■1
ベランダで夜の街を見下ろす。
街灯や建物の光とは違う、赤いランプが静かな街を騒がす。
「そんな所に居ては、お体が冷えますよ?」
不意に後ろから声が聞こえた。
『いいの。待ってた人が来てくれたから』
と答えると、後ろから抱き締められる。
『…キッド』
回された腕を見て呟く。
キッド、怪盗キッドは世間を騒がす有名な怪盗。
羽休め、と言って私の家に降り立ったのをきっかけに、それから何度も私の所に訪れていた。
キ「すっかり体が冷えてますよ…名前」
私の体を触りながら、キッドが言う。
名前嬢と呼ばれるのは嫌!と拒否して、呼び捨てで呼んでもらうようにした。
『ちょっと薄着だったからね』
今日の格好はキャミソールにキュロット。暖かくなったとはいえ、夜には少し冷える格好だ。
キ「全く…。風邪を引いても知りませんよ?」
『だってキッドが来たら、キッドが抱き締めてくれるし。それに、私が風邪を引いても会いに来てくれるでしょ?』
とキッドに向き直ってイタズラっぽく笑う。
はぁ〜…とため息を吐きながら私の頬に触れる。
キ「…ったく、オメーは…」
…たまに。たまーに。
キッドの素を垣間見る。
敬語も使わず、ワントーン低めの声で話す。
それがまた私の心を掴んで離さない。
『…ねぇ』
キ「…ん?」
『やっぱり正体を教えてくれないよね?』
どんなに逢瀬を重ねても、キッドは正体を明かすことはなかった。
キ「…スミマセン」
少し困ったような笑みを浮かべてキッドが言う。
『ううん、無理言ってごめんね?』
キ「…」
『きゃっ…!?…んっ』
ギュッと抱き締められたかと思ったら、唇を奪われた。
『…っ、はぁ…』
キ「…名前、これだけは覚えといて下さい」
優しい目で私を見つめながら言う。
キ「俺はいつでもオメーの近くにいるからな…」
『…え?』
キ「…と、そろそろ帰らなくては。では名前、また淡い月下の元でお逢いしましょう」
スッと私から離れ、ハングライダーでキッドは夜の闇へと消えた。
『私の、近くに…』
唇を触りながら、キッドの言葉を繰り返した。
翌日。
『おはよう』
青「名前、おはよう!」
教室に入り、いつもと変わらない朝を迎える。
『(近くにって…同じ学校とかかな?)』
自分の席にカバンを置き、立ったまま昨晩の事を考える。
快「な〜に考えてんだ?」
『快斗』
しばらくして、隣の席の黒羽快斗がやって来た。
快「ひでぇ顔してたぜ?」
『なっ…!失礼ね!』
ニヤニヤしながら言う快斗に少しイラッとする。
快「まぁ、オメーがひでぇ顔なのは前からだけどよ…」
と笑いながら快斗が言った。
…ん?
やっぱり快斗ってキッドに声が似てる気がする…。
快「…どした?」
『何でもな…』
何でもないって答えようとしたら、スカートが翻ってた。
快「名前の今日のパンツはピンクかぁ〜。うん、100点!」
私のパンツを見ながら、快斗が呟く。
『このっ…バカー!』
このバカがキッドと同一人物だなんて、絶対ない!
私はそう確信した。
→感想・感謝
bkm