キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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財閥令嬢誘拐事件


小悪魔と銀の弾丸


鈴木財閥の呼びかけのお陰で、あおいちゃんに対するネットの動きは鎮静化した。
あの子がキッドの仲間扱いされずに、心の底から安心した。


「これも違う」


そして今日も怪盗キッドとしての仕事をしていた俺。
今日は久しぶりにヘマをして、左腕に掠り傷ができた。
怪我しちまうし、目当ての宝石でもねーし、サッサと帰るか。
そう思った時だった。

パシュッ

背後に人の気配を感じ振り返った瞬間、俺の右脇を弾丸が突き抜けた。


「あら、今のを避けるのね」


振り返るとそこには、黒ずくめの服装で、闇夜の中でも分かる鮮やかな金髪の女が立っていた。


「これはこれは、随分と物騒な挨拶をされるご婦人ですね」


帽子を目深に被っていて顔がはっきりと見えない。


「女からの挨拶は受けるものよ」
「受け取りたいのはやまやまですが、初対面の方の熱烈すぎる思いにはいささか慎重になります」


女は動かない。
…今の風の流れから、月が雲から顔を出すのは後2分もかからないだろう。


「口の回る泥棒だこと」
「怪盗ですよ」


相変わらず銃を構えてるこの女の目的がわからない。
パンドラを狙う組織の連中、とは、少し違う。
アイツらよりももっと底知れない何かを感じさせる女だ。


「まぁいいわ。今日はあなたに忠告に来たの」
「忠告?」


月が少しずつ雲から顔を出し、女の顔を照らし始める。


「えぇ。私の可愛い小悪魔ちゃんがあなたまで惑わしたんじゃないかって心配で仕方ないのよ」
「小悪魔?何のことです」
「…」


女は弧を描くように無言で笑う。


「あの子を助けてくれたお礼は言うわ。ありがとう、怪盗紳士さん。でももう二度とあの子に関わらないで」


雲が晴れ、月が完全にその姿を出した時、照らしだされた女の顔に見覚えがあった。


「あなたは確か、休業中のハリウッド女優クリス・ヴィンヤード」
「あなたにまで知られてるなんて光栄ね」


俺とクリス・ヴィンヤードの直接的な関わりはない。
だが確実にクリスの親しい人物と接触していて、クリス本人とも接触があった可能性があり、かつこの女の口ぶりから「あの子」ってのは十中八九あおいちゃんのことだろう。


「あなたが仰るのは、私が先日助けた少女のことですか?」
「えぇ。私の可愛い小悪魔ちゃん。男だけじゃなく、人を惑わすイケナイ子よ」


クリスの言わんとすることがいまいちわからねーが、小悪魔ちゃんてのがあおいちゃんを指すんだとしたら、その言葉には激しく同意だ。


「あなたまで惑わしかねない子だから、先に忠告しに来たの」


クリスは俺に正体がバレてることで、被っていた帽子を脱ぎ捨てた。


「あの子の隣はシルバーブレッドこそ相応しい。闇に生きるあなたじゃないわ」
「シルバーブレッド?」
「えぇ。何よりも光輝く、銀の弾丸。彼に狙われたらひと溜まりもないでしょうね、私もあなたも」


最もまだ仮のシルバーブレッド候補と言ったところだけど、と、クリスは再び弧を描くように笑う。
…要するに、あおいちゃんがどっかでこのヤベー女に気に入られちまって、この女的に推してる男(正義の味方かなんかか?)とくっつけてーけど、俺が邪魔だって話しだよな?


「随分とおもしろい話しですね!あなたは『小悪魔』と呼んでいるのに、その方に相応しいのが『銀の弾丸』ですか?私の記憶違いでなければ、悪魔も銀の弾丸で弱り、場合によっては死に至るかと」
「そうね。でもあの子にはそれくらいでちょうどいいのよ。シルバーブレッドなら、他を薙ぎ払いながらもあの子を従順にさせられるもの」
「女性を弱らせ飼い慣らそうとは感心しませんね」
「飼い慣らすわけじゃないわ。互いを求め合うのよ。少なくとも彼にはその意思はあるでしょうし」


そこまで話して合点がいった。
この女が言う小悪魔があおいちゃんのことなら、シルバーブレッドっつーのは、まず間違いなく工藤新一のことだ。
…ニューヨークで俺が聞いてない何かがあったとしか思えない。
それがきっかけでこの女はあおいちゃんと工藤新一の邪魔になりそうなものを排除していってるってことだろう。
一般人相手ならそこまでしない。
現に黒羽快斗のところに現れた形跡は一切ない。
けど今の俺、怪盗キッドのところに来たのは「闇に生きる」人間の側にいてほしくないからだろう。
…そんなこと、この女に言われるまでもなく、俺が1番わかってる。
このことに関しては例え何が起きようとも、あの子だけは巻き込んじゃいけない。
それはもう、とっくにわかっていることだ。
…だけど


「あなたの忠告は確かに承りました」
「わかってもらえて嬉しいわ」
「ですがもう手遅れのようです」
「え?」


赤の他人に言われるのは癪に障る。


「あなたのようなレディまで惑わした稀代のビッグジュエルを私がみすみす見逃すとでも?」
「…死に急ぎたいタイプだとは思わなかったけど?」
「あなたのシルバーブレッドにお伝えください!私は狙った獲物は逃しません。そして1度宝石箱に入れた宝石を手放す気もありません。欲しいのなら奪う覚悟で来ることです。いつでもお相手致します、とね!」
「まるでもう手に入れてるような口ぶりね」
「例え手に入れてなくとも、盗むことが私の仕事ですから」


女が動き出す前に、屋上の鉄柵に飛び乗った。


「あの子を助けてくれたお礼に、あなたの正体については調べないであげていたんだけど、今のがジョークじゃなく、本気でまたあの子の前に現れたら、次は容赦しないわよ」
「大丈夫ですよ。あなたのような物騒なレディと次を作る気はないですから」


そう言って屋上から飛び立った。
クリスは本当に今日は忠告なだけで、飛び立った俺に追撃してくるような真似はしなかった。
そして帰宅後、風呂に入りながらようやくゆっくりと考えることが出来た。
…あの子が人を惹きつけるってーのは知ってたことだ。そこは今さらだろう。
でもまさか、あのクリス・ヴィンヤードを釣り上げてるなんて思いもしねーだろ。
しかもクリスはクリスで「俺」に顔がバレても意に返さないあたり、いつでも消せるような、そういう世界に身を置いてるってことだし。


「…マジで監禁でもして俺以外と接触できないよーにしてぇ…」


そんな考えを流そうと、浴槽に頭まで浸かった。

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bkm

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