前世の話



「ねぇ実弥ちゃん。前世って流行ってるの?」
「はァ?何いきなりわかんねぇこと言ってんだ」

その日、私達は放課後に常連のファストフードのお店で出された課題をこなしていた。何気ない、いつもの風景。わたしはふと、最近感じた疑問を口にしていた。
「最近前世って信じる?ってよく聞かれるの。」
「そりゃアヤシー宗教の勧誘だろよォ」
私の話なんか打て合わずに、男子高校生とは思えない綺麗な字がスラリと教科書の和訳を綴られていく。
「いや、そんな感じじゃないんだよ。わたしはあんまり信じてないかなって言ったらみんな悲しそうな顔するんだよね、なんて返せばよかったんだろう」
「…」
そう言うとそれまで動かしていた手をピタリと止めて、実弥ちゃんは黙り込んでしまった。わたしもそれを気にせずに課題を進める。しばらくして、無骨な手がスルリと私の手を握った。なんだろうと思って顔を上げると、すぐ近くに真面目な顔をした実弥ちゃんの顔があった。
「…オレが、思い出させてやろうか」
その言葉が耳についた途端、騒がしかった店内が静寂に包まれた錯覚に陥った。
そう口に出した本人はどこか寂しそうな悲しそうな顔をしていて。握られた手は少し震えていた。前世があるなんて信じていないし、あったとして実弥ちゃんと知り合いだった可能性なんてとっても小さいだろうに。茶化してやろうと思っていた気持ちはすっかり身を潜めてしまって、わたしは何も返せなかった。

「…冗談だァ、まさか本当に前世があるとでも思ったのかよ」

まるで雑音でかき消されてしまいそうな声で呟いたあと、くしゃりと綺麗な顔を歪め笑った実弥ちゃん。
でもその顔は。今まで見たこともないような苦しそうな表情だったのを、今でも鮮明に覚えている。




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