私たちのトゥルーエンド

注意→夢主がヴィランで轟焦凍の双子の妹/死ネタ/色々と捏造/荼毘=轟燈矢説採用/書き慣れていないのでキャラ崩壊してたらすみません





「ねぇ、焦凍。私たちのことを抜きにして…今、幸せ?」
思わぬ問いかけに鏡写しの眼が開かれる。
「…あぁ、俺は幸せだ。でも」
「なら、もういっか」
彼の答えを最後まで聞かずに声を被せた。聞きたく、なかった。焦凍を救いたいと走ってきた私はもういらないのだと、確信した瞬間だった。
知ってるよ。『でも、いつまで待つとしても私たちと一緒に幸せになりたい』んだよね。
君は本当に甘い。優しすぎる。私達の手のひらはこれまで殺してきたヒーローの血で塗れて、もう元の色は見えないほど染まっている。今更、轟なんて名字を名乗って普通に混じって暮らすなんて、到底無理な話だ。
元に戻ることも、血も涙もないヴィランになりきることも出来ない中途半端な私は、ついにこの時が来てしまったのだと小さく息をついた。
覚悟を決めて、兄さんの方へ振り返り歩み寄る。何かするのかと警戒するヒーロー達の空気が分かった。

「兄さん、」
「…あぁ、もう逝っちまうのか」

顔を上げれば、兄さんと目が合った。口角は上がっているけれど青い瞳からは今にも雨粒が零れそうで、とても歪だった。仲間達が死んだ時だって、そんな顔してなかったじゃない。差し出した手のひらに接ぎ目の横断する手が重ねられる。少しの熱気が私たちを包んで、青く小さな火種がそこにはあった。

「今までありがとう、燈矢兄さん。力になれなくてごめん」
「いい、気にするな」

大きな手のひらが頭にぽすん、と落ちてきて優しく撫でられた。惜しむようにゆっくりと触れられる。指で、掌で形を覚え、忘れないように。暫くして気が済んだのか頭から退けられた時には作戦前の様な不敵な笑みを浮かべる兄さんがいて、いつものようにわたしも笑い返した。

「待て!!何を」
「…さようなら、大っ嫌いなヒーローさんたち」

駆け寄ろうとするがもう、遅い。
胸元にかざすと一つの瞬きを零すより早く、私の個性によって増幅され灰色に変化した炎が首へと噛みつき、ごうっと体を包んだ。



じりじりと照らされ、皮膚がどろりと溶けていく。夏場の放置されたアイスもこんな気持ちなのかな、なんて呑気なことを考えていた。さっきまでは転げ回りたいくらい熱かったのにだんだん熱が気持ちよくなってきた。

なまえ!!、なまえ!!!!

既に周りの音は炎の燃え盛る音でかき消されてしまった。もちろん、私を呼ぶ声なんて聞こえるはずがない。
仲間に羽交い締めにされて止められても必死に手を伸ばす男の子の手から、炎が漏れだしている。私の煤けた炎に赤い火の粉が交ざりあってキラキラして見えた。あぁ、こんなふうに…私たちもずっと一つでいられたらどんなに良かったか。でも、最後にはちゃんと。

「ばいばい、焦凍…大好きだよずっと」

口の中に溶けた別れの言葉は、私が地獄まで持っていこう。





ヒーローとヴィランの大きな戦いが終わって3週間ほどがたった。超常解放戦線は解散し、その殆どが逮捕され一部は死亡、ほんのひと握りの者達だけは行方不明となっていた。
大半のヴィランがいなくなったとはいえ、助けが必要な人たちのために今日もまた、ヒーローになるための勉強をしている。ただ、身が入っているかと言われるととても是とは言いがたかった。

『なら、もういっか』

鈴を転がす明るい声色に、仕方ないと言うように笑った俺の片割れ。何度も何度もフラッシュバックして現実でも夢の中でも胸ぐらを掴まれて、離される事は無かった。
その姿は会敵する度に見ていた。いくら顔を見せないように、声を聞かせないようにしていたとはいえ、俺と他とでは違う態度をとっていたことに早く気づくことができれば良かったのだ。いや、目をそらしていたのかもしれない。行方不明の妹が、自分と相対するものになったと信じたくなかったのだ、きっと。
同じクラスの奴らには迷惑をかけていることは分かっていた。悪いと思いつつ、その優しさに度々甘えさせてもらっていた。今日も少しは気分転換になるのではと散歩を提案されて、でも誰かと行く気分にもなれなかったから1人であの街をフラフラと歩いている。

オレンジが滲む夕暮れ時、俺は薄暗い路地裏に立っていた。三週間前の場所。
夏の暑さと差し込む夕日で焦げ跡がゆらゆらと揺れる。あの日の陽炎が見えた。
足を進めれば、そこは火柱が立ったように一面が黒くなっていた。なまえがいた場所。自らを灼いた場所。指でサッとなぞるとほんの少しの煤が指についた。鼻につく人が燃える匂いが思い出されて、視界が歪む。

「やっぱり来たか」

頭上から降ってきた声には聞き覚えがあった。ばっ、と顔を上げるとツギハギだらけの男が飄々と立っていた。

「待ってたぜ、轟焦凍」
「お前…っ!!」

急いで距離をとる。こんな所で出会うと思ってなかった。口ぶりからしてまさか待ち伏せされていた?仇討ちのためか?

「戦う気はねぇよ。これ、渡しとこうと思ってな」

取り出された白い封筒と小瓶はヒラヒラと揺らされる。小瓶の中身が転がってことん、と音を立てた。

「…なんだそれ…」
「頼まれてたもんとアイツの欠片。要らねぇなら燃やすなりなんなりすればいい」

差し出されるそれらに手を伸ばしかけたが、引っ込めた。

「…俺に、もらう資格はねぇ」
「へぇ?」

拳を握りしめる、痛いほどに。くい込んだ爪から血がこぼれて、早くなる鼓動を感じる。本当は喉から手が出るほど欲しかった。最後まで分かり合うことが出来なかったなまえの事を知れるかもしれない。でも、

「まぁ、どうでもいいが…なまえはお前のこと、一番に考えてたと思うぜ」

そう言って、俺の胸元に無理やり押し付けた。拳を開いて恐る恐る受け取ったのを確認すると、荼毘は踵を返す。その首元に今まで無かったペンダントがあることに気づいた。

「せいぜい命散らしてヒーローしてろよ、その方が喜ぶだろ。じゃあなァ、もう会うこともねぇ」

フラフラとまた路地裏の奥へと消えようとする相手に、これだけは言わなければと声を張り上げた。

「燈矢兄!」
「…なんだ」
「…ありがとう」

俺の言葉に青い眼が一瞬見開かれる。ふっと柔く笑ったその表情は、あの頃の燈矢兄だった。


貰った小瓶を夕日にかざす。元から小さかったけど、こんなに小さくなってしまったのか。

「俺たち、馬鹿だよな…本当に」

お互い言葉を交わすこともほとんど無いまま。互いの主張を押し付けあって、気がつけばお前は燃え尽きた。俺は…この罪をずっと背負って生きていく。

「でも、大好きだった、なまえのこと」

暗くなり始めた空に、焼け焦げた黒い塊が一瞬輝いた気がした。








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