キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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Summer Vacation


廻る歯車


俺の名前は黒羽快斗。
人よりちょーっと頭の出来がいい中学生。
去年弓道の全国大会で3位になった、所謂文武両道なデキる男、って奴だと思う。
ちなみに見た目も親父譲りの良い男になる予定だ。


「黒羽くん、好きです。つきあってください」
「あー、悪ぃ、俺彼女作る気ねぇから」
「え…」
「だからとりあえず友達、ってことではじめねー?」


そして自分で言うのも何だけど、俺は一般よりもモテる部類にいると思う。
だけど「あの日」を境に決めたこと。


「快斗また女の子フッたんだって?」
「だって俺トクベツを作る気ねーもん」
「…まだそんなこと言ってるの?」


この世で最も敬愛したマジシャン、父・黒羽盗一が死んだあの日。
世界の全ての希望が消え、世界の全ての絶望にのまれたようなあの日。
自分の未熟さ不甲斐なさ、無力さを痛感した俺が出した結論。


「まだも何も、もう決めたことだって前に青子にも言っただろ?」


俺はもう2度と「トクベツ」を作らないと決めた。
特別でなければ、失ったとしても何も自我が崩壊することもない。
特別でなければ、空いた穴は別の何かで直ぐ埋まる。


「はぁ…。青子は心配だよ。快斗も本気になれるような誰か好きな子出来ればいいのに…」
「いらねぇ、いらねぇ。俺は今のままで十分!」


俺に特別は要らない。
みんなに平等に優しく、そして平等に冷たい。
そうすることで特別を作らないように生きていた。
…ん、だけど…。


「…更衣室、案内してあげてくれないかな?」
「はっ、ははははいぃぃぃ!!!…………ぎゃっ!!」


最初はちょっと、ドジな子だなーってくらいの印象だったと思う。
弓道初心者にはよくあることだけど、それでもまさかそれを「練習試合」って場でやらかしちまうのは何より本人が1番ツラいだろうと思ったから声をかけた。


「あ、ああああありがとう、ございっ、ますっ」


立ち上がった子は、中学生にしては小さい、綺麗な黒髪の女の子。
闇夜のような真っ黒の髪の間から見える白い肌を真っ赤にさせてたのは、ちょっと可愛いと思った。
女の子の名前は芳賀さん。
見た目の先入観から入ったばっかの1年だろうと思ったのを覚えてる。
だけど意外なことに弓道はなかなかの腕前だった。


「芳賀さん、弓道うめぇじゃん!さっき、型がすげぇ綺麗だったぜ?このまま頑張れば、関東大会良いとこいけると思うけど?」


1年で全中3位だった俺は、中学弓道界じゃそこそこ有名人。
例に漏れなく芳賀さんも知ってたようで、全中に向けて応援された。
まぁその前に関東大会あるし、また会うだろうなーくらいの気持ちだったと思う。


「あ、あの時の…えっ、2年!?同い年!?」


関東大会で配られた出場者名簿で芳賀さんの名前を探したらまさかの同い年であることが判明。
マジで?あの子同い年なの?いやいや見えなくねーか?
そんなこと思いながら会場のどこかにいる芳賀さん…同い年だし気持ち的には芳賀ちゃんを探すとちょうど出番、て時だった。
…やっぱりこの子、上手ぇな。
型が他の奴らと違ってそれこそ教本に出てきそうなほど綺麗な型だ。
良く言えば基本に忠実、悪く言えば応用が効かない。
帝丹の弓道部は廃れててそういう細かいとこ指導できる明確な顧問がいないのがもったいねー。
きっとこれが決まればこの子も一緒に上の大会行ける、そう思った時だった。


びよ〜〜〜〜ん


「ぶふっ!」


間の抜けた音が会場中に響いたような瞬間だった。
それを見たら思わず噴き出しちまったこと、口が裂けても本人には言えないだろう。
この時何で呼び止めたのか聞かれたら、なんとなく、としか言えないだろう。
別に声かけるつもりで行ってたわけじゃなければ、何を話そうか決めてたわけでもなかった。
ただ帰宅する帝丹中の部員の中に芳賀ちゃんを見かけたから呼び止めていただけのことだった。


「い、1本目から見てたんです…の!?」


ちょっと会話したら、予想の斜め上を行くおもしろい子だってのがわかって、俄然友達になりたくなった。


「マジで?じゃあ交換しよーぜ!」
「は、はははははいぃぃっ!!!ど、どどどどうぞっ!!!」


話す言葉だけじゃなく、この子の存在がツボに入っちまって、爆笑してしまった。
俺この子といたらずっと笑ってる自信ある。
それくらい何かが振り切れたような言動をする芳賀ちゃん。
こういう子はきっと、親に愛され大事にされて育ってんだろうと勝手に思ってた。
私立の帝丹に通わせるくらいだし、愛情も金もかけて育てられた、そんな柔らかい空気が芳賀ちゃんにはある気がした。
…けど、そんなの俺の勝手な思い込みだったわけで。


「うちも5年くらい前かなー、交通事故で、」


あり得ねーだろ、って。
うちはいっくら放任でよく家空けるとはいえ、お袋がいる。
それでもやっぱり、親父が死んだ時は堪えられねーほどの後悔が胸を覆っていた。
そりゃ親が亡くなったからって、いつまで悲しんでればいいんだよって話しだから、元気でいるのもわかる。
…けど、2人ともいっぺんに亡くした上、転々とさせられた奴がなんでこんな風に笑えんのか理解できなかった。


「生活費とか、どーしてんの?」


さっきからずっと俺の頭の中で警鐘が鳴り響いている。
この女は駄目だ。
これ以上関わってはいけない。
この女に関われば、いつか「トクベツ」が出来てしまう。
今はまだはっきりとした形もないその予感は、それでも確かにすでに自分の中にある。
だから全力で警鐘が鳴り響いている。
コイツにだけは近づくな。
頭ではわかっている。


「親の遺産?があるから、」


でも心がそれについて行かなかった。


「決めた。俺これから毎日芳賀ちゃんに連絡する」


人間には運命と言う物が存在するらしい。
数多の偶然が重なり合いそれが歯車のように廻り出した時、それは運命となり奇跡が起こる。
いつかこの時のことを振り返る時がきたら、そもそも出逢ったことで歯車が廻り出しちまったんだからどうしようもねーと思うのかもしれない。
これはきっと、俺たちの歯車が噛み合い最初に動き出した瞬間の出来事。
たぶん俺はこの選択を後悔する日がくるだろう。


「……か、快斗、くん」


例えそうだったとしても。
いつか来るかもしれないその日までは、笑って過ごすのもいいんじゃねーかと思った。

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