キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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岐路


分岐点


イカサマ童子のIDを継いで、おじいちゃんを馬鹿にした人たちに復讐しようとした田中さん。
その田中さんがもしかしたらもう、手を下してしまったかもと心配していた西山さんの消息だけど、全く違うところで警察沙汰になっていたようで、手の下し用がなかったらしい。
ということは、田中さんはほんとに誰にも手を出さずにこの1件を納めてくれた、ってことだ。
快斗くんが高1でキッドになってしまったこと。
ベルモットを助けたのが私と新一くんになってしまったこと。
新一くんがコナンくんになる時、蘭とではなくみんなでトロピカルランドに行ったこと。
そして今回、コナンくんも蘭も、来なかったってこと。
物語が少しずつ、ズレて行ってるから、もしかしたら、って思ってた。
もしかしたら、助けられるのかも、って。
浜野さんを助けたい、よりも、そんな悲しい理由で殺人を犯してしまう、田中さんを助けたいと思ったから。
それが結果、快斗くんも園子も救うことになるから。
だから誰も犠牲にならなくて、ほんとに良かったと思った。


「それがほんとに良いことなのか、わからないけど…」


遠回りになったとしても、それがきっと私の最善だと言うのなら…。
…でも、無差別とか…明らかに殺される方に同情できないとか…絶対口出ししないと思う(変わりに殺されたくないし!)


〜♪〜♪


土井塔さんにならなければいけなかった快斗くんは、世間じゃGWだけど、ちょっと外せない用があるからごめん、って珍しく私と約束していなかった。
当然と言えば当然なんだけど。
でも連休なのに快斗くんと会わないってちょっと新鮮(いや、会ったんだけどさ!)
なんて思いつつ、1人の夜にトランペットを吹きに屋上に上がったわけだけど。
快斗くん実は私が屋上でトランペットを吹くっていうのを察知してるんじゃない?ってタイミングで、


「今夜は音に少し、濁りがありますね」


怪盗キッドが現れた…。


「こ、こんばんは…!」
「えぇ、こんばんは。あおい嬢。その節は貴重な助言をありがとうございました」


恭しく頭を下げるキッド。
…快斗くんに会ってないのに、別の姿の快斗くんにはやたら会ってる不思議な連休だ。


「あ!あのっ!私もそ、その節?は、助けてくれて、ありがとう、ございまし、た、」


そう言えば、誘拐事件で助けられた後で、キッドとしてゆっくりお話できてなかった気がする。
だから、もう1度、お礼を言っておこうと思った(快斗くんに言うわけにはいかないし)


「あの後、大丈夫でしたか?」
「は、はい!病院で検査もしてもらったし、大丈夫でした!」


私はキッドが快斗くんて知ってるから、私が大丈夫ってキッドが知ってるってことを知ってるわけだけど、知らないふりして話題を切り出さなきゃいけなくて。
そして快斗くんも私が大丈夫って知ってるのに、キッドとしては知らないはずだからこうして話しを広げるっていう、不思議な会話を繰り広げていた。


「そう言えばあの時、あおい嬢に貸しを作りましたよね?」


キッドが顎に、軽く握った右手を当てながら尋ねてきた。


「か、貸し、って、」
「今返してもらいましょうか」
「えっ!?」


シルクハットとモノクルの影になって、キッドの瞳がどこを見ているのか、私からはわからなかった。


「奇術愛好家の集まり」
「え…」
「何故あなたは、私がわかったんです?」


5月の夜風は、まだどこか肌寒さを感じた。


「解いたんでしょう?私のアナグラム」


キッドは私が解いたって断定して聞いてきた。
…田中さん、喋ったのかな?


「だっ、て、」
「だって?」
「どいとうかつき、って、アナグラムの中でも簡単じゃないです?」
「…まぁ、そうですね」


ふむ、と、キッドは考え込むような素振りをする。


「でも普通、名乗られた人名に対して、アナグラムだと考えませんよね?」


それはなぜです?みたいなニュアンスで聞かれた。


「最近気づいたんですけど、」
「はい?」
「新一くんや園子といる時に事件に遭う確率すごいな、って」
「あぁ…」


私の言葉に、ものすごく、同情めいた声を漏らしたキッド。


「むしろ何もなく終わるって方が貴重になってきてる気がして、いろいろ構えちゃうっていうか、」


嘘は吐いてない。
だってほんとに、新一くんだけならまだしも、園子といる時も事件遭遇率高い気がするもん!


「まぁ、それで納得しましょうか」


ジーッと私を見た後で、キッドはため息を吐きながらそう言った。


「今回はまぁ…彼女が善良な心を持ち合わせている方だったので良かったですが、褒められた行動じゃないことだけはわかっていますよね?」


快斗くん納得してくれたなら良かった!ってうっかり漏れた安堵の息を聞いたかの如く、お叱りターンに入ってしまった…。


「私の正体がわかった時点で、私に言うなり出来たはずですが?」
「そう、かもしれないけど、」
「そもそも何故彼女が『何か』すると思ったんですか?」


怒涛の質問ターンに入ってしまった私は、予め用意していた言葉を口にした。


「『私、何度か事件に遭遇してるんです。その時に犯人て呼ばれる人たち、みんな同じ目をしてるって思って』」
「同じ目、ですか」
「はい。その人たちみんな『他の人がしないような目つきや表情で相手を見るんです』」
「…だから田中さんに何かあると?」
「そん、な、ところです」


これも嘘は言ってない。
実際に現場で見た犯人たちは、被害者に対して、他の人たちとは違う目つきで見ていると思ったから。
私の言葉に、キッドはふむ、と唸った。


「…筋は通らなくもないですね」


独り言のようにそう呟いたキッド。
…怪しまれてる気もしなくもなくもない…。
でも嘘は言ってない。
包み隠さず全部を話す、ってことをしていないだけで…。


「あおい嬢」
「はい?」
「あなたは私に嘘を吐かないと思ってます」


風が吹いて、キッドのマントがバサッと揺らめいた。


「だから次に私に貸しが出来た時、私はあなたにこう問います」


白く広がるマントは、まるで翼のようだ。


「『あなたは何を隠しているのか』」
「え…」


キッドのマントは、白い翼が羽を休めるかのように揺れが小さくなっていく。


「秘密があるなら、私に貸しを作りませんよう、お気をつけください」


ニヤリと笑い、キッドは今宵はこれにて、と言って去って行った。
…快斗くんは、私が「何か」を隠してるって、気づいてる。
なんで?いつから?
そんなことが頭を過るけど、ほんとに考えなければいけないのは、「快斗くんに打ち明けるのか」ってことなわけで。
また新しい、そしてとても大きな分岐点が迫ってきているような…。
そんな感覚に陥った。

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bkm

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