愚者の戯言
隣に腰をかけ、コイツの膝の上で寝息を立てている玄弥を起こさないように軽く唇を合わせた。ちゅっ、とリップ音がしてすぐに距離を取れば、名前が物欲しそうな顔でもっと、と強請ってくる。
「駄ァ目だ」
それでも諦めていないのか。潤んで今にも溶け落ちそうな瞳、上気して紅く染まった顔、触れるか触れないかの瀬戸際でなぞる華奢な指先…その全てで、俺を焦らし、誘っている。酷く艶かしい様にふと、数ヶ月前の名前の姿が重なって見えた。伽藍堂の眼が俺の心臓を深く、深く刺してまた傷跡が増えてゆく。
今、お前は幸せかだなんて、尋ねる資格は俺になかった。
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