■スパルタコーチ
「雪山?」
ブラックスター事件の騒動も終わり、世間ではGWに突入!って時に園子が雪山行こうぜ!って言ってきた。
「行かない」
「行こうって!絶対楽しいから!」
雪山なんて中学の時蔵王でのスキー合宿で、行った瞬間捻挫した恨めしい思い出しかない私からしたら、絶対楽しくないと思うの。
「あ、別にスキーに行くとかじゃないのよ?」
「なにしに行くの?」
「オフ会よ、お・ふ・か・い!」
なんでも以前の誘拐事件で私を助けてくれたキッドと、なんとしても自分も関わりあいになりたいと思った園子は、いつかキッドにたどり着けるかもと、奇術愛好家のチャットに参加してたんだとか。
で、その愛好家たちがGWにやるオフ会に自分も行けることになったんだとか。
…雪山の奇術愛好家!!
「だからキッド様までとは言わずとも、マジックできるイケメンいたらラッキーかなぁ、って」
「行きます!!」
「だよね!あおいならそう言ってくれると思ったの!」
だって雪山の奇術愛好家って言ったら、ほんとにキッドが出る奴じゃん!
ならそれはもう私の出番!とばかりに即OKを出したんだけど。
「え?奇術愛好家のオフ会?」
一応、本人にも言っておこうと、快斗くんにも参加の旨伝えた。
「園子ちゃん、行動力エグいな」
「園子だからね」
あの日以来、私的にまだどこか気まずい感じがする快斗くんと2人の時間。
それに薄っすら気づいてるらしい快斗くんは、あれから毎日米花町にバイク飛ばしてやって来ていた…。
「私そういうの初めてだから、ちょっと楽しみ!」
快斗くんは、すごく微妙そうな顔をしたけど、例え行くなって言われてもここは譲れないし、あえてそこには触れずにいた。
「で、でね!奇術愛好家、って言う人たちの集まりだし、私も何かマジックできた方がいいのかなー、って思って、」
そう言った私に、一瞬驚いた顔をしたけど、
「じゃあ俺が教えようか?」
そう言ってくれた。
「で、でも難しい奴は出来ないよ」
「うん。時間もないし、簡単な…コレとかは?」
コレ、と言って、右手からポン!と、お花が出てきた。
「これほんとに簡単?」
「簡単、簡単。コツさえ掴めば1時間で出来るようになるって」
快斗くんのその言葉にまんまと乗せられ、手からお花を出す、って言う一発芸(?)を教えてもらうことにした。
…のが、間違いだった…。
「…えいっ!」
快斗くんに言われた通り、右手で花の部分をふんわりと握るように隠して、茎の部分を腕に添えるようにして…、とやってみた。
「で、できたよね!?今できたでしょ!?」
自分的には、もしかしてマジシャンの才能あるんじゃない!?ってほんのちょっぴり思うくらい、要領を掴めたつもりだったけど。
「…あおいちゃん」
「どう?どうだった?」
「5点」
「ごっ!?」
「やるなら真剣にやろうぜ」
ちなみに100点満点中な、と快斗くんは言う。
わかってたつもりでいたけれど、快斗くんにとって「マジック」って言うのは、とても神聖で、生半可なものじゃなく。
「わ、わわわ私真剣に、」
「そ?じゃあもっと真剣にやろうぜ」
物凄いダメ出しを喰らった。
「…えいっ!」
「あおいちゃん」
「な、なにっ!?」
「その気合いの声いらない。8点」
「…はい」
快斗くん実は鬼なの?
鬼なんじゃないの?
勉強合宿でも先生ここまで厳しくなかったし、新一くんもチョップこそするけど、こんなに鬼じゃなかったよっ!?
「…ど、どう!?」
「35点」
「さんじゅう、」
「だからな、右手首の向きが、」
そして点数が辛すぎる!!
私こんなに短時間に集中して物凄い一生懸命何かをするなんて、今までの人生でなかったよ!?
「…こ、こここ今度はどうですか…!?」
「んー…、大目に見て50点」
「ついにっ…!」
「でもようやく半分だからな?」
「…はい」
快斗くんてさ、実はこの間のこと怒ってるんじゃないの…。
それかこの間のことで、私のこと嫌いになったんじゃないの…。
「ほら、よく見てて。いい?ここで人差し指をこの角度に、」
それならすごい納得する。
私もう涙目。
「んー…72点てとこだな。もうひと息」
「…ぐすっ…」
私っ!
もう2度とっ!!
快斗くんにマジック教えてなんて言わないっ!!
「…」
もう手からお花出しても無言。
「おー、今のでようやく80点、まぁまぁ及第点、てとこかな」
そして早ければ1時間でマスターできると唆されて始め、手からお花を出し続けること早4時間。
ようやく快斗くんの口から及第点をもらえた。
「でも今のは、」
「良かったぁぁぁ!!!!」
快斗くんが次の言葉を話し始めるより先に、あの日以来、久しぶりに快斗くんに抱きつき、
「わっ、私もう一生お花出し続けなきゃいけないんじゃないかってだって快斗くんすごいハイレベルな要求するしもうなにが違うのかよくわかんないしでもお花出し続けなきゃだし私もう快斗くんがこんなに鬼だなんて知らなかったからでもお花出し続けなきゃでもうお花もくっしゃくしゃだしだってそんなお花がもうお花なのに」
泣いた。
最後は自分でも意味不明だったけど、私の必死さは伝わったようで、
「うん。頑張った頑張った」
快斗くんは頭を撫でながら、抱き締め返してくれた。
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bkm