キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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岐路


秘密は女を綺麗にする


奇術愛好家の集まりの後、イカサマ童子も影法師もそのIDが消されていた。
もう彼女が何かを企てることは、本当になくなったのだろうと思った。
田中さんは言っていた。
黒羽快斗のステージを見てみたくなった、と。


「見てぇ、って言われても、その前に片づけなきゃなんねーこと、山積みなんだけどなー…」


キッドとして、パンドラを見つけること。
親父を殺した組織を壊滅させること。
そして黒羽快斗としては、あおいちゃんの1年後のことについて、だ。
あの子は土井塔がキッドと気づいたんだろうと思う。
それを田中さんに伝えたから、あの言い方をされたんだと思う。
何故あの子は、土井塔の正体に気づいたのか。
蘭ちゃんの時はまぁ…、身近な人間でよく見ていたから、ってのはあるのかもしれない。
でも土井塔は全くの赤の他人、俺が作り上げた架空の存在だ。
なのに、気づいたのは何故か…。
俺が聞くのはおかしくても、キッドが聞くのは自然だろう。
ならキッドとしてあおいちゃんに会うにはどーするか、って、日が落ちてからマンションの屋上に行ってみるのが手っ取り早いわけで。
それを知ってか知らずか、


〜♪〜♪


いつものように、闇夜にトランペットの音が響いていた。


「今夜は音に少し、濁りがありますね」


屋上に降り立った俺に驚くことはもうなくて。


「こ、こんばんは…!」
「えぇ、こんばんは。あおい嬢。その節は貴重な助言をありがとうございました」


極々普通に挨拶した。
さぁて、どーやって切り出すか。
そう思った時に、


「あ!あのっ!私もそ、その節?は、助けてくれて、ありがとう、ございまし、た、」


あおいちゃんがいいきっかけをくれた。


「そう言えばあの時、あおい嬢に貸しを作りましたよね?」
「か、貸し、って、」
「今返してもらいましょうか。…奇術愛好家の集まり。何故あなたは、私がわかったんです?」


俺の言葉に、明らかに動揺を見せるあおいちゃん。


「解いたんでしょう?私のアナグラム」


一瞬、目を泳がせるような姿を見せてたが、


「どいとうかつき、って、アナグラムの中でも簡単じゃないです?」


はっきりとそう言った。


「でも普通、名乗られた人名に対して、アナグラムだと考えませんよね?それは何故です?」
「…最近気づいたんですけど、」
「はい?」
「新一くんや園子といる時に事件に遭う確率すごいな、って」


え?それ今さらじゃね?ってことをあおいちゃんは口にした。
いや、むしろ今まで自覚なかったんなら、少しは危機感出てきたってことで良いことなのか?
俺が納得したと思ったからか、あからさまにあおいちゃんが安堵の息を洩らした。
…これは何かある、って思うのは、俺だけじゃないはずだ。


「今回はまぁ…彼女が善良な心を持ち合わせている方だったので良かったですが、褒められた行動じゃないことだけはわかっていますよね?」
「そ、れは、」
「私の正体がわかった時点で、私に言うなり出来たはずですが?」
「そう、かもしれないけど、」
「そもそも何故彼女が『何か』すると思ったんですか?」


俺の言葉にあおいちゃんは目線を落とし、1度大きく深呼吸した。


「私、何度か事件に遭遇してるんです。その時に犯人て呼ばれる人たち、みんな同じ目をしてるって思って」
「同じ目、ですか」
「はい。その人たちみんな他の人がしないような目つきや表情で相手を見るんです」
「…だから田中さんに何かあると?」
「そん、な、ところです」
「ふむ…。筋は通らなくもないですね」


あおいちゃんの説明は、一応筋は通っている。
ただ…。
今まで見てきたこの子のことを踏まえて考えると、それは「あおいちゃんだから」と理解はできるものではあるものの、やっぱり何とも言えない、小さな違和感がある。
嘘は吐いていないだろう。
この子は上手く嘘を吐き通せるほど器用じゃない。
だから強いて言うなら、嘘は吐いてないけど、全て包み隠さずに話しているわけではない、そんな状態に感じる。


「あおい嬢」
「はい?」
「あなたは私に嘘を吐かないと思ってます」


この子があえて隠す、その真実とは何なのか。


「だから次に私に貸しが出来た時、私はあなたにこう問います。『あなたは何を隠しているのか?』」
「え…」


それは紅子が言う、あおいちゃんが知ってるという俺の運命のことなのか…。


「秘密があるなら、私に貸しを作りませんよう、お気をつけください」
「わ、たし、は…」
「まぁ最も?女性は秘密を纏うことでさらに綺麗になるものですけどね。そう言えば、それをわかりやすい英語で言った方がいましたね」
「A secret makes a woman woman」


俺の言葉に即座にあおいちゃんは口にした。


「…以前報道陣の前でその言葉を言った女優をご存知ですか?」


俺の言葉に、ううーん、と一瞬考えるような仕草をした後で、


「クリス・ヴィンヤード?シャロン・ヴィンヤードの娘の、」


あおいちゃんは答えた。


「彼女と面識は?」
「え?クリス・ヴィンヤードと?…クリスとは、ない、です」
「…そうですか」


…ここでもクリス・ヴィンヤードとの接触はない、って言うってことは、恐らくクリス・ヴィンヤードが何かしらの変装をしていた時に接触した、ってことか。
ならもう、何をしてあそこまで気に入られたのか、わかるわけねーな…。


「さて、今宵はこれにて失礼させて頂きますが、あおい嬢も早めのご帰宅を」
「も、もう帰ります…!」
「えぇ、そうしてください」


部屋に戻るあおいちゃんの後ろ姿を見送って、俺も屋上から離れた。

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bkm

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