キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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彼女と幼馴染


Misty Mystery


「紅子!取り引きしよーぜ」


あおいちゃんちでなんとか和解した翌日。
朝イチで紅子を捕まえた。


「取り引き?」
「おー。下僕になるとか、そーいうこと以外でなら、オメーの出す条件飲んでやる」
「…代わりに?」
「オメーが前言ってたこと教えろ」
「どれのことかしら?」
「なんで俺が思ってる以上に『あおいちゃんが青子のことを気にしてるのか』だ」


確かに俺との距離感は近いって言うのはあるだろう。
けど思い返せばあおいちゃんは、初対面の時から青子に対して良い印象がなかった。
青子はいろいろはっきり言う奴だけど、初対面からいきなり嫌われるような要素はあまりないと思う。
なのにそれは何故か?
って、なったら、今俺が思い当たる中で、胡散臭くはあるが、1番確信を突きそうなのがコイツだからだ。


「よほど切羽詰まってるのね」
「否定はしねーよ」
「ふぅん…」


紅子は何か考える素振りをした数拍後、


「黒羽快斗としてではなく、もう1人のあなたにお願いしたいんだけど」


チラッと俺の方を見て言ってきた。


「…聞くだけ聞いてやる」
「ある場所に保管されてる本が1冊、ほしいのよ」
「本?」
「簡潔に言うと、魔術書、ってところかしら。確認したいことがあるの」
「あぁ…」


紅子の条件は本を1冊盗むこと。
…俺は別に手当たり次第盗む泥棒じゃねーが、背に腹は替えられねーし?


「それ確認したら戻すのか?」
「そうね」


ならまぁ、俺の信条に大きく逸れるわけでもねーし。


「明後日までにはどーにかしてやるよ」
「えぇ。現物を確認できたら取り引き成立よ」
「リョーカイ」


その後、紅子の指定する本と、保管場所の情報収集。
ソッと借りてソッと返すだけだから当然、予告状なんか出したりしない。
だからまぁチョロいと言えばチョロい仕事だ。
…ただ、これをすることで、言葉にこそしていないが、紅子に自分が怪盗キッドだと、言ったも同然になることが唯一のネックではあったが。


「ほらよ」


取り引きの話しを持ちかけた日から2日後の朝イチで紅子に本を渡した。


「さすがね、白き罪人さん」


確かに確認したわ、と紅子は言う。


「で、俺の質問の答えは?」
「あの子は知ってるからよ。あなたの『運命』を」


紅子の言葉に思わず開いた口が塞がらなかった。


「…は?おい、ちょっと待てよ。なんだその曖昧な答えは!見返りになってねーじゃねぇか!」
「信じる信じないはあなたの自由よ」
「はぁっ!?オメーふざけんなよ!?」


徐々に声が大きくなる俺に、


「あの子はね、知ってるのよ。黒羽くん、あなたの『本来辿るべき運命』を。あなたが本来辿るべき…、中森さんと結ばれるはずの運命を」


紅子はそう言い放ち、弧を描くように笑った。


「ちょっと待ってくれ!…仮にオメーの言い分が正しかったとして?なんだよその青子と結ばれるってーのは!」
「さぁ?私が見てきたわけじゃないし」
「だいたいオメー、人の彼女に対して、オメーみてぇな意味わかんねー女と同類にしてんじゃねーよ!」
「…随分な物言いね」
「だっておかしいだろ!?意味わかんねーじゃねぇか!何が運命って、」


ー元々決まっている運命があって、それをちょっと捻じ曲げてしまったとしても、やっぱり元々決まっている運命に戻るんだと、私は思うんですー


そーいやあおいちゃん本人が言っていた。
元々決まっている運命があって、それを少し捻じ曲げているんだ、と。
…紅子の話しはトンデモ話だし、それを鵜呑みにしねーし、出来るわけがない。
けど少なくとも、だ。
あおいちゃんが本当に知ってる知らないは別として、「俺と青子が結ばれる未来」があると思ってる、ってことだけは確かなはずだ。


「この本」
「あ?」
「後日返却してくれるんでしょ?」


黙り込んだ俺に、紅子が尋ねてきた。


「…は?自分で返せよ」
「返却してくれるなら、もう1つ教えてあげるわ」


なんでまた俺が、なんて思っても、紅子の提案に飲まない理由なんかなくて。
黙った俺の反応を肯定として受け止めた紅子は言葉を続けた。


「あの子、『ここ』に来る前からあなたのこと、知っていたのよ」
「…それは俺が、」
「あなたがいるから『ここ』に来た」
「え?」
「男冥利に尽きるじゃない?」


そう言って紅子は去って行った。
ここに、米花町に来る前から俺を知っていたってのは、本人から聞いていた。
でもそれは俺が弓道関係で名前が知られていたからだと思っていた。
でも…。


ーあなたがいるから『ここ』にきたー


それだけじゃない、ってこと、か…?
俺がいる前提で、米花町に来た?
いつどこで俺を知った?


「わっかんねー…」


知れば知るほど、聞けば聞くほど、謎が増えていく気がするのは気のせいか?
結局何も解決しないまま、紅子との取り引きは終わった。

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bkm

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