
「え?」
「……え、や、違う、よね、いつもと同じ髪だもん、ね…?」


顔全体で、あれれー?みたいな表情をしているあおいちゃん。
…それはつまり、あおいちゃんの薄っすらと残る記憶の中で「さっきまで話していた俺」の髪型は、今よりも短い、ってことで。
ここ1年はほぼ髪型を変えてない俺にとって、これはもう、そうなんだ、と言わざるを得ないような言葉だった。


「どこの男と間違えてんの?」
「え!?い、いや、そんなことは、」
「あおいちゃん、短い方が好きなの?俺髪切ろっかなー」
「まっ、待って待って、私別にそんなつもりじゃ、」


うわーっ、とパニクるあおいちゃん越しに、さっき会った、もう1人のあおいちゃんの顔が蘇る。
…あのあおいちゃんは言った。
「俺」が「あおいちゃん」に「何を隠しているのか」聞け、と。
10年先の未来だと言うなら、あるいはどこかの瞬間で、この子に怪盗キッドであることが発覚した、もしくは自分からカミングアウトしたのかもしれないとも考えられる。
でも…。


ー私はあなたにこう問います。『あなたは何を隠しているのか?』ー


あのセリフはキッドがあおいちゃんに向けて言った言葉で。
キッドは次に貸しが出来たら聞くと言ったが、未来のあおいちゃんは他の誰でもなく「俺」が聞けと言っていた。
…その発言は、今のこのあおいちゃんが、キッドの正体に気づいている可能性を示していなくもない、と取れるものだ。
あのあおいちゃんは、強要はできないし、詳細も言うつもりはないと言っていたが、そうは言いつつも、これはあのあおいちゃんがくれた最大のヒントってことだろう。
て、なると、問題は「協力者」の存在だよな。
あの言い方的に、恐らくそれは俺だけじゃ解決は難しい、もしくは解決できないことなんだろう。
協力者を確保した上であおいちゃんに問え、とも、取れる言い方だしな。
そもそもどっちの俺の、何をする協力者か、って話だが、事の発端である紅子の言葉。
「今のあおいちゃんの救い方」って奴。
それはやっぱり、黒羽快斗が現在行き詰まってるあおいちゃんが言う1年後や、運命どーのの事と関連するんだろうと、思う。
が、あのあおいちゃんの言い方だと、黒羽快斗であり、怪盗キッドでもある俺の協力者、とも、取れるんだよな…。
そうなってくるとそれは、協力というより共犯になっちまうし…。
やっぱり黒羽快斗の方が、有力、か?
いや、待てよ…。
黒羽快斗と怪盗キッド両方での協力者って線もあるよな?
あくまで俺の直感でしかないが、俺の直感はよく当たる。
だから全くの的外れなことではないとは思うが…。
今のあおいちゃんが何故か「ここからいなくなる」と思い込んでるリミットの1年…出来れば半年以内がいい…その間に、あのあおいちゃんが言っていた協力者に辿り着ければいいんだが…。


「…快斗くん?」
「え?」
「難しい顔して、どうかした?」


こんな顔してる、って眉間にシワを寄せてあおいちゃんは言う。


「どうかした、っていうか、」
「うん?」
「桃缶食いてーな、って」
「えっ?桃缶て、桃の缶詰?」
「うん。あおいちゃんオススメない?」
「おすすめ!?桃の缶詰の!?えっ、オススメするほどそんなに種類あるっけ?と、とりあえずスーパー行ってみる?」
「んー…、じゃあ買いに行くか」
「桃の缶詰っていえば、紅子ちゃんいたと思うんだけど、」
「あー、なんか用済んだって俺と入れ違いで帰ってった」
「え!?」
「ほら、買いに行こーぜ」


とりあえず脳内はまとまったし、一旦これは置いとくとして。
紅子にあんな胡散臭ぇ、摩訶不思議な魔法を使わせた世にも高価な桃の缶詰を求めて夜の街に繰り出した。

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bkm

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