■3
二人で帰る事になったが、暫くは私達の間に会話はなかった。どうやら新一は周りの目を気にしているのだろう。
周りに誰もいなくなった頃合いを見計らってから、新一は口を開いた。
「なあ、名前……。大丈夫なのかよ?」
「んー? 何が?」
「何がって、そりゃ、オメー……。あんな場所で俺が恋人だなんて言ったら……」
「そうだよね、何人かに見られていたしね! 明日には二股とかショタコンとか、噂が広まっているかもね!」
でもそんな噂などどうだってよかった私は、何でもないような笑顔を見せながら新一に言った。
「そんな楽天的に考えていて大丈夫かよ」
「大丈夫よ、別に誰に何と言われようと、関係ないわ。だって――」
「……だって?」
「周りの目なんてどうでもいいの。新一だけが分かってくれればいいんだから!」
「……ッ!!」
「他の人と噂になって、新一に誤解されるよりも全然いい」
「…………」
「それに私の恋人は新一でしょ? “工藤新一”がいないなら、“江戸川コナン”が私の恋人になるしかないんじゃない?」
「……名前……」
新一に満面の笑みを向けていた私だったが、ある事を思い出せばその笑顔が曇っていくのが分かった。
「そ、それよりも……」
「……ん?」
「あ、あの……。昨日は本当にごめんなさい! 酷い事言っちゃって……。でも私は新一が頼りにならないなんて、これっぽっちも思ってないから……。ただ、余計な迷惑を掛けたくないって――」
「迷惑だなんて思う筈ねーだろ?」
私の謝罪の言葉は、新一の言葉で遮られてしまった。
「し、新い――」
「……オメーが俺の事を心配してくれているように、俺だってオメーの事が心配なんだよ」
「……ッ!!」
「確かに、身体が縮んでしまった今の状況では、“新一”の頃のようには護ってやれないだろう」
「…………」
「でもな、例え“コナン”でも出来る範囲で護ってやりたいし、オメーの力になりたいって思ってるから」
「新一……」
「だからこれからは遠慮なく――、ッ!?」
私の事を本当に大切にしてくれている事に嬉しく思いながら、私は新一の身体を抱きしめていた。
「おい、名前! 止めろよ、ここ道端だぞ!?」
「いいじゃない! どうせ誰も見てないって!」
「……ったく……」
最初は抵抗されたが、直ぐにその抵抗も無くなれば、更に抱きしめる腕に力を込めたのだった。
「……ねえ、新一……」
「ん? どうした?」
「さっきはありがとうね……。あの言葉、とても嬉しかったよ……」
「……あの言葉?」
「“名前は俺の女だ”って言ってくれたでしょ? すごく嬉しかった……」
「――ッ!!」
私の言葉に新一は何も言い返さなかった。恐らくは照れているのだろう。今更照れなくてもいいじゃないと思いながらも、そこはやはり新一らしいと感じていた。
「ねえ、もう一度言って?」
「バーロォ! そう何度も言えるかよ!」
「ええ〜。もう一度聴きたい〜」
「…………」
「ねえ、新一……。お願い、ね?」
「〜〜ッ!! 分かったよ! もう一度言えばいいんだろ!?」
「うん! ありがとう!」
私の恋人は小学生。しかしその中身は私と同い年の高校生だ。
周りから見たら確かに異質なカップルに映るだろう。しかしそんな事はどうだっていい。
周りの目なんて気にしない。事情も、彼の苦悩も知らない人の意見なんか、耳を貸す価値も無い。
私が好きなのは、これまでも、今現在も、これからもただ一人――
「……名前、愛してる」
彼だけなのだから――。
「……私も新一が大好きよ!」
「……そんな事、言われなくても分かってるっつーの」
やっぱり新一は誰よりも私の事を分かってくれている……、それがたまらなく嬉しかった――。
...end.
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bkm