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恋人は小学生


3


二人で帰る事になったが、暫くは私達の間に会話はなかった。どうやら新一は周りの目を気にしているのだろう。


周りに誰もいなくなった頃合いを見計らってから、新一は口を開いた。


「なあ、名前……。大丈夫なのかよ?」

「んー? 何が?」

「何がって、そりゃ、オメー……。あんな場所で俺が恋人だなんて言ったら……」

「そうだよね、何人かに見られていたしね! 明日には二股とかショタコンとか、噂が広まっているかもね!」


でもそんな噂などどうだってよかった私は、何でもないような笑顔を見せながら新一に言った。


「そんな楽天的に考えていて大丈夫かよ」

「大丈夫よ、別に誰に何と言われようと、関係ないわ。だって――」

「……だって?」

「周りの目なんてどうでもいいの。新一だけが分かってくれればいいんだから!」

「……ッ!!」

「他の人と噂になって、新一に誤解されるよりも全然いい」

「…………」

「それに私の恋人は新一でしょ? “工藤新一”がいないなら、“江戸川コナン”が私の恋人になるしかないんじゃない?」

「……名前……」


新一に満面の笑みを向けていた私だったが、ある事を思い出せばその笑顔が曇っていくのが分かった。


「そ、それよりも……」

「……ん?」

「あ、あの……。昨日は本当にごめんなさい! 酷い事言っちゃって……。でも私は新一が頼りにならないなんて、これっぽっちも思ってないから……。ただ、余計な迷惑を掛けたくないって――」

「迷惑だなんて思う筈ねーだろ?」


私の謝罪の言葉は、新一の言葉で遮られてしまった。


「し、新い――」

「……オメーが俺の事を心配してくれているように、俺だってオメーの事が心配なんだよ」

「……ッ!!」

「確かに、身体が縮んでしまった今の状況では、“新一”の頃のようには護ってやれないだろう」

「…………」

「でもな、例え“コナン”でも出来る範囲で護ってやりたいし、オメーの力になりたいって思ってるから」

「新一……」

「だからこれからは遠慮なく――、ッ!?」


私の事を本当に大切にしてくれている事に嬉しく思いながら、私は新一の身体を抱きしめていた。


「おい、名前! 止めろよ、ここ道端だぞ!?」

「いいじゃない! どうせ誰も見てないって!」

「……ったく……」


最初は抵抗されたが、直ぐにその抵抗も無くなれば、更に抱きしめる腕に力を込めたのだった。


「……ねえ、新一……」

「ん? どうした?」

「さっきはありがとうね……。あの言葉、とても嬉しかったよ……」

「……あの言葉?」

「“名前は俺の女だ”って言ってくれたでしょ? すごく嬉しかった……」

「――ッ!!」


私の言葉に新一は何も言い返さなかった。恐らくは照れているのだろう。今更照れなくてもいいじゃないと思いながらも、そこはやはり新一らしいと感じていた。


「ねえ、もう一度言って?」

「バーロォ! そう何度も言えるかよ!」

「ええ〜。もう一度聴きたい〜」

「…………」

「ねえ、新一……。お願い、ね?」

「〜〜ッ!! 分かったよ! もう一度言えばいいんだろ!?」

「うん! ありがとう!」


私の恋人は小学生。しかしその中身は私と同い年の高校生だ。


周りから見たら確かに異質なカップルに映るだろう。しかしそんな事はどうだっていい。


周りの目なんて気にしない。事情も、彼の苦悩も知らない人の意見なんか、耳を貸す価値も無い。


私が好きなのは、これまでも、今現在も、これからもただ一人――


「……名前、愛してる」


彼だけなのだから――。


「……私も新一が大好きよ!」

「……そんな事、言われなくても分かってるっつーの」


やっぱり新一は誰よりも私の事を分かってくれている……、それがたまらなく嬉しかった――。







...end.

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