Treasure


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ねぇ、知ってた?


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いつもの登校風景。ランダムに設定していたiPodからお気に入りの曲が流れ出す。おっ珍しい、良いことあるかもなんて思っていたら前方に見慣れた背中を発見!!早速良いことあった!


「しーんいーちくーん!好きだよ愛してる〜!!!」

「先輩暑いんでどいてください」


思い切り愛しの新一くんに抱きつけば思い切り気だるそうな声を出された。ついでに浴びせられる冷たい目線。ああそんな顔も格好いい…!!


「あっ、名前先輩おはようございます」

「おはよー蘭ちゃん今日も可愛いね!」

「先輩、蘭に挨拶はして俺にはしないんですか挨拶は礼儀として基本ですよ人間できてませんね。というよりどいてください」

「ごめーん私挨拶より新一くんへの愛を叫ぶほうが基本だから!」

「叫ばないでください鬱陶しい、というかはやく退けよ」


もはやこのやり取りも見慣れたというか聞き慣れたものだ。他の生徒もまたやってるという目でしか見ない。
ヤダヤダ離れないー!とか言いながらしがみつき頭を横に振っていれば新一くんがため息を吐き出した。


「先輩体温高いから本当暑いんですって」

「新一くんの目線がクールだから私は涼しいよ!」

「俺が暑いんです。先輩なんて知りませんよ」


相変わらずツンツンしてますね、新一くん。でもそんなことでめげる先輩だとは思わないで!


「遅刻しますから離れてください」

「新一くんが抱きしめ返してくれたら離れる」


そう言えば、再び深いため息が聞こえる。
遅刻なんて、まだ時間余裕じゃん。そんなに離れたいのかこの子は。泣くぞ。
うりうりと頭をこすりつけ続ければ、新一くんは片手を私の背中に回し、一瞬だが強く抱きしめた。


「これで満足ですか」

「満足ですよ!いっつもありがとうね新一くん!」


腕が離れると同時に私もパッと身体を離す。新一くんは無表情のまま私を見下ろし、口を開く。


「いつも思うんですがこれは無意味な気がするんですけど」

「えーなんでよ。無意味なんかじゃないよ、私の充電方法だから」

「あんなんで充電できるなら先輩食事とらなくて大丈夫じゃないんですか?」

「それとこれとは別ですよ!?」


食事とらなかったら死ぬじゃん!!遠回しに死ねって言いたいの!?
そう叫べば新一くんは「伝わりましたか、良かったです」なんて笑うからさぁ、笑うからさぁ!!

なにその笑顔反則!!可愛い!!格好いい!!発せられた言葉がひどいとかそんなの気にしないでいられるくらいには反則!!


「蘭ちゃん蘭ちゃん、見た?あの新一くんのえが、あれっ蘭ちゃーん!?」

「蘭なら先に校舎に入って行きましたが」

「マジか」


私の天使が私を置いて校舎へ入っただと。何故気付かなかった私!!
え?蘭ちゃんが天使なら新一くんはなんだって?そりゃもう新一くんは妖精ですよ、フェアリーですよ。


「ほら、俺らも早く校舎に入りますよ」

「はーい」


私から目線を外し校舎へ目指す新一くん。無防備になったその瞬間を、私は見逃さない!!
新一くんの右手を左手で掴み、握り込む。すると新一くんはピタリと動きを止めて、冷たい目で私を見た。


「なにやってるんですか?」

「え?手ぇ繋いでる」

「先輩の手、汗ばんでるから気持ち悪いんですけど」

「それはね、新一くんへの愛が滲み出てるんだよ」

「手も先輩の頭も気持ち悪いです」


新一くん相変わらず手ぇおっきいしゴツゴツしてる!けど綺麗な手してる!
この手が死体を触ったりするのかとかは考えたくないけど私はそんなとこも含めて新一くんを愛してるんでバッチコイですよ!


「ふへへっ幸せ〜」

「幸せ堪能しましたか?なら離してください」

「幸せ堪能したんじゃないの!まだ幸せを堪能してる途中なの!!」

「そうですか先輩ってどうやったら不幸になるんですか?俺にできることはあります?」

「えっ新一くんが関わってくれるなら全部幸せですが何か!」

「それはもう病気ですね。俺の専門は事件なんで病気は管轄外です、心療内科行ってください」

「この病気は新一くんが治せるから!恋の病っていう病気だから!」

「俺の手には負えません」


新一くん以外にはこんなひどい病発症しませんよ!発症したとしてもここまで病状が悪化することはないよ!
ニヤニヤしながら新一くんと繋いでる手をブンブン上下に振る。手の大きさが違うってなんか愛しいな!


「この手に守って貰えたら本当、一生分の幸せ使い切るだろうなぁ」

「……」


私が呟いた言葉に、新一くんの手がピクリと震える。
なんだなんだと思えば、次には私の手を大きな手が包み込んだ。


「しんい、」


新一くん、そう言いたかったけれど、新一くんは私の手を掴んだまま歩き出す。歩幅が違うため私は小走りになるが、ついていけないほど体力がないわけではない。


「ちょっ、どうしたの?」


え、何かマズいこと言った!?それか遅刻するから校舎に入るの!?
とか考えていれば、新一くんはあっさり校舎を通り過ぎ、何故か人気のない校舎裏まで連れてこられた。ちょっとちょっと、なに?私やっぱりヤバいこと言ったんじゃないの殴られる?


「しん、ぶっ!?」


再度名前を呼ぼうとすれば、鼻に何かが当たった。反射的に目を閉じれば、暖かいものに身体を包み込まれる。
えっなに!?えっ……え!!?混乱するなか目を開ければ、目の前には新一くんの肩と首筋。というか肩に私の鼻が押し当てられ、頭の後ろは右手で押さえられ、身体は左手で動きを封じられていた。


「な、なに?どうしたの新一くん」

「その一生分の幸せ」

「え?」

「一生続かせましょうか?」


一生分の幸せを、一生続かせる?なんの話……あ。私が言ったんだっけ、新一くんの手に守って貰えたら一生分の幸せ使い切るって。
……って待って。一生続かせるって、え、それって、え。


「し、新一く、それって、」

「あーもう、黙っててくださいよ」


目線だけ移動させれば、新一くんの耳が見える。その耳は真っ赤に染まっていた。


「黙って俺のそばにいて、黙って守らせてください。俺は器用じゃないから先輩みたいにストレートには気持ちを伝えれない。けど……」


ぎゅう、身体を抱きしめる力がさらに込められる。けれど痛いとか苦しいとかは感じられず、ただ新一くんの心臓の音が大きく、早く聞こえていた。きっと私も同じくらい、いやもっとひどく乱れた心拍になっているだろう。新一くんの言葉にじわじわと実感が湧いてきて、私の頬が赤く染まっていく。


「先輩を……名前を愛しいと、守りたいと思う気持ちは確かなんで、そばにいて、守らせてください」


緊張、執着、歓喜。色んな感情が入り乱れ、じわりと瞳に涙が滲む。
そして絞り出すような声で、呟くような小さい声で答えた。


「……はい、喜んで」





ねぇ、知ってた?


抱きつかれても無理矢理剥がしたことがないのを
手を繋がれても自分から外そうとはしなかったことを

君は知っていましたか?








2012/06/22 加筆修正
/みっちゃんへ相互記念!ツンデレ新一さん!
→感想・感謝

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