キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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初めての旅行


歯型


ところどころでパーキングで止まりつつも、バイクを走らせること4時間とちょっと。
14時には無事に目的地の旅館に到着した。
なんでこの時間に到着するようにしたか、なんてそんなの目的は1つしかない。


「黒羽様ですね。お待ちしておりました。チェックインのお手続きお願いします」
「はいはーい。あおいちゃん、あっちで浴衣選べるって。先に見ててよ」
「うん!」
「ではこちらにご記入願います」


高校生カップルがカード使うとかあとあと面倒なことになったら困ると、大学生と偽っての宿泊。
俺はそう見えなくもないし、あおいちゃんの童顔は怪しいが、あの素晴らしい身体は大学生で十分通るから問題ないだろう。


「ご予約の特典に貸し切り露天風呂が無料でつきますが、お時間お決まりでしたら今お伺いします」


そう。
この時間に到着した目的、真っ先にあおいちゃんとの貸し切り露天風呂に入ること!


「1番早い時間で」
「かしこまりました。ではこちらお時間45分で、」
「えっ!?」
「え?」
「45分て短くないです!?」
「え、いや、清掃の都合上、」
「いやいやお姉さん、彼氏と2人で露天風呂入って45分で足ります?俺は足りない」
「え、ええー…」
「お客様、でしたら追加料金頂く形になりますが、次の枠も取って頂くと2時間、厳密には1時間45分ですね。ご利用可能ですが」
「あ、ならそれでお願いします」
「かしこまりました。ありがとうございます」


フロントのお姉さんと話していたら、横から来た支配人らしき人がいい感じにアシストしてくれて無事2時間抑えることができた。
チェックインも済ませ、あおいちゃんのところに行くと真剣に浴衣を見ている最中だった。


「あおいちゃん、気に入ったのあった?」
「えっ!?あ、い、いや、どれがいいのかわかんなくて…」
「どれどれー?んー…、あおいちゃんだとコレとか?」


俺が選んだ浴衣は仲居さん的にもオススメらしく、あおいちゃんはそれに決めた(ちなみに俺もサクッと決めた)
そして部屋に通され、荷物も置いて、となったら次は待ちに待った貸し切り露天風呂!


「さて!じゃあ風呂行こっか」
「そ、そうだね!浴衣着て行こうかな?」
「とりあえず、2時間貸し切りだから行こうぜー」
「………かしきりっ!?」


俺の言葉にあおいちゃんは声を裏返した。


「え?俺言ったじゃん。貸し切り入ろーって」
「い、いやいやいやいや、聞いたけど、」
「だろ?だから行こうぜ」
「ちちちちちょっと待って!そういうの夜入るんじゃないの!?」
「なんで夜なの?」
「えっ!?なんで!?なんでってなんで!?」
「だって借りれる時間、早い者勝ちだし、早く入った方がいーだろ」
「待って待って待って。まず大浴場で体を清めてから一緒にお風呂って流れになるのでは!?」
「いやいや、どーせ入れば一緒だって!」
「一緒じゃないじゃんっ!!」
「ほーら、2時間しかないんだから行こうぜ」
「しかも2時間て長くないっ!?」
「あ、浴衣は持ってこ。向こうで着ればいーだろ」


いつもならきっと、そうだなそうするか、みたいにあおいちゃんの意見を優先させていたと思う。
けど今日のこれだけは譲れねーからっ!
そう思ってあおいちゃんの手を引っ張って貸し切り露天風呂の方へ向かう。
途中であおいちゃんの顔を見るとすでにパニくってる顔をしていて。
いつもならこんなことしないと思う。
けど、今日だけはあおいちゃんの「弱ってる人間に優しい」という性質を存分に利用させてもらう。


「嫌だった?」
「え」
「やっぱり止める?」
「……………だ、だいじょう、ぶ」
「ほんと!?良かった!」


案の定、俺の態度を見て了承の言葉を口にしたあおいちゃん。
こうなればもう、こっちのもんだ。


「ほら、あおいちゃんも脱いで脱いで」
「ちょっと待ってっ!!!」


ババッ!と脱ぎ始めた俺に、あおいちゃんが声を荒げた。


「あおいちゃん、やっぱり入りたくない?」
「っ、はっ、」
「は?」
「はいっ、る、けどっ!ちょっと待ってっ!!……とっ、ととととととりあえず、私っ、先に入るから!快斗くんはあっち向いてて!」
「え?いや、一緒にはい」
「あっち!向いててっ!!呼ぶまで入ってきちゃダメ!!」
「…はーい」


そう言われてあおいちゃんが指差した方を向いたわけだけど。


「っ!」


思わず噴き出しそうになったのを必死で堪えた。
…あの子きっと、この鏡の存在に気づいてない。
指差された方を向いた瞬間、鏡(しかも大きめ)が目に飛び込んできて、そりゃあもう、鏡越しで服を脱ぎ始めるあおいちゃんが丸見えなわけで。
…ヤバい、笑いが止まんねぇ!


「あおいちゃーん?まだぁ?」


なんて言うけど、鏡越しにあおいちゃんが風呂に入って、身体も流して、湯船に浸かったところまでバッチリ見えてたわけで。
もう俺の彼女、ほんとおバカ可愛い、俺の癒やし。
あおいちゃんのOKが出たから俺も風呂場に入った。


「おー、結構いい景色じゃねーか!」


実はあんまり期待していなかった露天風呂からの景色(何せランクの低いホテルだし)
でもなかなかこれは良い眺めだ。
そしてわかってはいたけど、あおいちゃんは入り口とは反対の方を向いて座っていた。
これはもう近づく気はねーな、と思った俺は、音を立てずに、水面の揺れにも気をつけてあおいちゃんに近づいた。
真横にきた、という段階で、何かに気づいたらしいあおいちゃんが、俺から身体を仰け反らせようとしたけど、もう遅い。


「つーかまーえた!」
「ぎゃー!?」
「なんだよ、ぎゃーって!」
「だ、だだだだだってそんなあばばば」
「あはは!!」


すでに限界までパニックになって顔を赤くしてるあおいちゃんに抱き着いて、景色のいい露天風呂とかサイコーでしかない!


「そん、なに、嬉しい、の?」


まるで疑うように、恐る恐るとでもいうような顔で俺を見てきてそう尋ねるあおいちゃん。


「当たり前じゃん!すっげー嬉しい!」


そう言った俺の顔を見て、あおいちゃんの表情が少し変わったのがわかった。


「は、恥ずかしい、とかは?」
「えっ、でももうあおいちゃんに俺の身体の隅から隅まで見られてるよね?」
「そっ!れと、これとは、」
「俺もあおいちゃんの身体の隅から隅まで見てるし、なんなら自分じゃ見えない位置のホクロの場所教えてやろうか?」
「やめてぇえ!!」


あおいちゃんはパッと見、自分じゃ見えない、それはそれはいやらしい位置にホクロが2つ、存在する。
1つは右胸の下。
いわゆる下乳と呼ばれるあたりにある。
これはそういう水着を着たら誰かに見られることもあるだろう。
でももう1つは、きっと俺しか知らない場所。
誰に教えてやるつもりもねーし、あのホクロを知ってるのは俺だけでいい。


「このままじゃのぼせちゃうよ」


お湯に当たってるのかそれ以外の理由か、すでに顔が赤いあおいちゃんがそう言ってきた。


「んー…、あ!じゃあここに座れば半身浴になるんじゃね?」
「え?ひゃあ!?」


少し段になっているところに腰を下ろし、あおいちゃんを抱き上げて膝の上に横向きに座らせた。
俺の足の上に座ってるから、あおいちゃんの鎖骨辺りに顔を埋められる俺は、遠慮なくあおいちゃんの肌に顔をくっつけた。


「はぁぁ…、俺マジで今ちょー幸せ」


温泉の温かさと、あおいちゃんの体温がいい具合にまどろみを与えてくる。
肌から伝わる温もりはなんだか久しぶりな気がして(実際はそーでもないんだけど、気持ち的な面でな)


「なんかさー、最近ちょっと、…バタついてってゆーかさ…。最近あおいちゃんといちゃいちゃしてねーな、って思ったらもう何がなんでも2人っきりになれる場所でゆっくりしてーって思ったんだよな」


気がついたらそんなことボヤいてた。


「嫌なことでもあった?」


あったあった。
もうどいつもこいつも「俺」の悪名を上げようとしてくれちゃって、その後始末で大変なわけ。
なんて言えるわけなく。


「人間みんな自分勝手に生きてるよなー、って思ってさ」


そう誤魔化したわけだけど。


「ねぇ、快斗くん」
「うんー?」
「確かにさ、みんな自分勝手で、きっと私もそうなんだけど、」
「うん?」
「でも、私は快斗くんの味方だよ」


ーあの子は知ってるのよ、あなたの「運命」をー


「快斗くんの『願い』が叶うように、私は味方でいるよ」


どうしてそう思い至ったのか、俺自身もわからない。
でもこの時初めて、この子はもしかしたら怪盗キッドの正体に気づいているのかもしれないと、そう思った。


「あおいちゃんが味方になってくれるとか、俺は百人力だねー!」


温泉で紅潮した白い肌に、闇夜のような漆黒の瞳がよく映える。
まるでこの世の闇の全てを閉じ込めたような黒曜石の瞳。
でもその中心は何よりも光を放ち、決して輝きを失わない、俺だけの宝石。


「そーいやさぁ、聞こう聞こうと思ってたんだけど、」


逆上せる前に上がろう、という話になり、脱衣所で涼んでいた時、さり気なーくあおいちゃんに探偵ボウズの話を振った。


「あおいちゃん、江戸川コナンと何か関わりあるの?」
「え?コナンくん?関わり、って、蘭の家や博士の家に行くと会うくらい?」


バスタオルを身体に巻いてるあおいちゃん。
…なんでだ?
全裸より、バスタオル巻いてる方がエロいってどーゆうことだ?
しかもほんと胸デケーよな…。
今ならわかる。
中道が以前言っていた「わがままボディ」ってやつが。
わがままっていうかむしろ、贅沢ボディだろ、これは。


「江戸川コナンとの接点は、蘭ちゃんちと博士んちで会うくらいなだけ?」


なんてことはとりあえず置いておいて、まずここだけははっきりさせたい俺はあおいちゃんを問いつめた。
あおいちゃんは基本嘘が吐けない。
嘘が吐けないというか、壊滅的に嘘が下手だ。
本当のことを言わないのであれば見抜けないかもしれないが、嘘を吐こうとすれば恐らくすぐわかる。


「こ、この前の黄昏の館の時、一緒に出かけたけど、」
「あぁ…」
「あ、と、は、…あ!クイーンセリザベス号の時も一緒だった」
「ふむ…」


やっぱり直接的な関わりはそんなにない、ってことだ。
ならあのガキのあおいちゃんに対する執着は工藤新一からのある種の洗脳によるもの、とも言える。


「で、でも『コナンくん』とはそのくらいだよ!」
「…コナンくん『とは』ね…」


コナンくん「とは」関わりがなくとも、コナンくんと関わりのある人物は別、ってことだ。


「ま、いーや」
「え?」
「涼しくなってきたし、浴衣着ようぜ」


そう言って持ってきた浴衣に袖を通す。
ものの、


「…ん?…あれ?なんか…?」


あおいちゃんが着付に悪戦苦闘していた。


「あ、ほら、もう少し…このくらいえり抜きすると綺麗に…」


それを少し手伝ってやったんだけど。


「こ、これでいい?」


何この美味そうなうなじ。
は?俺に噛みつけってこと?
全然噛みつくけど??


「やっぱりもう1時間延長させてもらう?」
「逆上せるから!ほんとに!!」
「冗談冗談」


普段はあおいちゃんの肌が傷ついたらとか思うとそんなこと絶対出来ないけど。
俺今日、歯型残しそう。
なんて思いながら部屋に戻った。

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