Treasure


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二面性


1


「だから、ここの発注はそうじゃないでしょ?」

「あ、はいっ!すみません!」

「これだから若い子なんかとるもんじゃないのよまったく・・・」



わたしはこの春社会人になった。いま思えば高校のときの宿題とかってなんて楽してたんだろうって思うよね・・ ちょっと宿題?課題?が出るぐらいで、えー!とか思ってたけど、今仕事に代わって宿題が登場したらわたし喜んでやるよ・・・。面倒だから嫌いだった英語の単語調べも、意味のわからなかった数学とか化学も、もうなんだってやっちゃう!・・とは言ってももう高校生には戻れない。4月1日には華やかな入社式をやって、胸を高鳴らせ社会人生活をスタートさせたわけだけど地獄以外の何でもなかった。わたしの社会に対するイメージってどこから作り出されたものだったの?自分で自分に聞いちゃうぐらいだよ。もっとこう、ね?みんな仲良く昼食とかさ、そういうイメージって少しはあるじゃない?ニコニコしながら仕事して、定時に上がって、そのあとは彼氏と過ごして…っていう。
何もかもが想定外だった。
女の先輩社員さんはみんな嫌味みたいなこと言ってくるし。最初はわたしがちゃんと仕事ができないから仕方ない!って思ってたけど、そうじゃないみたい。仕事とは関係ない学歴のこととかも触れてくるし、わたしが少し仕事のことで部長や他の男性社員の人と話してると「あー、若い子ってすぐ男に媚売って」とか言われたこともある。媚なんか売ってない!というかわたしには、ちゃんと、かか、かれ、彼氏が!いますので!と言ってやりたいぐらいだ。しかも!いまだに有名な大学生探偵ですので!!ぐらいは言いたい。







『お疲れー、仕事どうなんだよ?名前全っ然連絡よこさねーからよ』

「ご、ごめんね新一くん。ちょっと忙しくて・・」

『別にいーけど。オメーが体調崩してたりしねぇか心配だしさ。』

「体調は大丈夫!ありがとう!でも新一くんも忙しいでしょ?無理は駄目だよー」

『なまえほどじゃねーけどな。・・っと、悪い、もうすぐ現場だから。とりあえず今週末の日曜はちゃんと空けとけよ!じゃーな、』



新一くんとは高2のときから付き合い始めた。高校の頃から高校生探偵工藤新一!て有名だったけど、大学生になった新一くんはいまだに有名人だ。そりゃ大学といってもまだ大学1年生だし、それであれだけ事件とか解決しちゃうんだからそうだよね。新一くんは自慢の彼氏だ。初めの頃こそ、わたしが付き合っていいのかな?って不安だったけど新一くんといるとそんなこと気にならなくなっちゃうんだよね。工藤マジックってやつか!・・・そんなわけで大学生と社会人という別の道になってしまったけど、わたしたちはまだ付き合ってる。でもやっぱり高校のときに比べたらほとんど会えなくてちょっと寂しかったりするけどね。わたしは仕事があるし、新一くんは大学と探偵としてのお仕事がある。あと大学でサッカーのサークルに入ったらしい新一くんはそれもある。なんだかわたしより忙しい感があるのは気のせいではないはず。
それなのに新一くんは二日に一回ぐらいのペースでちゃんと電話を入れてくれる。体調崩してないかって。こっちのセリフですけど!わたしから電話しておけば新一くんの負担も少しは減るからいいんだろうけど、やっぱり仕事の疲れのせいでその気力は残ってない。だからいまは新一くんの優しさに甘えてしまっている自分がいる。


電話で話すことはできても、3月以来直接会った日はない。4月末ぐらいに会いたいって勇気を振り絞って言ってみたけど、サークル飲みがあるから無理って断られたことを思い出すと少し胸が痛い。新一くんにはもちろん大学での生活は楽しんでほしいけど、少しはわたしとも会ってほしいなーなんて思っちゃう。電話で話すのと直接会って話すのじゃ違うでしょ?
でもその一度断られてからわたしは新一くんに会いたいって言うのを躊躇うようになった。そんな中さっきの電話で新一くんに今週末空けとけって言われたのは本当に嬉しいことだった。久々に新一くんに会える!明日金曜日だからあと少しだな〜。










わたしの癒し!新一くんに会える日曜日がきたよ!電話したのが木曜日だったけど、日曜日まで長かった・・・!今日を楽しみに仕事乗り切ってきたよわたし。ここ最近女の先輩社員からの嫌味に加えて、男の先輩社員からのセクハラ?的なものも追加されてもうモヤモヤモヤモヤしっ放しだったから今日は新一くんに話してスッキリする!給湯室でお茶入れてるときにすごい近くよってきて太腿らへん撫でられて。痴漢と変わらないじゃん!本当に気持ち悪くてどうしようかと思った。でも会社にはわたしの味方してくれる人なんてよく考えたらいないし、どうにもならない。嫌味に加えてこれからあれも毎日かと思うと気が気じゃないよもう。

せっかく新一くんが誘ってくれて、会えるんだからいつもより少し可愛い感じの格好にしてみた!・・・初デートか!いいの、だって久々だもん、新一くんに会うの。それにお出掛けとかじゃなくて新一くん家で過ごすお休みだから。マンション行くのもすごく久しぶりで少しドキドキ。今年流行のシャーベットカラーコーデで気合十分のわたしは、ノリノリで新一くん家のインターホンを押した。ぴんぽーん!



「新一くん久しぶり!」

「おう、ほら入れよ」

「お邪魔しまーすっ!」



うわあああ久しぶりの新一くんの香り!わたしは新一くんの香りが大好きです!新一くん家も本当に久しぶりだよー嬉しいー。わー、変わってないなあ・・ そっか会ってなかったって言っても二ヶ月振りぐらいかな?さすがにお部屋の内装までそんなに変わんないか。前と変わらない雰囲気で安心する。そうそう、ここによくわかんない人形の置物あって。二ヶ月振りぐらいなのにもう懐かしい気が、



「あー!名前ちゃん久しぶり!」

「・・蘭ちゃん?あ、ひ 久しぶりだね!」

「新一がね、名前ちゃん来るから料理作りに来いとか言ってね!もうほんと自分勝手なんだから。」

「そ、そうなんだ!なんかごめんね!」

「名前ちゃんからも新一に言ってやって。」



・・・え?え、なんで、何で蘭ちゃんが新一くんのおうちにいるの?わたしが来るから蘭ちゃんに料理作らせてたってことだよね。わたしが行くんだからわたしが作るんじゃ駄目なのかな、どうして蘭ちゃんが。いきなりのことで思考回路が追いつかない。わたしは久しぶりに新一くんと会えるのが楽しみで、それで来たのに新一くんの幼馴染の蘭ちゃんがご飯を作ってる・・?駄目だ、よくわかんない。なんで?どうして?っていう言葉しか出てこなくなっちゃった。
確かに二人が仲良しなことはもちろん知ってる、幼馴染ってことも。それでも新一くんは蘭ちゃんのことをそういう風に見たことないってことも知ってる。でもわたしの勘が当たっていれば蘭ちゃんは間違いなく新一くんが好きだ。どこからどう見たって、蘭ちゃんは新一くんが好き。高校卒業して大学にもなったから蘭ちゃんは違う人と付き合ったりしてるんだと思ってた。でもこの雰囲気は違う、この4月以降何回か新一くんの家に来てる感じがある。だって、そうじゃなかったら調理器具の場所とか調味料の場所とかそんな一発でわからないでしょ?
じゃあ新一くんは、大学生になってからご飯作るのに困った日は蘭ちゃんに作ってもらってたの?そんなのおかしい。いくら幼馴染だって、そんなのおかしい。



「ちょっとわたし、急用あったから帰るね。蘭ちゃんが来てくれてわざわざ作ってくれてたのにごめんね」

「えー、そうなの名前ちゃん!久々に会えたのに・・」

「おい名前、日曜は空けとけって言っただろ。」

「ごめんね、また今度空けるから。じゃあお邪魔しました!」





新一くん家から出てすぐ、とにかく早くおうちに帰りたくてわたしは走り出そうとしたけど右手首が後ろから引っ張られてそれはできなかった。



「名前、なんだよ急用って。」

「・・仕事のことで、ちょっと。ごめんね」

「日曜はちゃんと空けとけって言ったじゃねーか。蘭にも失礼だろ、」



蘭ちゃんに失礼?なにそれ、失礼なのはそっちじゃない?勝手に人の彼氏の家にあがって普通にご飯作って。でもそれをさせてる新一くんもおかしいよ、だって、わたしが彼女なんだよ?蘭ちゃんと他にも何人かいっぱいいて、それで新一くん家にいるなら別になにも思わないよ。でも二人でしょ?二人で会って蘭ちゃんにご飯作ってもらって、それって、わたしの役目だよ。



「蘭ちゃんに失礼ってなに・・?新一くんもおかしいよ、だってわたしが来るまで二人だったんでしょ?彼女以外の人、いくら幼馴染でも家にあげてご飯作ってもらうっておかしいよ、」

「何言ってんだよ、オメーが疲れてると思ったから蘭にわざわざ飯作ってもらってたのにそれはないんじゃねぇの?」

「いくら疲れてたって、ご飯ぐらいわたしが作るよ。それに蘭ちゃん呼んだの今日初めてじゃないでしょ?もう何回も呼んでるよね、そうじゃないとあんなにキッチンのこと把握してるはずないもん。」

「名前は俺が蘭と浮気でもしてるって言いてーのか?・・オメーのために俺も蘭もここまでやってやったのに」



駄目だ、わたしには新一くんの考えが理解できない。なんでわたしが責められるの、普通の子だったら誰でも思うことなのに。どうしてわたしが食い下がらなきゃいけないの。今日を楽しみに辛かった仕事だって頑張ってたのに、その今日がこんな最悪な状況になって、さらにわたしは謝らなきゃいけないの?



「さっさと戻って蘭にあやま、」

「わたし、新一くんと別れる。だって、言ってること一ミリも理解できないもん。今日をずっと楽しみにしてたわたしがバカみたい!女の先輩社員からの嫌味にも耐えて、男の先輩社員のセクハラも耐えて、全部全部今日のこと思って頑張ってきたのに!最悪なお休みをありがとう!さようなら!」



言い切った瞬間、わたしは掴まれていた右手首を振りほどいて走り出した。わたしからこんなセリフが出ると思ったなかったのか、さっきまで強く握っていた新一くんの手は軽く振り解けた。

それからひたすら走って走って、せっかく今日のためにアースで買ったサンダルも気合を入れてセットしたヘアも乱れてボロボロになった状態でおうちに戻ってきた。時間はまだ午後1時だ。お昼頃から会う約束していたからまだこんな時間。さて、何をしようか。というかわたしは思い切りで彼氏に別れようと言ってしまった気がするけど。あんな思考の人とは恐らく今後も合わないと思うので、よかったのかもしれない。新一くんがああいう考えを持ってる人だとは知らなかった。あまり大きな喧嘩もしたことなかったし。今回が初めてかな、たぶん。新一くん、だいすきだったのになあ・・












気がつくと夕日が部屋を照らしていた。あれ・・、ぼーっとして寝ちゃってたかな?最近疲れてたし。時計の針は午後4時ちょっと過ぎ。洋服も着たままだったなあ、よし、着替えてちょっと早めのご飯作り始めようかな!今日の夕飯はわたしがだいすきなカルボナーラ!一人暮らし女子的必需品パスタは常備だから買い物行かなくてすむし。今日はもうちょっとお出掛けってゆうか買い物にも行く気分じゃないから簡単にすませちゃおう。
新一くんとあんな終わり方じゃ微妙だし、気持ちの整理がついてからまたちゃんとお別れ言いにいこうっと。本当はもちろん別れたくないけど、でも、またあんなことあるぐらいなら今別れちゃったほうがきっといいよね。それで新一くんと蘭ちゃんが付き合っても仕方ないと思うし、もうわたしには関係ありません!って思い込む!さあ、ごはんごはん。








どんなに最悪な日のあとも必ず次の日はやってくる。ああ、月曜日、また一週間が始まってしまったよ。昨日のお休みもあんなで、今日からまた嫌味やセクハラに耐えて頑張る日々が続くと思うと憂鬱だ・・ しかももうわたしの癒しの新一くんと話すこともない。わたし近いうちにこの会社辞めるんじゃないだろうか。はあ…、この自動ドアを跨いだらお仕事の始まりだ、



「・・っ!し、新一く、」

「、ちょっと来い」

「わたしこれからお仕事で・・っ、遅刻になっちゃう!」



いいから、と言いながら新一くんに腕を引っ張られてそのまま気付けば新一くん家に連行されていた。今日月曜日だよね?わたしお仕事なんだけど。遅刻とかまた嫌味要因増えるのごめんなんだけど新一くん!とゆうか昨日の今日でなに、わたしのほうが逆に気持ちの整理ついてないんですけどおおお!ちょ、そんなに引っ張ったらスーツがしわしわになっちゃうよ・・・。



「名前、オメー昨日言ったこと取り消せ」

「・・お別れするってはなし?」

「取り消さねーなら今日は仕事も行かせねぇ。」



新一くんのベッドの上で二人で対面して座りながら、新一くんはいきなり昨日の別れるを取り消せと言い出した。わたし的に勘違いしないでほしいのは、わたしだって別に新一くんと別れたいわけじゃない。でも何度も言うように新一くんのその考えが変わらないならわたしは一緒にいるの辛いし、だったら別れようって思っただけ。取り消すなら新一くんの考え方を訂正してもらわないと困る。



「新一くん、あのね」

「もう蘭とか他の女、家に呼んだりしないから。別れるなんて、」

「でも新一くんはなんでわたしが蘭ちゃんとか女の子を家に呼ぶのが嫌なのかわかってないでしょ?」

「・・・オメーが昨日帰ってから色々考えた。俺も、名前がたとえ幼馴染でも家に呼んで二人きりでいるのってすげー嫌だって思ったから、だからもう呼ばない。」



それに俺、自分の生活ばっかり楽しんでオメーのこと全然考えてなかった。俺は大学生で自分の好きなサークルにも参加して、探偵もやってるとはいえそれは俺が高校生のときからやってきたことで。周りも知り合いばっかりだし、忙しいときもあるけど正直何も苦じゃなかったけどオメーは違うだろ?社会人になって初めての環境で、周りも年上ばっかで。きっと辛いことばっかだったのに、ちゃんと名前のこと考えてなくて悪かった。これからはもっとオメーのことも支えるし、だから、別れるなんて言わないでほしい。

新一くんは、ずるい人だ。こんなこと言われたらわたしが断れないこともわかってる、わかってて言ってるんだ。わたしだって本当は別れたくないし、新一くんのことが大好きだ。その考えが変わらなかったら別れるしかなかったけど、そんな風に言われたら、別れるの取り消すしかないじゃない。だってわたしはどうしようもない大学生探偵が本当に大好きなんだから。



「じゃあ、これからは気をつけてくれる?新一くん」

「当たり前だろ。だから名前、さっさと取り消せ」

「次やったら取り消し不可だからね。」

「わーってるって!おっし、取り消したところでオメーの職場行くぞ!」



えええ、今から?堂々と遅刻して行くの?ってゆうか新一くんも一緒に来るの?どういう展開で・・ そもそも何で一緒に来るの。わたしがおどおどしながら新一くんのほうをチラ見すると、



「嫌味ばっか言う女社員とセクハラしてくる男社員全員これから俺が殴りに行く。それでオメーは仕事辞めろ。俺ん家で暮らしてもっと楽な場所でバイトでもすればいいだろ、はい決まりー」



それってつまり、同棲ですか新一くん。




(その男、二面性につき)





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