「栗木ってマジうざくない?」


係としてごみ捨て場に足を運んでいる途中、突然聞こえてきた自分の苗字にピタリ、と思わず足を止めた。


「何言ってんの。それ今さらー」

「でもまあ栗木、いっつもテニス部に媚び売ってるもんね。なんでテニス部があんな女好きなのかわかんない」

「でも女友達いないよね、アイツ。この前の体育の時間なんてグループ作る時栗木だけ余っててマジうけたんですけど」

「キャハハハッ、ざまあみろって感じぃ?」


私は目を伏せてその人達が通りすぎるのを静かに待った。
ただのクラスメート。知り合いだけど、友達ではない。まともに話したこともない人達からの中傷。
こんなことも、何回目、何十回目なのだろう。だけど、何度聞いたって慣れない。胸がチクチクと痛んで涙か出てきそうになる。
なんで私がこんな目に合わなきゃいけないのだろう。みんなと仲良くなる努力はした。だけれども、先輩に目を付けられるからなどといったどうしようもない理由でみんな離れていく。

声が遠ざかり、私は彼女達がいなくなったのを確認してゴミを捨てる。憂鬱。そして重たい足取りで校舎へと戻る道を歩いている時だった。
「沙帆!」と、後ろから誰かに抱きつかれ、私は転びかけた。
声の主を見れば、金髪のくるくる頭。そう、我が氷帝学園のアイドル、男子テニス部レギュラーの1人、芥川慈郎だった。


「ジロー……部活は?」


溜息混じりにそう聞けばジローは「まだ大丈夫」と笑顔で答えた。


「大丈夫って……」

「それに、沙帆がいないとつまんないCー」

「しょうがないでしょ。早く練習に行きなよ」

「Aー。じゃあ沙帆も早く来てよー」

「わかったわかった」


そうなだめればジローは納得していない様子だったけど、渋々とテニスコートへ歩いて去って行った。
私は思わず深い溜息をついた。



2012/05/09



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