キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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運命と奇跡


予期せぬ遭遇


快斗くんとちょっと気まずくなって、仲直りして。
私にとって江古田は鬼門なのかも…なんて思い始めていた。
いや、江古田が、じゃなくて、中森さんが、だ。
原作では快斗くんと中森さんは素直になれなくて、でも両片思いでそれは周囲も認めるものだったわけで。
今は違うと思っていても、やっぱりほんとは、なんて考えちゃうのはどうしようもないことだと思う。
快斗くんは何でも言って、なんて言うけど、こればっかりは言えない。
だって快斗くんに「この世界は、快斗くんが中森さんのことを好きだった漫画の世界なんだよ」なんて言えるわけないじゃん。


プォー


ちょっとモヤモヤとしても、どうすることもできない私は初めてマンションの屋上に来た。
有希子さんにあおいちゃんに渡したトランペット吹いてる?って言われて、いや実は場所が、なんて言ったら、やだ早く言ってよ、なんとかするから待ってて!って言われた数日後、マンションの管理人さんが部屋にやってきて屋上の鍵をくれた。
なんでも藤峰有希子のファンだっていう管理人さんは有希子さんたってのお願いだからってマンションの屋上を開放、トランペットを吹く許可をくれた(ただし時間制限あり)
お礼を言ったら、今度有希子さんのサインがほしいみたいなことを匂わせてきたから、有希子さんにそれとなく言ったところ、帰国した時に直々に会ってお礼言ってくれることになったってことがあった。
でもやっぱりいきなり使うのは、って躊躇っていたけど、ちょっとモヤモヤを吹き飛ばしたくて(また爆発する前に吹き飛ばしたくて)初めて屋上の鍵を使った。


〜♪〜♪


今夜は月が綺麗に見える。
空気が乾燥してどこまでも音が届く冬にはまだ早く、夏の終わり、熱気と冷気が折り混ざって響く範囲が限られているそんな季節だ。


〜♪〜♪


それでもあの月が音と一緒にこのモヤモヤも吸い上げてくれてるような気がした。
そんな時だった。


「…あ、れ?飛行、機…?」


見上げた月を遮る「何か」が視界に入ってきた。


「…え?鳥…、じゃないっ!?」


月を背に大きく旋回してこちらにやってきた鳥のような存在。
…私はそれをきっと、誰よりも知っていた。


「こんばんは、お嬢さん」


大きな白い鳥は、その羽を仕舞って私の前に降り立った。


「………」


自分で言うのもなんだけど、ニュースを見ない私でもその存在をニュースで目にしていたわけで。
そもそもにおいて、私が「この世界」に来たきっかけの人、…快斗くんの半身、怪盗キッドを見間違うわけもなく。
でもまさかこんなタイミングで出会すなんて思ってもいなかったわけで。
それはもうきれいに「あんぐり」と開いた口を間抜けにも快斗くん…キッドに見せてしまっていた。


「おーい、起きてますかー?」
「はっ!!」
「あ、良かった。起きてますね」


口を開けたままフリーズした私の目の前で手を振って意識確認をしてきたキッドに我に返った。


「かっ、かかかかいとっ…う、さん?」


私の言葉に、


「おや、私をご存知で?」


月を背にしてその表情はよく見えないけど、なんとなく笑っているんだと思った。


「こっ、こここここここには盗む物、ないですよっ!!」


…ホンモノ!!
ホンモノの怪盗キッド!!
いや、快斗くんに会ってる段階でホンモノに会ってるんだけどっ!!
でもそれとはわけが違うじゃんっ!!!!


「盗む物、あるじゃありませんか」
「えっ?」
「あなたの心を盗みに来ました」
「…えっ!?」


キッド(の姿の快斗くん)は1歩、1歩と、私に歩み寄る。
近づくごとにはっきり見えてきたキッドの顔は、快斗くんの笑顔とはちょっと、違って見えた。


「私に盗ませてくれます?」
「…だっ、だめですっ!!もう盗まれ済ですっ!!」


私のその言葉に、


「ふはっ!そうですか、盗まれ済ですか!」


あ、ポーカーフェイスが崩れた。
そう思う顔でキッドは笑っていて。
それはやっぱり、快斗くんの笑顔と同じだと思った。


「それで?」
「はい?」
「こんな夜中にこんなところで何をしていらっしゃったんです?」


でもそれも束の間、ニッコリと笑って言う顔はもうキッドの顔だった。


「な、何を、って、別に、」
「可愛いお嬢さんがこんな時間に1人で何をしていらっしゃったんです?」


あ、私これ知ってる。
笑ってるけど、目が笑ってない、快斗くんが怒ってる時にする顔(というか目)だ。


「ト、トランペットを吹いてた…?」
「だからなんでこの時間にここで吹いてたんです?」


え、私今日初めて怪盗キッドと会ったんだけどなんでちょっとこんな探偵に尋問されてるみたいな感じになってるの?


「ひ、暇だったから…?」
「ほぅ。お嬢さんは暇だと夜中にふらふらと1人で出歩いてトランペットを吹く、と」


そ、そーいえば私、快斗くんにトランペット吹けるって話してなかった気がする…。
え?でもそれをあえて怪盗キッドの時に問い詰められてるのおかしくない??


「べ、別にふらふらしてるわけじゃなくてですね、」
「ふらふらしていなくても遠くまで音が響いてここにいると主張する物をこんな時間に1人で鳴らしているのはいかがな物かと思いますが?」


快斗くんは例えばこういう時、夜危ないから出ちゃだめー、とか言ってくると思うけど、キッドはなんて言うか…チクチクチクチクと言ってくる気がした。


「かっ、怪盗さんには、関係ないじゃないです、か」


嘘。
キッド=快斗くんだって知ってる以上、こういうこと言ってくるってのはもう仕方ない気がしていた。


「なるほど。確かに私には関係のないことですけどね。私より先にお嬢さんの心を盗んだ方が可哀想だ」


シルクハットとモノクルは、上手い具合に表情を隠すんだって初めて知った。
月明かりの中でも、キッドがどういう表情でそう言っているのかは見えずにいた。

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bkm

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