ごみ箱 | ナノ

03
 
部屋から出たのは、それから1時間ほどたってからだった。
ゆっくりと扉を開ければ、つん、と鼻につく異臭。

地獄だった。
血、血、血。ありえない方向に曲がった死体。はみ出ている内臓。誰だかもわからないほどに原型がとどまっていない顔。
目も開けていられないくらいだった。私はその場で手をついて胃から逆流してきたものを口から出した。吐くものなど、ないに等しかったけれど。

なるべく死体を見ないように廊下を歩けば、父親だと言う男が視界の隅に写った。見たくないのに、思わず凝視してしまう。幸いというべきか、男の死体は比較的綺麗で、首が曲がっているだけだった。
ざまあみろ、とは思わない。思えない。その目には何も写っていなかくて、ただのガラス玉のようだった。
私は靴も履かずに屋敷を出る。何年かぶりの、外。空を見上げれば、星が眩しいほどによく輝いていた。

私の屋敷は、街の少しはずれにある。周りは森。人が、いない。
これから、どうすればいいのだろう。街まで行って、人を呼ぶ? そしたら私はどうなるのだろう。孤児院にでも連れて行かれるのかな。それともどこか遠い親戚の家に預けられる、とか?

私は首を振った。これが、いい機会なんだ。誰かに縋って生きていきたくなんてなかった。1人で、生きる。それで、強くなる。
ここで死なずにすんだのも、きっと何かの運命。だから、死にたくない。絶対に、生き延びてやろう。

私は街とは反対方向の森へと足を歩めた。なるべく、屋敷から、遠くへ。



ここが転生する前に読んでいた漫画、HUNTER×HUNTERの世界だと気がついたのは4歳の頃だった。
3歳まで、私は一応由緒ある家柄の娘、跡継ぎとしてある程度の教養を身につけさせられていた。どこかで見たことのあるけれど日本語ではない文字。英語でも中国語でも韓国語でもない。まず、最初に違和感があった。
そして4歳の頃、ご飯の他に与えられた本に書いてあったハンターという職業。ジャポンという国。そして、気がついた。

ハンターになろうとか、原作に関わってみようとか、そういう気はない。大体今がどの時期だとか全くわからないし。もしかしたら原作よりも何十年も前かもしれないし何十年後かもしれないし丁度今原作が始まっているのかもしれない。
だけど、漫画を見る限りこの世界の死亡率は私のいた日本よりもはるかに死亡率が高い。治安だって良くないだろう。そんな世界で親のいない私は長く生き延びることができるにだろうか。たいした才能もない、私が。
答えは、否。
だから私は、生き延びて、自分の命を守るために強くならなければいけない。そのためには、どうするべきか。



2012/06/02

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