キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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初めての旅行


フルコンボ


「夕飯までまだ時間あるし、外見に行く?」


今日のメインイベントを大満足なまま終わらせた俺は、そりゃあもう上機嫌であおいちゃんを外に誘った。
だってオメー、浴衣着てこんなに可愛い俺の彼女みんなに見せびらかしてーじゃん。


「履きなれないでしょ?俺に掴まっていーよ」
「じ、じゃあ、腕掴ませてもらうね」


草履で少し歩きにくそうなあおいちゃんが腕に掴まってきた。
そのまま温泉街をぷらぷら歩くわけだけど。
…あーーー、もう右見ても左見ても俺の彼女が1番可愛い。
尊い、俺の彼女尊い。
そして無料の足湯ができる場所を見つけて、せっかくだからそこで足を浸けていくことにした。
あーだこーだと雑談してた時。


「私実はこっちに来てから夏祭り行ってないんだよね」


フッとあおいちゃんがそんなことを漏らした。
こっち、って、米花町に来てから、だよな?
え?確か中1の時引っ越して来たんじゃなかったか?
でも今まで夏祭りに行ってない?
は?なんで?


「アイツにも誘われなかったの?」
「アイツ?」
「工藤新一」
「あ、あー…。新一くんはさぁ、オメーは夏休みの宿題優先だろ!って、夏祭りなんて許してくれない人だからね」
「あー、なんかわかる気する」


アイツはそういう奴だよなー。
例え夏休みの宿題が途中でも楽しまなきゃ損!てタイプの俺と違って、終わらせろ最後まで、みたいなカタブツタイプだよ。
そのせいで夏祭り行けてなかったのか…。
去年はキッドに成り立てでそれどころじゃなかったけど、もう少し俺も気遣っててやれば良かったな…。


「米花町の夏祭りはわかんねーけど、江古田もちょっと大きめの花火大会があるんだぜ。隅田川とかさー、そんなとこと比べたらショボいけど、まぁ地元じゃそれなりに?」
「えこた…」


米花町の夏祭りがどんなもんか知らねー俺は、当然地元・江古田の話をするけど、あおいちゃんはなんとも言えない顔をしていた。
…そりゃあ、そうか。


「もう来たくない?」


そう聞いた俺に、


「そ、んな、こと、は、」


明らかに目を泳がせてそう言った。
江古田を、好きになってほしいわけじゃないけど、でもこのまま嫌いになってほしくはねーな、って思うのはやっぱり俺のエゴだろうか。
生まれ育った土地だからこそ、あおいちゃんにも少しでも良く思ってもらいたい、って思うのは、傲慢なことだろうか…。
黙ってしまったあおいちゃんの頭に手をおき、


「まぁ、俺が米花町に行けばいいだけなんだけどなー」


そう言うに止めたのはやっぱり、「嫌われたくない」っていう根本的な思いがあるからだろう。
…あのボウズの言葉じゃねぇが、ほんと情けねー男だよ俺は。


「美味そー!」
「え、絶対美味しいって!」


宿に戻って、夕飯の時間。
それまでお互いどこか気まずいようなところがあったが、俺もあおいちゃんもそこは花より団子性分なわけで。
見事目の前の肉に釣られた。
それはもう華麗に釣り上げられた。


「めちゃくちゃ食った気する!すっげー美味かった!」
「うん!ほんと全部美味しかった!」


そんな会話をしてた時、あおいちゃんが突然何かを思い出したようにカバンをゴソゴソと探り始めた。


「どうしたー?」
「あのね、んーと…あ、あった、はい、これ園子から」
「え?園子ちゃん?」
「うん。何か知らないけど、『夕飯食べ終わったら黒羽くんに渡したげてー』って」
「ふぅん?」


園子ちゃんがこのタイミングで俺に渡せってなんだよ、って思いながら、手渡された小さな袋を開けると、


「ぶはっ!!」


ご丁寧に梱包材で割れないように包まれた「マカDX」と書かれた瓶が入ってた。
あの女、やりやがったな!
もうなんでアレが財閥令嬢なんだよ!


「え?なになに、」
「えっ!?あ、いや、これは、」
「見せて見せ…………」


噴き出した俺を疑問に思ったらしいあおいちゃんが俺の手元を覗き込んできた。
でもさすがに見せれないと隠そうとしたけど、時すでに遅く。
俺の手元の精力剤を見てあおいちゃんがフリーズした。


「もー園子ちゃん、俺のことなんだと思ってんだろーね。俺の年齢でこんなん飲んだら、夜どころか明日の昼までノンストップになるって話で、飲むかよ!ってなるよなー。いやー笑った笑った!」


中道と友達なだけあるわ、園子ちゃん。
まさか親友の彼氏にこんなん贈ってくるなんて誰も思わねーって!
まぁこういうの贈るくらいは、俺らの関係を良い方に捉えてもらえてんだろう、ってことで良しとしとくが。
そう思いながらその精力剤をテーブルに置いて、せっかくだし大浴場に入りに行こうかなんて思った時だった。


「いいよ、飲んでも」
「へっ?」


完全に油断してた俺は、今聞こえた言葉に声が裏返っていた。


「だ、って、ここゆっくりチェックアウトで12時までいれる、って、快斗くん言ったじゃん」
「え、いや、言った、けど、」
「お昼まで、ゆっくり出来る、し、」


赤い顔して伏し目がちの目は、それでもすでに、潤んで濡れているように見えて。


「も、ともと、今日はいちゃいちゃしたい、って、言ってた、し?」


あおいちゃんは羞恥心から下唇を噛む癖がある。
…赤い顔して、目潤ませて、下唇噛まれて?
オメーさぁそんなフルコンボで誘われて断れる奴いんの?


「知らねーぞ、どうなっても」


何がアレって、園子ちゃんの高笑いが聞こえそうなところがもう。
なんて思っても、俺のサキュバスにフルコンボで誘われちまったから答えないなんて選択肢あるわけがなく。
園子ちゃんから貰った小瓶は、コトリ、ともう一度テーブルの上で音を立てた。

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bkm

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