キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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彼女と幼馴染


きらい


快斗くんの家に行って、部屋に中森さんが来ているってわかった時、悲しかったのかな?
…わからない。
悲しくないと言えば、ウソになる。
だけどそれはわかりきっていたことだから。
快斗くんは私を好きになってくれた。
私を彼女にしてくれた。
…でも中森さんは?
蘭がやっぱり、新一くんを好きって気づいたように、中森さんもそうならないなんて言えない。
それに、あんなにハキハキしてて、なんでも出来そうな可愛い女の子が身近にいて、自分を好きになったら、快斗くんだって、わからない。
結局、どんなに回り道をしたって、快斗くんは中森さんを選ぶって、もう決まっていることなんだと思う。


「おっはよー!」
「…はよ」
「なになに、元気ないじゃない!どーした、どーした!?」


昨日は江古田から帰って、ずっと1人で引き篭もっていた。
そうしていても時間というのは平等に流れるもので。
月曜日の朝、園子がいつも通り元気に挨拶してくれたけど、どーにもテンションの上がらない寝不足な私は、いつもよりもグッとトーン低めに返していた。


「んー…、風邪かなー…」
「あー、この前ちょっち寒かったしねー」


気をつけなさいよー、と言いながら園子は教室に向かう。
…快斗くん、風邪良くなったかな…。
昨日行かないってメールしてからずっと電源切ってるから…。
でも中森さんが看病してるなら、大丈夫、か…。


「じゃあ次のページ開いてー、」


いつも以上に授業が右から左に抜けていって。
あーあー、今日学校休めば良かったなぁ、とか思いつつ、長い長い1日が終わり、放課後になった。
さぁ帰ろうか、って部活がお休みの園子、蘭と一緒に玄関に向かった。
生徒玄関の先が、なんだかざわざわと騒がしい。


「どーしたの?」
「なんか誰かのお迎え?に、イケメン来てるっぽい」
「マジで!?どこ!?」
「ほら、校門のとこのバイクの人」
「んー?どれどれー?」


園子が近くにいた子を捕まえて話を聞いた。
…バイクで来てる、お迎えって…。
そう思った瞬間、そこからスッと離れ、裏門に回った。
違うかもしれない。
でも、そうかもしれない。
なら今はちょっと、会いたくない。
そう思って、裏門からマンションに向かった。
…の、だけど。


「あおいちゃん!」


どう頑張っても、徒歩とバイクじゃ、バイクの方が早いわけで…。
あと少しでマンション、てところで快斗くんに待ち伏せされていた…。


「ねぇ、待って!話し聞いて!」


話すこと、ない、し。


「俺、別に青子呼んだわけじゃねーから!」


そういうの、聞きたくない、し。


「昨日マジで熱出てるは頭痛ぇはで、追い返す気力もなかったんだって」


そんなこと、どうでもいいし。


「ねぇ、話し聞いてってゴホゴホッ」


そう言ったところで、快斗くんが咳をし始めた。


「ゲホッ、ゴホッゴホッ」


少し、痰が絡むような咳で、その場に疼くまって咳をし続けるから、


「だ、大丈夫!?」


思わず駆け寄って背中を擦ろうとした。
そしたら、


「捕まえた」


背中を擦ろうと伸ばした私の手首を掴んで、快斗くんはニヤリと笑った。


「1回、ちゃんと話ししよ」


快斗くんに掴まれた手首はビクともしなくて。
咄嗟に言葉も出ないし、


「部屋、行っていい?」


快斗くんの言葉に、頷くしかなかった。
ありがと、って言う快斗くんを連れて(厳密には快斗くんに引っ張られて)自宅に戻ってきた。


「どうぞ」
「いただきます。…これハチミツ生姜?」
「うん。喉にいいから」
「そか。ありがとな」


快斗くんは部屋に着く前にも何度か咳をしたから、やっぱり喉を痛めてるんだと思った。
だから昔お母さんから教えてもらって今も常備してる、喉痛めた時に効くっていうハチミツ生姜を出した。


「それで、さ。…昨日、来てくれたんだろ?」


ハチミツ生姜を少し飲んだ後で、快斗くんが言いにくそうに口を開いた。


「ごめんな。俺マジで気づかなかったし、…青子のことも。あれはたまたま貰い物のお裾分けに来ただけで、呼んだわけじゃなくて、」


快斗くんは言う。
チャイム鳴らしても出てこないのに、鍵が開いてたから心配して入ってきたんだ、って。
…でも普通、例え玄関の鍵が開いてようと、他所のお家には入らないと思う。
けどきっと、快斗くんと中森さんの間では、入ることの方が普通なんだ。


「あおいちゃん!」


俯いたまま返事をしない私に、快斗くんは痺れを切らしたのか、グイッと両手で私の頬を包み込み、自分の方を向かせた。


「ねぇ、俺を見て。今思ってることなんでもいいから、なんでも言って」


快斗くんは、いつもニコニコしている。
怒ってる時でも、目は笑ってないけど、笑いながら怒る、っていう人の典型だと思う。


「このまま話せなくなるとか絶対嫌だ」


でもその快斗くんが、すごく悲しそうに顔を歪めていた。
…中森さんのことは、確かに悲しかったけど。
何より快斗くんにこんな顔させてしまったことが、悲しくなった。


「ねぇ、あおいちゃん、」
「私、」
「うん?」
「もう快斗くんち行かない」


昨日はただただ、起きた事実を消化させようと、頭の中がパニックになってたんだと思う。


「いくら幼馴染だからって、なんで他に誰もいない時に女の子部屋に入れるの?」
「…うん。ごめん」
「そりゃあ具合悪くて大変だったかもしれないけど、私行くって言ったじゃん!」
「うん」
「なんであの子がいるの?まだ私が快斗くんの彼女でしょ?」
「あおいちゃん、」
「快斗くんの幼馴染だけど、私っ、あの子、嫌い…!」


1日経って、快斗くんを前に思ってることを言ったら、ブワッと涙が出てきた。
幼馴染なんだから仕方ない。
でもそんな言葉で納得できるわけがない。
だって自分の彼氏が体調悪い時に、わざわざ部屋にまで行って看病するんだよ?
そんなの、許せるわけない。


「ごめん。ほんとにごめんな」


わーわー泣く私に、快斗くんはずっと謝罪の言葉を口にしていた。

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