キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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秘密


ずっと側に


クリス・ヴィンヤードについてわかることは、昨年亡くなった大女優シャロン・ヴィンヤードの若かりし頃にうり二つな娘であり、本人も女優として活躍。
現在は女優業を休業中でどこで何をしてるのかその近しい人間もわからない、ということだけだった。
まさか休業中の女優が、ヤベー組織の人間として日本に来てるなんて誰も思いやしねーし、そもそも他人に化けることを生業としてる女優だ。
ちょっと変装してりゃあ、綺麗な外国のお姉さんくらいな認識しか持たれねーだろうし。
…そんな女がなんだってあおいちゃんに執着するんだ?
だいたいシャロンとは会ったって言ってたけど、クリスと会ったなんて言ってなかったぞ…。
けどあの口ぶりから、かなりあおいちゃんにご執心のようだし…、工藤新一に関してもそうだ。
あおいちゃんが人を惑わす小悪魔ってのには、まぁ、賛同できるけど、何をもって「シルバーブレッド」と言っているのかさっぱりわからねー…。
やっぱりこれ本人に聞くしかねーか…。
そう思い、いつものようにあおいちゃんちに行って、いつものようにソファに座って、最近のお決まりな俺の足の間に入れてあおいちゃんをバックハグしながら、どー切り出したもんかと考えていた。


「警視庁?」
「そう。キッドに助けられた時のこと、中森警部って警部さんが聞きたいんだって」
「あぁ…」


中森警部も、少しでもキッドの情報ほしいのはわかるけど、普通女子高生を警視庁に呼び出すかよ…。
後からバレても嫌だし(後ろめたいこともねーのに)中森警部が青子の父ちゃんだって話しをした。
あれから本当に青子の名前をあおいちゃんの前で出さないようにしているし、実際今まで出なかったからどーいう反応するかと思ったけど、思いの外サラッとしていて少しホッとした(だからってまた名前出したりはしない)
そんな時、


「あ、あのさ、」
「うん?」
「ちっ、ちょっと離れる?」


不意にあおいちゃんが口を開いた。


「やだ」
「えっ!?」
「こうしてるの駄目?」
「だっ、だめなわけない、じゃん、」
「じゃあいいだろ」
「えっ」
「あおいちゃんが離れてると俺心配なんだもん」


工藤新一はこの際仕方ねーとする。
でもクリス・ヴィンヤードはおかしいだろ。
なんで銃刀法がある日本で銃ぶっ放すような人間から目つけられてんだよ、おかしいだろ。


「な、」
「うん?」
「なん、か、あった?」


抱きしめてる俺の腕をギュッと掴んで、あおいちゃんは聞いてきた。
なんかあったかなんて、そんなんあったからこうなってるに決まってんだろ。


「あおいちゃんさー、」
「う、うん?」
「俺に隠してることない?」
「え?隠してること?」
「例えばー、工藤新一関連とか」
「え?新一くん?新一くんのことで隠してることなんて…あっ!」


ブツブツと呟くように言ってたあおいちゃんが突然大きい声をあげた。


「あるの?」
「警視庁に行くのついてきてくれるんだって」


…そー言うことじゃねーだろ。
そー言うこと聞いてんじゃねーし…。
もーほんとどーしたらいいんだ、これ。
俺は本気でどっかにこの子閉じ込めておきたいくらいなこと思ってんのに。
なんて思ってる俺に気づいたのか、


「快斗くんやっぱり手離して!」


って言われて少し、いや、わりと凹んだ。
直後、


「私も快斗くんをぎゅってする!」


俺に向き直って座り、俺の首に手を回して抱きしめるように俺にくっついてきた。


「さっきのも好きだけど、こっちも好き」
「こっち?」
「私も快斗くんぎゅってできるから!」


耳元でクスクス笑うあおいちゃん。
…あーあ、ほんとこのまま2人だけで過ごせたらいーのにな…。


「ちょっと情けねーこと言ってい?」
「情けないこと?」
「俺、自分で思ってた以上に心狭ぇ男なんだわ」


あおいちゃんは、青子に対してこそ駄目だけど、それ以外、それこそ俺が園子ちゃんと仲良くしてよーが、紅子と話してよーが、何も言わない。
…たぶん、それが普通なのかもしれない。


「俺が知らないあおいちゃんとの時間を他の男が過ごしてんの、マジで腹立つ」


でも俺にはその普通がなく、あるのは小っちぇ器だけだ。


「あおいちゃんの全部の時間を俺だけが知ってたい」


何も男に限ったことじゃなく、あのクリス・ヴィンヤードですら籠絡させたとしたら、もう誰が現れて何が起ころうが不思議じゃねーし。
あの日屋上で話した、運命どーののこともあるし…。
本当にいつか突然、この子がいなくなるのかもしれないとか…。
そんなことまで考えちまう。


「ごめんな。…情けねーし、重いし、自分でも嫌になる」


あおいちゃんはそう言った俺の両頬を包み込むようにして、その漆黒の黒曜石に俺を写し出した。


「なんで謝るの?」
「え?」
「私別に嫌じゃないよ」


普段の頼りなさからは考えられないほどに、真っ直ぐと俺を見つめる黒曜石は、


「快斗くんのこと情けないなんて思ったことないし、重いとかは誰かと比べたことないからわかんないし」


決して揺るがない強さを感じさせた。


「むしろほら、私頼りないけど、快斗くんがちゃんとそう言うこと言ってくれるの嬉しいよ!」


肝心な部分で、俺は弱い。
親父のこともずっと引きずっていたくらいだ。
でもこの子は違う。
この子は俺が思っている以上に、ずっと強い。
例えば本当にどこかに閉じ込めたとしても、そのままただ黙って閉じ込められるだけのお姫様になんて、なってはくれないだろう。


「あ!快斗くん悩んでるのに嬉しいはダメか!うーん…でもほら、快斗くんのそういう話は、私はいつでも来い!って感じだから」


そう言って俺の鼻にキスしたあおいちゃんは、フワッと音が出そうなほど柔らかく笑う。


「俺もう一生、あおいちゃんに敵わない気する」


なんでこんな情けない俺を、そんな風に受け入れてくれんのかな…。


「ねぇ」
「う、うん?」
「ずっと俺の側にいて」


一瞬驚いた顔をした後で、


「私、側にいるよ」


そう言って俺の頭を撫でてきた。
…それは意識してか無意識でなのか…。
ずっと側にいてと言った俺の言葉に、あおいちゃんは『ずっと』側にいるとは言ってくれなかった。

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