ガゼルは気紛れだ。
前はそんなんじゃなかったのに、とバーンは膝に頭を乗せてくる彼を見下ろした。何をするでもなく、ただ目を閉じてぐったりしていて死んでるみたいだと思う。体温はバーンと比べたら低いのだが、寒色系な見た目のせいで余計にそう思わせた。実際、死人みたいと言ったら、グランのあの青白い肌の事を言うだろう。ガゼルは反対に、健康的な小麦色の肌をしている。
練習から帰ってきてすぐ、急に部屋を訪れてきたガゼルは着替えの終わっていないバーンをベッドに座らせて寝始めた。大方、グラン率いるガイアに負けたのだろう。いつもの覇気がなくて、試合に負けたと思しき日はバーンの所に来て、少し居座り、帰っていく。
何がしたいんだろう。
ストレスが溜まっている?
話相手になってほしいとか?
膝をくすぐる柔らかい髪を撫でてみると、相手は小さく呻いた。

「何?」
「起きてたのか」
「誰かさんがちょっかいを出すからな」

ガゼルは頭を置き直して、寝返りをうった。鼻を鳴らして、硬いと文句を言う。

「嫌なら退けよ」
「やだ」
「わがまま」

無理にでも立ち上がって自分がどっかに行けば良いのかもしれないが、いつもそれはできない。強気なままのガゼルなら問題ないが、元気のない彼相手にそれは無理だ。ああ、俺って優しい。自分で言うのはあれだけど。

「ガゼル」
「ん」
「何かあった?」
「んん」
「嘘つけ。元気ないぞ」

長い前髪を退けて、額を出してやる。つるりとした形の良い表面だ。額を出す髪形でも可愛いかもしれない。

「言いたくないならいいけど」
「ん」

額を見ていたら、そこにキスをしたくなったので、素直にした。その戯れに、ガゼルはうざったそうにバーンの顔を叩こうとする。当たる事はなく、手は宙をしばらく泳ぎ、シーツの上に沈没した。

「最近眠れてる?」
「分からない。気がついたら朝だし」
「それってどうなの?」
「さあ?」

バーンは足を伸ばしたくなってきた。ずっと膝に頭を乗せているのも辛い。ガゼルの髪をわしわししてやりながら、膝から退くように言った。

「枕使っていいから」
「枕は柔らかすぎて嫌だ」
「まあまあ」

枕に頭を乗せてやると、ガゼルは目を丸くした。バーンは上から覗き込みながら、どうだと笑って見せた。

「低反発枕。結構気持ち良いんだぜ」
「悪くはない」
「お前のとこも変えたら? 眠れるかもよ」
「んん」

きもちい……。
小さく呟いて、ガゼルはまた目を閉じた。心なしかうっとりとした表情さえ浮かべている。
失敗したかな。
バーンは頭を掻いた。
もう膝枕を要求してもらえないかもしれない。

「あーあ、もう!」
「ん、なに……」
「俺も寝よっかな」

枕の隅に頭を乗せて、ガゼルを後ろから抱きこむ。薄いけどしっかりとした体つきだ。抱き心地は悪くない。
眠くなってきたのか、相手は抵抗をしなかった。腕に力を入れて、引き寄せると簡単に身を委ねてくれる。

「ごはん……」
「どうしよっか。このまま寝ちまう?」
「早い時間から寝たら、夜中に起きてしまうから」
「んー、案外平気かもよ」

片手で体の下にある布団を引き上げる。それを掛けてから、ガゼルの首に顔を埋めた。風呂は入ってきたらしい、甘くさっぱりした匂いが鼻腔に広がる。

「暖かくして寝ると良いって言うし」
「行き過ぎて、暑苦しい」
「風呂入った後、徐々に体が冷えていくと眠くなるとか」
「眠くない」
「嘘つき」

目がもうとろんとし出しているじゃないか。
顔を覗き込んでみれば、うつらうつらとしている。

「寝ちまえって」
「寝たら、何処かへ行ってしまうか?」
「行かないよ。俺の部屋だし」
「そうか。なら良いよ」

くすくす笑う声が聞こえる。腰に回した腕に、冷えた指が纏わりつく。
冷え性って、睡眠障害にも繋がるんだっけ。

「冷たい」
「君はあったかいな。きもちいい」

語尾が小さくなっていく。そろそろ睡魔に攫われてしまうだろう。

「バーン」
「んー」
「明日も、きみの所に来ても?」
「良いよ。何時でも来い」

こてん、とガゼルの体の力が抜けた。右腕にかかる体重で血管が圧迫される。細いくせに、体重は結構あったりする。自分よりも重かったりするらしいから、驚きだ。
自分とは違う体温が心地良い。バーンもまどろみ始める。
ああ、人と一緒に寝ると眠りやすくなるんだな。納得。
ご飯も着替えも、してないけれど、今日はもういいや。
閉じた目の先が、より暗くなっていく。

「えーと、おやすみ」

意識がなくなる前に言っても、返事はなかった。





ねむねむ。








さい様のリクエストで「いちゃいちゃバンガゼ」でした。うちのガゼルは何故か睡眠障害持ち。原因、ストレス。処方箋はバーン。そして低反発枕は、雷門でもエイリアでも人気のようです。(でも低反発枕なのに、眠れていない私は…?)
いちゃいちゃバンガゼ、だったのですが、いちゃいちゃなのか…。意識していない行為が、傍から見たら滅茶苦茶いちゃついている、というのを目指してみたのですが、甘さが足りなかったかもしれません。でもこの微妙ないちゃこら加減が、バンガゼには丁度いいのかも…。
さい様、リクエストありがとうございます! 宜しければ、お受け取りくださいませ!

2010.03.30 初出


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