キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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運命と奇跡


運命というのは


「その方も心配されるのでは?お嬢さんがこの時間に1人でこんな場所にいることを」


表情の見えないキッドはジリジリと私の方に近づいていた。


「や、でも、そもそも知らないので心配は、」
「何故言わないんです?」
「え、ええー…」


表情見えなくても、はっきりわかる。
快斗くん、怒ってる…!


「い、言わなかったわけじゃないんです!ただなんて言うか……言い忘れてた?」
「お嬢さんにとって、言い忘れる程度の存在なんですか?」
「まさかまさかまさか!それは絶対違います!!」


待って、これ本人に「俺は言い忘れる程度の存在?」って聞かれてるってことだよね!?
なんでそんなことになったのっ!?!?


「ふむ。…お嬢さんにはお嬢さんの言い分があるようだ」


その言葉に勢いよく首を縦に振った。
けど、


「でもきっと、お嬢さんが何を思ってどうしているのかもっと言った方がいいと思いますよ」


相手が男ならば特に、とキッドは言う。
…男ならばどころか本人じゃんっ!!!!
もっとしっかり話せって遠回しに(いっそダイレクトに)言われてるの!?
でも別にそんな一から百までなんて話さなくない!?
それとも世間一般の恋人は一から百まで話すの!?
だけどそんな自分の全部全部ぶちまけて嫌われたらどーするの!?!?


「お嬢さんは百面相がお上手ですね」


うぇあー!ってなってた私に、ようやくキッドが柔らかく笑いながら言ってきた。


「わかりました。ここにたどり着いたよしみです。今夜は特別にお嬢さんの話を聞きましょう?」


柔らかく笑うキッドは、本当に月が似合っていて。
青空が似合う快斗くんとは真逆なような、それでいてやっぱり同じような…。
表裏一体って言葉はこういうことなんじゃないか、ってそんなこと思った。


「そもそも確認したいのですが、」


キッドに話すなんて言ってないのに、気がついたらキッドの人生相談が決まっていて、米花町にあるマンション屋上で、真っ白い服を着た人と向き合ってコンクリの上に座り込んでいた…。


「お嬢さんにとってその方はどんな存在なんです?」


快斗くんはもちろん私が快斗くん=怪盗キッドって気づいてるなんて知らないわけで(今も声変えてるし!)
でも知ってる私からしたらそれは「オメーにとって俺は何?」って聞かれてるようなものなわけで。
ここで彼氏です、なんて言う答えを口にしたとしても、そういうこと聞いてないっていつかの快斗くんが言った言葉が蘇ってくるわけで。
つまりそれは彼氏ってこと以外で「どんな存在か」っていうことを聞かれているわけで。
…なにそれすっごい答えにくくないっ!?


「なるほど。答えられない、もしくは答える価値のない男だ、と」
「全然違いますっ!!!」


やれやれと言った感じにため息を吐くキッドに全力で否定した。
快斗くんのこの態度、私に絶対に怪盗キッドのことを言うつもりはないからこその態度だと思う。
…なら、私も快斗くん=怪盗キッドとは考えずに、快斗くんは快斗くん、怪盗キッドは怪盗キッドとして話してみても罰は当たらないはずだ(何せ先にしらばっくれたのは快斗くんだし!)


「快斗、くん、は、ここに来る前から知ってた人なんです」


じゃあもう覚悟を決めようと、思い切り息を吸い込み、ぽつりぽつりと話始めた。


「ち、ちょっと、ストーカーみたいに聞こえちゃうけど、前から知ってた人で、ここに来た時に絶対友達になりたい!って思ってた人なんです」
「…前からというのは、具体的にいつから?」
「ま、前は前です!」


さすがに元いた世界で10年くらい前からです!なんて言えるわけないからそれで押し切ることにした。


「ずっと、憧れてて…。友達になってくれた時、ほんとにほんとに嬉しかった」


緊張しすぎてやらかした私に、優しく笑いかけてくれた快斗くん。


「友達になって、いっぱいお話することになって。やっぱり優しいし、カッコいいし、…ううん。思ってた以上に優しくてカッコよくて、毎日が夢みたいで」


快斗くんと友達になって、毎日が楽しくてドキドキして。


「う、生まれて初めて、本当に好きになった人、だからっ、」


画面越しだけじゃわからなかったリアルな快斗くんのこと、やっぱり私は好きになった。


「快斗くんにはいつも笑っててほしいし、…大変なこともあるだろうけど、絶対幸せになってほしいなーって思う人です」


怪盗キッドになるということ。
それはきっと私が思っているよりもずっと大変なことだと思う。
でもだからこそ。
いつか、パンドラが見つかって、怪盗キッドをやめる時が来たら、その時は本当に幸せになってほしいと思っている。
…でもきっと、その「いつか」に私はいないんだろうけど。


「ならお嬢さんがずっと彼の傍にいてさしあげればいいのでは?」


私の言葉を茶化すこともなく、真剣に聞いてくれたキッドはそう口にした。


「それはきっと、できません」
「何故?」
「…できないからです」
「どうしてそう思うんです?」


そう聞いてくるキッドは今、手を伸ばせば届く距離にいて。
でもその距離は決して届くことのない距離なんだと思う。


「怪盗さんは、運命ってあると思いますか?」
「随分唐突ですね。運命、ですか。あるかもしれないですね。運命の出逢いとかロマンがある」


そう思いません?とキッドは言う。
快斗くんにとっての運命の出逢いは、


「元々決まっている運命があって、それをちょっと捻じ曲げてしまったとしても、やっぱり元々決まっている運命に戻るんだと、私は思うんです」


きっとあの、時計台での出逢いのことだ。


「だからきっと、できません」


どうせなら、中森青子という存在にしてほしいって、そうお願いしていたら良かったのかもとか。
そんなことを思った。

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