キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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奇術愛好家殺人未遂事件


アナグラム


あおいちゃん、園子ちゃんも参加する奇術愛好家のオフ会。
春井風伝が使っていたイカサマ童子のIDが、彼が亡くなった後も使われ続けていて気になって様子を見に行くだけのつもりだったんだが、ややこしいことにならなきゃいいけど、なんて思いながら、オフ会の会場となるロッジに向かった。
既にイカサマ童子も到着していて、年齢や、どことなく春井風伝を思い出させる顔立ちから、恐らく彼の孫娘なんだろうと思った。
…その孫娘が何をするつもりかはわからねーが、物騒なことになんねーといいよな…。
そうこうしてるうちに、下が騒がしくなったからあの子たちが着いたかと思い、俺も1階に向かった。


「あれっ?もしかして魔法使いの弟子さん?僕ですよ。土井塔克樹」


まぁ、こんなオッサン、オバサンの中に女子高生が2人も来たら騒がしくなるよなー。
なんて思ったら、


「………」


そのうちの1人であるあおいちゃんが、俺を超ガン見してきた。


「君は?魔法使いの弟子さんのお友達かな?」
「は、はい!芳賀あおいです」
「こんにちは」


声をかけたら、どこか照れたように返事をするあおいちゃん。
可愛い。
ほんと何しても可愛い。
じゃあ部屋に荷物置いてきたら、少し早い夕飯にしようとと言われ、あおいちゃんたちが荷物を置きに行った。


「いやー、いいねぇ、女子高生って!響きだけでもグッとくる」


あおいちゃんたちがいなくなった途端、浜野のオッサンがそう言った。


「犯罪ですよ、浜野さん」
「え?土井塔くんは興味ない?」
「セクハラで訴えられますよ。最近の女子高生はおっかないですからね」


謎に魔法とか使うらしい女子高生とか、親の財力に物を言わせる女子高生とか、犯行予告出された現場に自由に出入り出来る女子高生とか。
…え?あおいちゃんめちゃくちゃ普通じゃね?
普通すぎて俺の彼女尊い!


「じゃあ今日のオフ会に、乾杯!」


結局飲みたいだけのオッサン、オバサンは早く乾杯したかったらしく、早々始まった夕食の席。
奇術愛好家らしく、話題は尊敬する日本のマジシャンの話しになった。


「私は黒羽盗一さんが好きだったな。夢のあるステージだった」


…もう亡くなって7年経つってーのにな。
未だそう言い続けてもらえるんだぜ?
親父はやっぱスゲーよ。
その後も木之下吉郎さん、九十九元康さんていう、誰もが知っている名前があがった。


「何よ、みんな亡くなった人ばっかり!私は今超人気の真田一三さん」


このステーキいい肉使ってるよなー、なんて思いながら食ってたら、


「あなたたちは?」


あおいちゃんが話しを振られた。
マジック自体は楽しんでても、そもそもマジシャン知ってるのか?なんて油断した直後、


「黒羽快斗ですっ!!」


右手を握りしめて声高に叫んだ。


「ゲホッ、ゴホッ、ゴホッ」
「土井塔くん、大丈夫?」
「す、すみません、ステーキが熱くてむせちゃって、」


なんてとりあえず誤魔化したけど。


「黒羽?」
「え?でも、カイト?って誰?」
「あ、気にしないでください。この子ちょっと病気なん」
「さっきお話に出てた黒羽盗一さんの息子です!!」


明らかに病人扱いしようとした園子ちゃんの声を遮って、再び声高に叫んだあおいちゃん。
…待ってくれ。
俺そもそもただの男子高校生でマジシャンデビューしてねーから…。
ここにいる奴ら、園子ちゃん以外で俺の名前知ってる奴いるわけねーだろ…。


「黒羽盗一さんのお子さんがデビューしたの?」
「うっそ!そんな話し知らないわよ!?」
「デビューはまだですが、絶対します!そのうち世界屈指のマジシャもがっ!?」
「はーい、ストーップ!…ほんとスミマセン。この子の彼氏なんですよー」


強制的にあおいちゃんを止めた園子ちゃん。
…て、ゆーか、俺自身もちろん、プロマジシャンとしてデビューするつもりはあるけど、この子は本当に揺るぎなくそれを信じてるのか、とか。
そのうち世界屈指のマジシャンになるって、思っていてくれるのか、とか。
俺自身、今は「土井塔克樹」としているけど、でももうそこは全て飛び越えて、面映ゆいという言葉がピッタリだ。


「じゃあ仮のリーダーと、宴会部長、風呂焚き係を決めましょう」


そんなこんなで、マジックで役割を決める、って話しになり、来ない西山さん(西山さんは警察沙汰になってたとかなんとかの連絡が後日あった)の代わりのリーダーを黒田さん、宴会部長を浜野さん、風呂焚き係が田中さんに決まった。
…今の決め方も、何かあるの、か?
そう思い警戒していたが、取り立てて何かあるわけでもなく。
ただ浜野さんがやるマジック、やるマジック全て失敗するっていう、マジシャンとしては屈辱的な時間が過ぎただけだったか(たぶん田中さんが何かしたんだろうと思うし、さっきの女子高生発言が気に食わなかった俺としても失敗するように仕向けた)
そして警戒していたわりに、何も起きることなくそれぞれ帰路に着こうとした時、


「土井塔くん」


田中さんに声をかけられた。


「どうしました?」
「…結局あなたが何者なのか、解いたアナグラムがあってるかわからないけど」
「え?」
「あっていると仮定して話すわ」


田中さんは俺の目を見て、


「あなたにお礼を伝えたくて」
「お礼?」
「えぇ。祖父のショーの前に激励の言葉をくれたこと、…そして、私の馬鹿な企てを止めてくれてありがとう、怪盗キッド」


はっきりそう言った。


「キッド?なんのことです?」
「ま、そうでしょうね」


俺の言葉に田中さんは背を向け去ろうとしていた。


「あなたに、というより、あなたのお弟子さんに、って方が正しいしね」
「…弟子?」


言っていることが全くわからない俺に、田中さんはもう1度振り返って俺を見てきた。


「なんでたかが女子高生が、って思ったけど、思い出したのよね。以前ニュースになった、鈴木財閥の令嬢誘拐事件のこと」


髪をかきあげながら、田中さんは言う。


「園子ちゃん鈴木って言ってたし、本当に鈴木財閥の娘だったのなら、あの事件でキッドに助けられた女子高生があおいちゃんで、その事をきっかけにあなたと繋がりが出来てたとしても不思議じゃないしね」


口の端を持ち上げ田中さんは笑った。


「月下の奇術師と謳われるあなたのことを間近で見てもなお、彼女が薦める男の子のステージ、見たくなっちゃったのよ」
「え…」
「今高2、ってことは、きっとそう遠くない未来でデビューするでしょ?そんな時に刑務所になんて入ってられないじゃない?」


そこまで言って、今度こそ田中さんは立ち去った。
…つまり?
やっぱりここで何かを起こそうとしていた田中さんを止めたのは、あおいちゃん、てこと、か?
いつ、どうやって、何を止めた?
それより何より、「俺」がアナグラムを使って名乗っている、って田中さんにバレていた。
確かに今回の名前はアナグラムの中でも、わかりやすかったと俺自身も思っている。
でも名乗られた名前を「アナグラム」だと普通考えるか?
それは何か事を起こそうとした田中さんだから気づいたことなのか、それとも…。


ーあの子は知っているのよ。あなたの『運命』をー


「いやいやいやいや、んなわけあるかよ!」


誰に言うでもない言葉が、まだ雪の残る大地に消えた。

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bkm

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