■あなたが見せる弱さ
園子の誘拐事件があって、園子のお母さんが会見してくれて、一件落着!って思うのも束の間。
「えっ?警視庁?」
世界的に見てもレアな警視庁に呼び出される女子高生ってのを経験することになった。
「おー。オメー、キッドに助けられただろ?一応その時の状況は佐藤刑事が聞いたみてぇだけど、それとは別に二課の中森警部、っつー警部さんがキッドの話し聞きてぇんだと」
「なかもりけいぶ」
それはもしかしなくても中森さんのお父さんのことで…。
「え、行きたくな」
「俺もつきあってやっから協力してやれよ」
な?って言われながら誘拐事件のお見舞い品て感じに高級チョコのお菓子(しかも箱!)を差し出されたら、行くしかない感じになるじゃん…。
「え?警視庁?」
そしてあの事件後、変わらずうちに来る快斗くんにその話をしたら、私と全く同じ反応をした。
わかる、ほんとに、え?警視庁?だよ…。
それより快斗くんと言えばなんか…すごく…くっついてくるようになった。
嬉しいんだよ?快斗くんにくっつかれるのは嬉しいんだけど、ちょっと動きにくい時が…。
「そう。キッドに助けられた時のこと、中森警部って警部さんが聞きたいんだって」
「あぁ…」
今も2人ソファに座って後ろからぎゅってされながら頭にほっぺつけて話してくる快斗くんに、全く身動きできずにいた(温かいし、いい匂いだからいいんだけどさ!)
「中森警部ってさ、青子の親父さんなんだよ」
「へー」
「キッド逮捕の陣頭指揮してる人だから話し聞きてーんだろ」
「世の中狭いね」
「だな」
ピッタリとくっつく快斗くん。
ほんとに嬉しいんだよ。
嬉しいんだけど…動けない…。
「あ、あのさ、」
「うん?」
「ちっ、ちょっと離れる?」
「やだ」
「えっ!?」
「こうしてるの駄目?」
頭にちゅっちゅしながら聞いてくる快斗くん。
そんな、ダメなわけないじゃん!
でもこれじゃ何も出来ないじゃん…!!
「あおいちゃんが離れてると俺心配なんだもん」
ぐりぐりっとほっぺをくっつけながら快斗くんは言う。
「な、」
「うん?」
「なん、か、あった?」
快斗くんは私を甘やかす天才だと思う。
でもこんな感じに…、甘えながら、とか?今まであんまりなかった。
「あおいちゃんさー、」
「う、うん?」
「俺に隠してることない?」
「え?隠してること?」
「例えばー、工藤新一関連とか」
快斗くんが言わんとすることがわからないけど、新一くん関連で隠してることなんて…あっ!
「あるの?」
「警視庁に行くのついてきてくれるんだって」
「…そー言うことじゃねーだろ」
私の言葉に快斗くんは、はぁ、とため息を吐いた。
「快斗くんやっぱり手離して!」
「え?…うん」
快斗くんが私をぎゅってしてる手を緩めた瞬間、いつもしてるみたいに快斗くんに向き合って座り直した。
「私も快斗くんをぎゅってする!」
なんだか快斗くんが…お疲れ?弱ってる?のを感じた私は、これは彼女として腕の見せどころじゃないの!?って思ったわけで。
そのまま快斗くんの首に手を回し、ぎゅって抱きしめた。
「ちょっと情けねーこと言ってい?」
快斗くんも私の背中に手を回しながら、そう言ってきた。
「俺、自分で思ってた以上に心狭ぇ男なんだわ」
私の首筋に顔を埋めて、くぐもった声でそう言う。
「俺が知らないあおいちゃんとの時間を他の男が過ごしてんの、マジで腹立つ」
なんでそうしたのかわからないけど、自然と快斗くんの背中を擦りながら話を聞いていた。
「あおいちゃんの全部の時間を俺だけが知ってたい」
そこまで言うと快斗くんは私の首から顔を離した。
「ごめんな。…情けねーし、重いし、自分でも嫌になる」
快斗くんがなんでそんなこと考えたのかわからないけど、泣きそうな顔で言うほど、快斗くんにとって深刻な問題なんだと思った。
「なんで謝るの?」
「え?」
「私別に嫌じゃないよ」
「…けど、」
「快斗くんのこと情けないなんて思ったことないし、重いとかは誰かと比べたことないからわかんないし」
「…」
「むしろほら、私頼りないけど、快斗くんがちゃんとそう言うこと言ってくれるの嬉しいよ!」
「お、れは、」
「あ!快斗くん悩んでるのに嬉しいはダメか!うーん…でもほら、快斗くんのそういう話は、私はいつでも来い!って感じだから」
ちょっと考え、考え話してるから、自分でも何言ってるんだろ、って感じだけど、それでも快斗くんにこの熱意だけは伝わってほしいと思う。
「あー!もうっ!!」
「えっ!?」
快斗くんはいきなり叫んだかと思うと今日1番、力強く私を抱きしめた。
「俺もう一生、あおいちゃんに敵わない気する」
「なんで!?」
「ねぇ」
「う、うん?」
「ずっと俺の側にいて」
腕の力を緩めてジッと私を見る快斗くん。
快斗くんに何があったのかわからない。
私に具体的に言わないってことは、もしかしたら、怪盗キッドとして、何かあったのかもしれない。
快斗くんは私を甘やかす天才だから、新一くんのこと以外でこんなお願いっぽく言うのは珍しい。
だから叶えてあげたい。
…でもきっと『ずっと』は難しいって、自分でわかっていた。
だから、
「私、側にいるよ」
そう言って快斗くんの頭を撫でた。
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bkm