■2
「……ねえ、新一。一つだけ聴いても良い?」
「何だよ」
「恥ずかしく……ないの?」
病院を後にした私たちは、真っ直ぐ私の家へと向かっていた。しかし道路には歩行者も多く、当然私たちの姿は道行く人々の視線を集める事になったのだが。
「……オメーのその目は節穴か? 恥ずかしいに決まってんだろ」
そりゃそうだよねと改めて思い知れば、もう何度目か分からない言葉を口にする。
「やっぱり私、歩いて行くよ。だからもう下ろして」
「良いからじっとしてろって、何度言わせれば気が済むんだよ……っと」
少しずれ落ちそうになっていた私の身体を持ち直しつつ、新一はひたすら歩き続ける。
そして新一に恥ずかしい思いをさせてしまって申し訳ないと言う思いを抱きつつ、私は私で別の意味で恥ずかしさを感じていた。
背負われている事で、身体が密着している今のこの状態。それによって私の顔が赤くなっているのは新一の目には映らないだろうが、それでももしかしたら心臓の鼓動が速まっている事には気づかれてしまうかもしれないから。
誤魔化そうと思っても、きっと誤魔化しきれないだろうと言う事は分かっている。だからこそ、本当は下ろして欲しかったのに。
「だけどまあ、バイクを避けようとして足を挫くなんて、なんつーか、オメーもドジだよなあ」
「し、仕方ないじゃない。私は蘭みたいに運動神経が良い方じゃないんだから……」
沈黙していても気まずいのだが、ドジだと面と向かって言われるとそれはそれで傷ついてしまう。しかしそれでも新一の言う事も尤もだと思っていた時だった。
「……でもまあ、捻挫だけで済んで、本当に良かったよ……」
心からの安心の声、そう言った新一の顔は私の目には映らない。しかしその声が震えているようにも聴こえたのは、私の気のせいじゃないよね。
「……ゴメンね、新一。心配かけちゃって……」
「良いから、気にすんなって」
バイクが私の方に向かって来るとき、頭の中は真っ白になった。私の直ぐ脇を通り過ぎ横転したのを見て、後から恐怖心が湧いてきた。
しかしそれは怪我をする事を恐れたのではなく、もしも打ち所が悪かったらと考えた場合、新一にもう二度と会えなくなるのではないかと思ったからで。
まだ伝えていない事があるのに、新一と離れ離れになるのだけは嫌だと思ったから。
「……ありがとう、新一……」
しかしそうは思っていてもなかなか口にはし難い言葉だから、結局は打ち明けられずに時は流れていく。
それでも、もう少しだけこのままでいたいと思った私は、家までの道のりを遠回りして欲しいなどと言う言葉は、決して口には出来ないと心の奥深くにしまい込んだ。
...end.
→感想・感謝
bkm