キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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彼女と幼馴染


「まだ彼女」


家に戻ってあおいちゃんにメール入れても返信があるわけなく。
もう一度、昨日リビングテーブルの上にあった袋を見てもメモが入っているわけでもなく。
制服から着替えてあおいちゃんのマンションに行くものの、学校がある平日に当然いるわけもなく。


「…どーすっかなー…」


あおいちゃんちの玄関前で蹲って、頭を抱えた。
過去の経験上、こうなるとあおいちゃんは会話自体を拒否る。
なんとしても捕まえて直接話し合わないといけない。
それもなるべく早く。
ならできることと言えば、放課後校門前で待ち伏せてるしかないわけで。
今は放課後まで待つしかなく、てきとーにそこら辺で時間潰して、放課後帝丹高校の校門前にバイクを停めた。
それからしばらくして、


「ちょっとそこのお兄さん!人様の学校にバイクで乗り込んで来るとはイイ度胸ね」


聞き覚えのある声がした。


「園子ちゃん!あおいちゃんは?一緒じゃねーの?」


そう言った俺の胸倉をガッ!と掴んで、


「今度は何やらかしたのか、この園子様がじっくり聞いてやろうじゃない」


園子ちゃんはそう言った。
え、って思って園子ちゃんの後ろにいた蘭ちゃんを見ると、


「さっきまで一緒だったんだけどね、あおい。どこ行っちゃったのかなー…」


困ったように笑っていた。


「さっきまでいたならマンションに先回り出来るから行かせてくれ!」
「事と次第によっちゃーお断りよ」
「緊急事態なんだよっ!それくらいわかるだろ!?」


俺の言葉に、園子ちゃんは1度目を伏せ、掴んでいた手を離した。


「そーいや言ってなかったけど、」
「あ?」


ヘルメット被ってバイクに跨る最中に園子ちゃんが口を開いた。


「私の彼氏の話」
「今それどころじゃねーんだけど」
「杯戸高校空手部主将、通称・蹴撃の貴公子。連戦連勝、無敗記録更新中の孤高の拳聖とまで言われてる超強いイケてる人なんだけど」
「えっ」
「場合によっちゃー、蘭と真さんに挟み撃ちしてもらうから覚悟しときなさいよ!?」


ギロッと俺のことを睨みながら園子ちゃんは言う。
隣にいる蘭ちゃんに目を向けると、


「京極さんがいるなら、私は必要ないと思うけど」


渇いた笑いを上げた。
…つまりそれだけ園子ちゃんの彼氏が強ぇ、ってことで。
なんでそんな物騒の男を彼氏にしてんだよ…!


「言っとくけど、これで2度目よ。次はないから」
「肝に銘じておきます」


フン、と鼻息荒くさせた園子ちゃんに見送られ、あおいちゃんのマンションに向かった。
そしてマンションに先回りして近くで待っていたところに、


「…」


あおいちゃんがやってきた。


「あおいちゃん!」
「……」


あからさまに俺から目を逸らし、無言でマンションの中に入ろうとするあおいちゃん。


「ねぇ、待って!話し聞いて!」
「……」
「俺、別に青子呼んだわけじゃねーから!」
「……」
「昨日マジで熱出てるは頭痛ぇはで、追い返す気力もなかったんだって」


俺の言葉が聞こえてるはずなのに、まるで聞こえていないかのように中に入って行こうとする。
なんとかして話しを聞いてもらうしかない。
… あおいちゃんは弱ってる人間に甘い。
なら…。


「ねぇ、話し聞いてってゴホゴホッ」


身を屈めて咳込むフリをした(厳密に言うと風邪引いてる最中の俺は半分ほんと、半分フリってとこだけど)


「ゲホッ、ゴホッゴホッ」
「……だ、大丈夫!?」


案の定、俺に駆け寄ってきたあおいちゃんの手首を思い切り掴んだ。


「捕まえた。…1回、ちゃんと話ししよ」


掴んだ手に抵抗するような力がかかるけど、俺の力とあおいちゃんの力じゃ比べるまでもなく。


「部屋、行っていい?」


逃げられないと観念したらしいあおいちゃんは黙って頷いた。
部屋に入って、喉に良いと出されたハチミツ生姜の独特の匂いが鼻をくすぐった。


「それで、さ。…昨日、来てくれたんだろ?ごめんな。俺マジで気づかなかったし、…青子のことも。あれはたまたま貰い物のお裾分けに来ただけで、呼んだわけじゃなくて、」


あおいちゃんは表情が豊かだ。
泣いたり笑ったり、コロコロとよく表情が変わる。
でも今は、泣いてるわけでもなく、俯いて俺を見ようともせず、ただ黙って座っていた。
あおいちゃんは、本当に怒ると喋らなくなる。
黙っていなくなる。
いや…。
今は怒るよりも、呆れてるのかも、しれない。
何度も同じことを繰り返す俺に、言っても変わらないと諦めたのかも、しれない。


「あおいちゃん!」


決して目を合わせようとしないあおいちゃんに、我慢が出来なかった。


「ねぇ、俺を見て。今思ってることなんでもいいから、なんでも言って」


俺は思ったことを口にする方だ。
ずっと一緒にいた、青子もそのタイプだ。
それでよく喧嘩になったとしても、自分の意見は言ってしまう。
…それが当たり前だと思ってた。
何も言われないことが逆にこんなにも心を掻きむしられることだなんて、思いもしなかった。


「ねぇ、あおいちゃん、」
「私、」
「うん?」
「もう快斗くんち行かない」


両手で顔を包み込むように触れたあおいちゃんは、ようやく俺の顔を見据えた。


「いくら幼馴染だからって、なんで他に誰もいない時に女の子部屋に入れるの?」
「…うん。ごめん」
「そりゃあ具合悪くて大変だったかもしれないけど、私行くって言ったじゃん!」
「うん」
「なんであの子がいるの?まだ私が快斗くんの彼女でしょ?」


何それ。
「まだ彼女」って別れるつもりでいるってこと?
そう聞きたかったけど、それまで泣いてるわけでも、怒ってるわでもなかったあおいちゃんは、そこまで言い終わった直後、ぐしゃっと顔を歪めて、


「快斗くんの幼馴染だけど、私っ、あの子、嫌い…!」


ボロボロと涙を流し始めた。
以前園子ちゃんも言ってた。
あおいちゃんは誰かの悪口になるようなことは決して言わない子だ、と。
前は青子を「ちょっと嫌だ」と言うに留まっていたけど、今回ははっきり言った。
「嫌いだ」と。
そんなこと、言うような子じゃないのに、そう言わせてしまった。
俺の考えが甘いばっかりに、いつも傷つけてしまう。


「ほんとにごめんな」


わーわー泣くあおいちゃんを抱き寄せるけど、あおいちゃんが俺を抱き締め返すことはなかった。

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