アイキュー+アイシー
「お菓子の家って素敵だと思うの。初めて知ったのはヘンゼルとグレーテルでだけど、クッキーと生クリームの壁、チョコレートの屋根、ゼリーの池にわたあめのベッド。それに腐りもしないのよ。魔法で出来ているものね。それで私思ったの。お菓子の家が欲しいわ、魔法使いさん」
「魔法使いって俺の事かい」
「そうよ兄さん。なんか魔法使いっぽい」
愛しい妹にそう言われても俺は職業中学生の普通の(?)子供だ。急には魔法使いになれない。アイシーは今、お菓子の家が欲しいらしい。だが、そんな物を作れるようなスペースや料理スキルを俺は持っていない。妹は別に強いわがままを言っているわけでもないし、それができないからといって兄さん嫌い、とかそんな事は言わない。ちゃんと良識のある子だ。それでも彼女の願いを叶えたいと思うのは唯一の肉親であるからだと思う。まあ俺がアイシーに甘いだけ。
俺はアイシーと一緒にソファに座って話し始めた。ドラマで見るような父親と娘のような座り方……って俺は父親じゃない。
「何でお菓子の家なんだ」
「素敵じゃない? それにテレビでも人が入れる位の物を作っていたの。とても大変そうだったけど」
アイシーはくるくると髪を指に巻きつけた。あ、枝毛と呟いたから鋏を渡してやる。
「別に大きいのが欲しいわけじゃないわ。『お菓子の家』が欲しいの」
恥ずかしそうに言った妹に、俺は胸を叩いた。
「すまないアイシー」
皿に乗ったのは溶けかかった生クリームに歪に重ねられたクッキーと崩れかかるチョコレート。何とか家の形を保ってはいるようなそれにアイシーはきょとんとする。任せろ、と言った後、すぐにヒートの所で教えてもらったはいいが、とても醜いものになってしまった。これじゃあ喜ぶわけもないだろう。わなわなアイシーの肩が震えて――ああ、怒られる。
「兄さん嬉しい。やっぱり兄さんは魔法使いだわ!」
顔を上げた俺から皿を奪い、溶けるクリームを掬ってアイシーは笑った。甘いとはしゃぐ妹を見て、俺は汚れてきた眼鏡を外した。
お:お菓子の家が好きな君
2010.02.06
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