■出発!
「「温泉旅行ぉぉ!?」」
学校に行って園子と蘭を捕まえて、放送室で園子会議を開いてもらった。
「わ、私もさぁ、そんなのまだ早いって言ったんだよ?」
「さすが中道に女紹介するだけあるわね!」
「さすがって何よ…」
うんうん唸る園子に、苦笑いの蘭。
でも2人ともちょっと、顔が赤くなっていた。
「GW前はほら、ちょっと…揉めた?し、GWは一緒にいれなかったんだけどね、」
「「うんうん」」
「そしたら『あおいちゃんが足りないー』とか『江古田でも米花町でもないとこで2人で過ごしたいー』とかなんとか、」
「はーっ!あの尻フェチ、言うわね!!」
「黒羽くん、そんなこと言うんだぁ」
「い、いつもは言わないんだよ?で、でもいきなりそんなこと言うから、なんかあったのかな、とか、」
「なーに言ってんのよ!」
園子が私の額をつん!と突いてきた。
「だから言ってんでしょ?あんたが足りないのよ!」
にしし、と笑いながら園子は言う。
「いいじゃん!行ってきなって!ねぇ?蘭もそー思うでしょ?」
「そうだね。あおいの言いたいこともわかるけど、一緒にいたいっていう黒羽くんの気持ちもわかる気するし。嫌じゃないなら行ってきたら?」
蘭がすごく優しく笑いながら言う。
「い、嫌じゃないよ!…嫌なわけないけど、」
「けど?」
「何が問題なのよ?」
「……い、一緒にお風呂入りたいみたいなこと言うから、それはどうなのかな、って、」
だってさー、考えてみてよ。
そりゃあさ?快斗くんとにゃーにゃーするようになって、裸も見たり?してるよ?
場合によっては快斗くんのご立派なジャンボフランクも見たりなんかしたりしてるよ?
でもさー、それとは違うじゃん。
そんな裸で一緒にお風呂なんて、あなたお背中流しましょうか?なんて聞いちゃって、じゃあ俺もお返しになんてなったらどうするのやだそれ完全に新婚さんいらっしゃいになっちゃうんじゃないの
「ダメね、完全に違う世界に行ってるわ」
「ま、まぁ、仲良く続いてる、ってことでいいことだよね?」
だ、だいたいさぁ、いっくらにゃーにゃーするからって、そんなお風呂に一緒になんてしかも温泉貸し切りとか!なんなの快斗くんだってそんなまだ高校生なのにこれがプロと素人の違いなの
「あおい!」
「えっ!?な、なに?」
「それでどこ行くか決まってるの?」
「あ、あー…たぶん熱海とか箱根とか、かな?わからないけど…」
バイクで行くみたいだから、そこまで遠いところじゃないと思うし。
私の言葉に、
「いいなー、私らも行っちゃう?うちの別荘あるし!」
園子がそんなことを言った。
「来ないでよ!」
「冗談よ」
ニヤニヤ笑う園子の顔を見ると、とても冗談には思えないけど。
まぁ楽しんで来なさいよ、と言われ、本日の園子会議はお開きになった。
それからは慌ただしかった。
快斗くんが草津でいいか聞いてきて、あ、これはもうほんとに本気なんだな、って思ったし、てことは彼氏と温泉旅行なんて例えばほら、下着とか?ちょっと用意しようかな、とか、でもそんな気合い入ってるなんて思われるのもな、とか?
そんなこと思いつつ準備しつつで、あっ!!という間に旅行当日になった。
「晴れて良かったな」
朝、うちまでバイクで迎えに来てくれて、そのまま私の荷物もバイクに固定させてタンデムすることにした。
ちなみに予め、私もバイク出すよって言ったんだけど、やだ後ろに乗って、って言われたからこうなった。
やだとか言っちゃって、快斗くん可愛い、なんて思った。
「とりあえずさー、先にチェックインして、」
快斗くんが簡単に今日の予定を口にするんだけど、
「あのさ、」
「うん?」
「なんで草津にしたのか聞いてい?」
「…………」
そもそも私はもっと近いところだと思っていたんだけど、意外と山の方に行くわけで。
なんでだろ?って思って聞いたら快斗くんがすっっっごい気まずそうに目を逸した。
「快斗くん?」
「…だってさー、」
「うん?」
「ここから近いとこで探してたら、だいたい海沿いだろ?」
「あー、うん。そうだね」
「そういうとこって、晩飯が、だいたいさぁ…、」
快斗くんはそこで言葉を詰まらせた。
…行き先がだいたい海沿いで?
海沿いならではのお夕飯、て、ハッ!!
「そ、そっか、それは草津だね」
お夕飯はきっと豪華魚料理なわけで。
そりゃあいつかの年末年始プレイバックで、快斗くんせっかく温泉地行ったのに涙目になっちゃうどころかほとんど食べれないから、そりゃあもう山を選ぶよな…。
「海が良かった?」
ちょっと申し訳なさそうに聞いてくる快斗くんは、やっぱり可愛い。
「快斗くんと行けるなら海でも山でも、どっちでもいい!快斗くんは?」
私の言葉に快斗くんは、
「俺もあおいちゃんと一緒に行くならどこでもいーよ」
柔らかく笑った。
「じゃあそろそろ行きますか!」
「いえーい!あ、疲れたら途中で運転変わるからね」
「えー、あおいちゃん俺のバイク運転できるかなー?」
「できるよー!私、お母さんから貰ったバイクすっごい安全運転で乗ってるじゃん!」
「スピード出さないことだけが安全運転じゃなくて、周りの流れに合わせて走るのも大事なんだぜ?」
「なにそれ、私が流れに乗ってないみたいな言い方!私すっごい上手く流れに乗って、」
「よしっ!しゅっぱーつ!!」
話しの途中で快斗くんはバイクを走らせた。
快斗くんの肩越しに流れ始める景色に、少しずつ胸が高鳴っていった。
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bkm