my sister | ナノ




「ねえ、そこのボール早く運んでよ!!」

「は、はい!」


叫ぶように泉山先輩が私に言う。
こんな、乱暴な言い方をする人じゃなかったのに。私はぐっと唇を噛んだ。
聞かなくちゃ、聞かなきゃ、何も始まらないよ。
姉の声が、聞こえた気がした。


「い、泉山先輩」

「なに?」


思いきって泉山先輩に声をかければ、泉山先輩に睨みつけられるように見られ、私はひっと小さく声をあげてしまった。


「あ、あの……泉山先輩、えっと……、」

「はっきり言いなさいよ」


イライラとしたような泉山先輩の声が私を急かす。


「私、何か泉山先輩にしたんですか?」


思い切って口を開いて聞けば、泉山先輩は大きく目を見開いた。


「この頃、泉山先輩、変じゃないですか。だから私、何かしたのかな、って。でも、いくら考えても心当たりがなくて。だから、もしも私が何かしたんだったら、謝りたいんです」


周りの時が止まった気がした。
部員達が練習する音が、まるで遠くで起きているもののような気がする。
何秒経ったのだろうか。私には、とても長く感じられた。泉山先輩は、静かに口を開いた。


「別に、私は貴女がマネージャーの仕事で、ヘマをするから叱っているだけじゃないの。あなたがいつまで経っても仕事を覚えられないから、上手くこなせないから、」


泉山先輩の声は、震えていた。
それは、まるで何かを堪えているかのようでー‥。
気がつけば、幸村部長も、真田副部長も、柳先輩も、こちらの様子を静かに伺っていた。


「本当に、使えない。貴女、何をやってもダメじゃない。貴女なんて、マネージャーに推薦しなきゃよかった……!」


息が止まった。
だけど次の瞬間、泉山先輩は何時の間にか近くにいた真田副部長にぶたれていた。


「言い過ぎだぞ、泉山!! 遠藤は、よくやっている!」


泉山先輩は一瞬、呆然としたような表情を見せ、でも次の瞬間に、ぶたれた頬を庇うようにしておさえ、キッと真田副部長を睨みつけていた。


「あなたに、あなた達に、私の何がわかるって言うのよ!」


泉山先輩は、泣いていた。
涙で濡れた頬をふきもせずに、先輩は、踵を返してテニスコートから走って出て行く。
止める人は、誰もいなかった。追いかける人も、誰もいなかった。私も、ただ呆然と見ていることしかできなかった。

ただ、泉山先輩の言った、マネージャーに推薦しなきゃよかった、その言葉がぐるぐると私の頭の中で回っていた。


2011/12/29
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