キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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運命と奇跡


王子になりきれない王子


「ちょっと待ってください。急に話が見えなくなった。運命が何です?」


あおいちゃんの話は要領を得ない。
今の話はつまり、元々決まってる運命に戻るから、ずっと俺とはいれないってこと?
元々決まってる運命って何のことだ?


「自分ではどうにもできないことを、運命って言うんだと思うんです」


俯きながら言うあおいちゃんは、別に「俺」を騙そうとしてるようには見えず、恐らく本当に本人はそう思っているんだろうと思った。


「私『ここ』に来るって本当にいきなり決まって、」
「はい」
「だからきっと『ここ』からいなくなる時もいきなりだと思うんです」
「それはここを立ち去ると言うことですか?」


言わんとする事がわからないまま、話続けるあおいちゃん。
ただわかったのは「いなくなる時」のことを考えているってことだけ。


「そういうことじゃないです」
「ですが、」
「そういうことじゃなくて、…元々の運命に戻るんです」


立ち去るのではなく、元々の運命に戻る?
米花町に来たこと自体が突発的な予期せぬ出来事だった、ってことで?
だからその予期せぬ出来事が起こる前に戻る、ってことか?


「おかしなことを言いますね」
「え?」
「自分ではどうすることもできないことを運命と言うと仰ったのに、あなたはその運命の動向を知っているかのように話す」


なんでそう思っているのかは知らねーけど、1度起きた事象を全てチャラになんて出来るわけがない。
それこそ奇術でも使わない限りは。


「仮にあなたがその運命とやらを知っていて、それが自分の意に反する物ならば、そんなもの運命でもなんでもない」
「…」
「意に反することだとしても、決められた通りにしか動かないのは、それはもう敷かれたレールの上を走るロボットです」


戸惑いながらも俺を見つめ返すあおいちゃん。


「あなたはロボットじゃない。意に反するなら従わなければいい。抗ってこそ、あなたの言う運命とやらが切り拓けるのでは?」
「そん、なに、簡単なことじゃないんです、よ」
「何故?」
「…『ここ』に来れたことが私には奇跡みたいなことで、きっともうそんな奇跡は起きないって知ってるからです」


肩を落としながら言うあおいちゃん。
奇跡は待っていても起きるわけがない。


「奇跡と言うものは、自らの手で起こしてこそ、奇跡と呼ぶと言うことを」


そしてそれを魅せるのが、マジシャンだ。


「…す、っごーい!!星が降ってきてるみたい!」
「ははっ!…お嬢さんは感性が豊かですね」


話し始めてからどこか気鬱そうだった顔が一瞬で晴れて、今日1番の笑顔を見せた。


「でもこれで、おわかりいただけましたか?」
「え?」
「奇跡と言うものは、いつでも、誰でも起こすことができる。その意志さえあれば」
「そうは言うけど…奇跡って、めったに起きないから奇跡って言うんですよ」
「でも私は奇跡を起こせます。あなたのためなら」


こんなことで喜んでくれるなら、いつでもいくらでも奇跡を起こしてやる。
俺の言葉に、薄暗がりの中でもはっきりとあおいちゃんが顔を赤らめたのがわかった。


「おや?どうやら私にも心を盗むチャンスはありそうだ」
「チ、チャンスなん、て、ないですっ!」


手を前に出して首を横に振るあおいちゃんを、少しからかってみたくなった。


「お嬢さんにとって、そんなにイイ男なんですか?」
「控えめに言って、」
「はい?」
「世界良い男選手権があったらトップ3には入ります」


右手で3と表し、至って真剣な顔で断言するあおいちゃん。
…それは誰が出て、何を競うものなんだ?
しかもトップ3って、この子の中の良い男、あと2人は誰?
この子の中ではその2人と並んで俺が入ってんの?
ヤバい、笑えてきた。


「そっ、それにっ!」
「はい?」
「こ、こんなこと言うと子供っぽいって思われるかもしれないけどっ、」
「はい」
「あ、あんなっ、…おっ、」
「お?」
「…王子様、みたいな人、他にいないですっ!!」


今日1番、照れた顔をしながら俺から目を逸したあおいちゃん。
…ごめん、今こんな格好だけど俺がその王子なんだわ。
なんて言えるわけねーし、そもそも本人の口から「王子様」とはっきり聞くのは初めてで、さすがにこっちまで照れくさい。


「ならその王子のためにも、あなたが奇跡を起こしてください。プリンセス?」


それを誤魔化すように手にくちびるを落とした。
そしてそろそろお開きにと思い夜間に出歩くことを注意して、あおいちゃんに帰るように促したわけだが。


「で、でも、怪盗さんは良い人ですよね?」


よく考えてくれ。
「怪盗」だ。
それはつまり「犯罪者」ってことだ。
「良い人」のわけねーだろう。
…なんて今ここで言っても、通じないだろうということはもうわかっている。


「また、会えますか?」


あおいちゃんは「怪盗キッド」に興味を示したようだ。
…これはある意味チャンスかもしれない。
「俺」に話さないことでも、もしかしたら「キッド」に話すかもしれない。
まぁ最も、そんな密接に関わるわけにはいかねーんだけど。
それでもある種の保険にはなり得る。


「あなたが私の奇跡を望むなら、月明かりの下、会いに参りましょう」
「怪盗さんなら、本当に奇跡を起こしてくれそう」
「えぇ、起こしますよ。それがプリンセスのお望みとあらば」
「私がプリンセスですか?そんなこと言うの怪盗さんくらいです」
「口に出さなくともあなたの王子もきっとそう思ってます」


そもそも俺が王子ってガラか?って話しだけど。
それでも俺を王子って言うなら、姫はこの世でたった1人だ。


「さぁ、もう時間です。かぼちゃの馬車はないですが、きちんと戻ってくださいね」


そう言ってあおいちゃんを見送った。
その後俺も家に戻ってあおいちゃんに電話ができるかメールしてみた。
例え直ぐじゃなくとも、あの運命どーのの件、なんでそう思うに至ったか、知っておきたかった。
それを話してもらえるような存在に、なりたかった。


「あおいちゃん今日何してたー?」
「じ、実は怪盗キッドに会ったんです」


まぁ、さっきの今でこの話題出して来なかったら、この子案外俺に秘密にしてることあるんじゃねーか?って疑ってかかるところだったから、妥当な返事だ。


「実は私マンションの屋上の鍵を借りてて、」
「なんで鍵借りてるの?」
「あ、うん、それが話すと長くなるんだけどね、」
「いいよー。なんでも話して」


俺の言葉に、ふふっとあおいちゃんは笑った。
そして言われたのが、工藤新一の母親が昔使ってたトランペットを貸してくれて、それを吹く場所を探してたって話だった。
…ここでもまたオメーが出てくんのか、工藤新一。
ほんとに目障りな奴だ。


「ふーん、そこでキッドにねぇ…」
「そ、そう!びっくりしちゃった!」
「てゆーか、」
「うん?」
「俺はあおいちゃんがトランペット吹けたことにびっくりしたけどな」
「い、言い忘れてたんじゃないよ!ただなんて言うか…忘れてた?」
「結局忘れてんじゃねーか!」


違うのだって、とあおいちゃんは言う。
…あぁ、でもこういうことか。
俺の知らないこの子のことを、この子との時間を過ごした奴を、受け付けられなくて当然だ。


「トランペットだって、元はお母さんが『女の子なんだから楽器の1つくらいできるようになりなさい』って言ったから吹けるだけで、有希子さんが貸してくれるから吹き始めたとかじゃないからね」


あぁ、そうか。
自分の母親が薦めたものだから今も続けてるのか。
なら工藤新一も、その話知ってて貸してそうだよな。


「あおいちゃん、俺には話してくんねーもんなー」
「べ、別に話さないわけじゃなくて、」
「頼りない?」
「え?」
「俺、あおいちゃんから見て頼りない?」


そういうことじゃないってことはわかっている。
わかっては、いる。


「か、快斗くんが頼りないわけないじゃん!快斗くんにいつも助けてもらってるし、」


なんで江古田じゃなくて米花町だったんだろう、とか。
どーせなら工藤新一以外と出逢っていれば、とか。
そんな醜い感情、どー考えても王子からかけ離れてるわけで。


「決めた」
「うん?」
「俺、明日そっち行くから」
「えっ?学校は!?」
「放課後行くからダイジョーブ!」


これはもう、開き直るしかねーのかも、とか。
そんなことを思った。

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