ごみ箱 | ナノ

02
 
私は転生者だった。
前世で私は今から約150年後に生きていて(前世が未来だというのもおかしな話だが)、ごくごく平凡な日々を過ごしていた。それも、今世と同じ両親と共に。
そしてある日、家に現れた強盗によって殺されたのだ。私達全員。そして、今世でも同じように。

そしてそのことを私は何故だかあの時まで覚えていなかった。だけれども父と母が斬られ、思い出した。現代の頃の記憶、が。
父と母が前世のことを覚えていたかどうかは、今となってはわからない。確かめる術は、ない。

散歩がしたい、だなんて言わなければよかったのだ。そうすれば、まだ生きることができたのに。折角、また一緒に過ごすことができていたのに。



微かに光が見えた気がして、うっすらと目を開ければ薄汚れた茶色い天井が見えた。

「君も起きたかい?」

次の瞬間、見知らぬ男が私の顔を覗き込んでいた。

まさか、生きて、いる……?

そう思わず口に出そうとしたが、口に何かが詰め込まれている上に猿轡をされていて、声を出すことができなかった。さらには手足が縛られているようで身動きが取れないことにも気がついた。


「少し、待っていてくれ。今、縄を緩めるからね」


そう言って私の猿轡や縄を外す男。父と同じくらいの年だろうか。優しげな雰囲気を持っていた。
その男に私は、見覚えなどないはずなのに、見覚えがある気がした。何処かで、見たような。
嫌な予感が、した。

男に縄を緩められ、体が幾分か自由になったところで、私は私の隣に私と同じくらいの年の女の子が1人、座っていることに初めて気がついた。そして私はその女の子にも何処か見覚えがあった。どこか、どこかで、見た。どこで? いつ?

「ちょっと来てくれるかい? 今朝から幹部連中で、あんたたちについて話し合っているんだが、二人が何を見たのか確かめておきたいってことになってね」

男がそう言えば「わかりました」と答えて立ち上がる女の子。その光景に私は既視感を覚える。
私はきっと、知っている。見たことが、聞いたことがある。どこで? いつ? なにを?

「心配しなくても大丈夫さ。なりは怖いが、気のいい奴らだよ」

男はそう言って私と女の子を部屋へと案内してくれた。

男は部屋に行く途中で自分は井上と言い、此処は新選組の屯所なのだと教えてくれた。そしてまた、嫌な予感が胸を渦巻く。
それはきっと、新選組について良い噂を聞かないから、などといったような理由じゃない。

連れて行かれた部屋へと入った瞬間、突き刺さる視線。だけれども私はそんなこと、気にしている余裕はなかった。
その部屋にいた、複数の男達。隣にいる女の子。ようやく、気がついた。何故、見覚えがったのか。
ああ、私は知っている、此処が何処なのかを。彼等が誰なのかを。これから何が行われるのかを。

私は今までずっと“過去”に転生したのだと思っていた。でも、それは違うらしい。
だから、私はこの光景に見覚えがあるのか。だってここは、私が前世でやっていたゲームの世界。


ーー薄桜鬼の、世界。




20121104

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