■慣れてる理由
お昼は中学生にも優しいファミレスで食べることにした。
最初ハンバーガーもいいんじゃね?って黒羽くんが言ってたけど、私そんな黒羽くんの前で大口開けて綺麗にハンバーガー食べれる自信ない!
って言う言葉を飲み込んで、そう言えばこっちにあるファミレスの季節限定のスイーツ美味しいって友達言ってたなーって言ったら、じゃあそっち行く?って無事大口を開けずに食べるものをチョイスできるお店に着地することが出来た。
…良かった!
黒羽くんがジェントルマンな王子様で良かった!!
これにゃんこみたいな人だったら、え、俺ハンバーガー食べてぇんだけど?って拒否権のないハンバーガーになってた!!
黒羽くん優しいっ!!!
「芳賀ちゃん何食べるー?」
「うん、と、じゃあ、コレで、」
「お、いいねー美味そう!んじゃあ俺こっちにしよー!」
ちょっと薄々そんな気してたんだけど、黒羽くんこういうこと慣れてるのかな、とか思ってしまう。
なんと言うか、すごくスマート?って言うのかな。
すごく私に、女の子に、気を遣って物事を進めてくれている。
ちょっとだけモヤァとした思いを抱えていると、注文した物が提供された。
「「いっただきまーす」」
パクりと一口食べる。
そりゃあさ、大人の人が行くようなオシャレなカフェとかじゃないよ?
全国チェーンのファミレスだよ?
でもさ、私今朝緊張しすぎて何も食べてないのね!?
この一口が本日初ご飯なわけで。
美味しいぃ!って感じるに決まってるじゃん!!(しかも目の前には黒羽くんつき)
美味しさ倍増しちゃうじゃん!!!
「…」
そう思ってパクパク食べてたら、黒羽くんがニコニコしなながらこっちを見ていた。
…しまった、食べることに夢中になりすぎた…!
「芳賀ちゃんて美味そうに食べんねー」
一緒に来た甲斐ある、と黒羽くんも自分の料理に手を伸ばした。
…こういうところだよっ!!
「あ、あのさ、」
「うんー?」
「こういうの聞いていいのかわからないけど、」
「なになにー?」
「く、黒羽くんて、よく女の子と…出かけたりするの?」
「へっ?」
私の言葉に、本当にきょとん、て言葉がピッタリな顔をした。
「な、なんて言うか、…慣れてる…?」
「あー」
そう唸ると黒羽くんは頭をポリポリと掻いた。
「女の子とデートすることに慣れてる、ってことだよな?」
「デッ、」
いや、私はそう思っていたよ?
でも黒羽くんがどう思っているかなんてわからないわけで。
だけど黒羽くんもこれを「デート」とカウントしてくれてたんだ!とカーッと頬に熱が帯びてくるのがわかった。
「うちさー、元から結構放任主義って奴でさー」
私の脳内が、これはデートこれはデートこれはデートとなっている時、黒羽くんがどこか言葉を選びながらポツリポツリと語り始めた。
「小学校入学してから家事全般ちゃんと教えられて、このくらいまで出来るなら1人でも大丈夫でしょ、って感じでわりと早い段階から放任だったんだよな」
「う、うん」
「…俺、もう5年近く前になるんだけど、親父死んでんのね」
黒羽くんは、目を伏せながら淡々と語る。
「そりゃ最初の頃はお袋も家にいたけど、徐々にいつものように放任主義に戻って、中学上がってからは完全に放任。たまに帰ってくるけど、ほぼ家に1人なんだわ」
…そう言えば、原作でも怪盗キッドだった黒羽くんのお父さんが亡くなって、その後を黒羽くんが引き継いだんだよね…。
「必要な金やカードは置いてってくれるけど、基本1人なの。そんな時思うじゃん?」
「な、何を?」
「どーせメシ食うなら可愛い女の子と食いてぇな、って!」
すごく真剣な顔で私を見てくる目の前の黒羽くん。
を、何度も瞬きしながら見遣った。
「いろんな子誘ったりしてたんだけど、そしたら何か慣れちゃったのかなー!」
あははー、と笑顔で言う。
…それはつまり「可愛い女の子の友人」という括りなわけで。
「…かっ、」
「うん?」
「彼女、とか、は…?」
「あ、俺彼女今までいたことないよ」
「そうなの!?」
「そうなの」
「そう、なんだ…」
「そうなんです」
私の言葉うんうん頷きながら答える黒羽くん。
え、じゃあ青子は?なんて思っても私がその話題を出すのは不自然なんてものじゃなく、何芳賀ちゃんなんで俺の幼馴染知ってんの?怖っ!ってなるわけで。
ちょっとこれはまた次のターンだな、と思いながら、氷が溶けてまるで汗をかいているようなグラスに手を伸ばした。
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bkm