Treasure


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月夜の逢瀬


1


ベランダで夜の街を見下ろす。


街灯や建物の光とは違う、赤いランプが静かな街を騒がす。




「そんな所に居ては、お体が冷えますよ?」



不意に後ろから声が聞こえた。



『いいの。待ってた人が来てくれたから』



と答えると、後ろから抱き締められる。




『…キッド』


回された腕を見て呟く。





キッド、怪盗キッドは世間を騒がす有名な怪盗。

羽休め、と言って私の家に降り立ったのをきっかけに、それから何度も私の所に訪れていた。



キ「すっかり体が冷えてますよ…名前」



私の体を触りながら、キッドが言う。


名前嬢と呼ばれるのは嫌!と拒否して、呼び捨てで呼んでもらうようにした。



『ちょっと薄着だったからね』



今日の格好はキャミソールにキュロット。暖かくなったとはいえ、夜には少し冷える格好だ。



キ「全く…。風邪を引いても知りませんよ?」


『だってキッドが来たら、キッドが抱き締めてくれるし。それに、私が風邪を引いても会いに来てくれるでしょ?』



とキッドに向き直ってイタズラっぽく笑う。



はぁ〜…とため息を吐きながら私の頬に触れる。



キ「…ったく、オメーは…」




…たまに。たまーに。
キッドの素を垣間見る。


敬語も使わず、ワントーン低めの声で話す。
それがまた私の心を掴んで離さない。


『…ねぇ』


キ「…ん?」


『やっぱり正体を教えてくれないよね?』




どんなに逢瀬を重ねても、キッドは正体を明かすことはなかった。


キ「…スミマセン」



少し困ったような笑みを浮かべてキッドが言う。



『ううん、無理言ってごめんね?』


キ「…」


『きゃっ…!?…んっ』



ギュッと抱き締められたかと思ったら、唇を奪われた。


『…っ、はぁ…』


キ「…名前、これだけは覚えといて下さい」


優しい目で私を見つめながら言う。



キ「俺はいつでもオメーの近くにいるからな…」


『…え?』



キ「…と、そろそろ帰らなくては。では名前、また淡い月下の元でお逢いしましょう」




スッと私から離れ、ハングライダーでキッドは夜の闇へと消えた。




『私の、近くに…』





唇を触りながら、キッドの言葉を繰り返した。







翌日。



『おはよう』


青「名前、おはよう!」



教室に入り、いつもと変わらない朝を迎える。



『(近くにって…同じ学校とかかな?)』



自分の席にカバンを置き、立ったまま昨晩の事を考える。



快「な〜に考えてんだ?」


『快斗』



しばらくして、隣の席の黒羽快斗がやって来た。


快「ひでぇ顔してたぜ?」


『なっ…!失礼ね!』




ニヤニヤしながら言う快斗に少しイラッとする。


快「まぁ、オメーがひでぇ顔なのは前からだけどよ…」


と笑いながら快斗が言った。



…ん?
やっぱり快斗ってキッドに声が似てる気がする…。


快「…どした?」


『何でもな…』



何でもないって答えようとしたら、スカートが翻ってた。



快「名前の今日のパンツはピンクかぁ〜。うん、100点!」


私のパンツを見ながら、快斗が呟く。




『このっ…バカー!』




このバカがキッドと同一人物だなんて、絶対ない!
私はそう確信した。



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