ごみ箱 | ナノ

02
 
説明されてなんていないからよくわからないけど、私の家は俗に言うお金持ち、らしい。
だって家には使用人達が何人もいて、家がとてつもなく広くて、家具も豪華で、食事も、衣服も高価そうな物ばかりだった。
だからこんなことになったのかもしれない。
それは、私が6歳の時の出来事。

いつものように部屋で使用人から与えられたクマのぬいぐるみを抱いてボーッとしていた時のこと。
まず何かとても鈍い音が聞こえた。時間は正確にはわからないけど、多分夕方。
続いて聞こえてきた悲鳴や叫び声。誰か大勢が走り回る音。

「侵入者だ!」
「逃げろ、」
「殺される!」
「ご主人様とアイカ様を守れ!!」

部屋の扉の向こうから聞こえるそれらの音に私はただ事ではないことを理解した。
私も逃げるのだろうか、誰か助けに来てくれるのだろうか。そんな考えが頭をよぎるがすぐに否定した。だって、誰もこちらに来る様子がないから。

私も逃げなければ、と思う。だけれども、体が動かなかった。私はその時手に持っていたクマのぬいぐるみを抱きしめることしかできなかった。

時折聞こえてくるべチャリ、という生々しい音。1つ、また1つと足音が減っていく。誰かが戦っているような音が聞こえた。銃声も聞こえた。そして、悲鳴は途絶えない。
足音が残り1つとなった時、私は恐怖した。

こんな人生なんて、どうでもいいと思っていたはずなのに。体が震えた。私はクマのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめて目を閉じた。
ああ、わかった。私は怖いんだ、死ぬことが。痛い思いをしたくない。苦しみたくない。まだ、死にたくない。

だけれども、予想に反して何故か私の部屋が扉が開かれることもなく、足音は遠ざかっていった。



2012/06/02

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