my sister | ナノ
「なん、で……」
ようやく出すことができたのは、その言葉だった。
「私ね、実は芽衣ちゃんと同い年の妹がいるの。湊(みなと)って言うんだけど、小さい頃から重い病を患わっていてね。今度、治療のためにアメリカに行くことになったの。でも、治療には多額のお金がかかるから、私を連れて行くほどの余裕はないの。かと言って、一人暮らしさせるお金もない。だから、叔母の家にお世話になることになったの。その都合で、学校も転校」
ここ私立だしね、そう悪戯っぽく笑う泉山先輩は、どこか寂しそうで。
「どこに、いつ、ですか……?」
「千葉。それも海のほう。一週間後、だよ。このことはまだ、先生しか知らない。友達も、部活のみんなも、知らない。言う勇気がなくって。まあ、でも柳は知っているかもね。何も言ってないんだけど」
いっしゅうかんご……。
思っていたよりも、ずっとずっと、早くて急だった。
千葉なんて、凄く遠いわけじゃないけど、気軽に会えるような場所じゃない。私は思わずうつむく。
「だから、早くみんなに言わなきゃっていう焦り、みんなともう一緒に部活ができないっていう悲しみ、親に置いてかれる虚しさ、芽衣ちゃんが、これから私がいなくてもー‥一人でやっていけるのかっていう心配。色んな思いが混じり合って、わけがわからなくなって、特にー‥芽衣ちゃんにつらくなっちゃったんだと思う。芽衣ちゃんが、心配で」
そんな、そんなのって。
泉山先輩が苦しんでいたのも知らないで、私は自分が何かしたんじゃないかって怯えて、ビクビクして……。本当に、バカみたいだ。
「すみません……」
気づかなくて。苦しませて。
でも、泉山先輩はそんな私を見て、「どうして芽衣ちゃんが謝るの?」と綺麗に微笑んだ。
「芽衣ちゃんは、私にきちんと聞いてくれた。私を追いかけてくれた。私の話を聞いてくれた。私のために悲しんでくれた。それだけで、私は嬉しいよ。ありがとう」
泉山先輩が、微笑んでくれる。私は、鼻がツンとなって、目が潤んだ。涙を流すまいと、必死で堪える。
私はきっと、この時を一生忘れない。
誰からも必要とされず、誰からも遠藤深衣の妹としか見られなかった私に、ありがとう、って、言ってくれた人がいた。私に笑みを向けてくれた。だから、忘れない。
「転校しても、また仲良くしてくれますか……?」
「勿論よ」
先輩は、微笑んだ。
2012/01/12
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