※南雲+涼野
「あ」の続き




 意味分かんないとか言いつつ、笑う彼がとても不可解であった。まさにそれこそ意味分かんない。
 風介のアイスを見て、部屋の温度を感じて、行動に対して、そして自分に対して。晴矢は今だけで「理解できない」という意味合いの言葉を何度言ったのだろう。あまりにも無意識に、その言葉を発していると思う。
 風介は指で汗をかくラクトアイスのカップを撫でた。手首まで溶けた水滴が伝っていく。あーと間延びした彼の声が耳に届いた。

「ぼたぼた……全くもう」

 晴矢はティッシュを取って滴り落ちる雫を拭き取った。

「お前何考えてんのか、意味分かんねえよ」

 アイスを奪われ、手の平と手首とを新しいティッシュで拭われる。水分を含んで重くなったちり紙がゴミ箱へ放られていく。濡れる原因となったアイスの汗も綺麗に拭かれた。
 何だろう、この感じ。何かと身の回りの事を気にかける晴矢にぴったりの言葉があると思う。

「お母さん?」
「は?」
「晴矢、お母さんみたいだ」

 すとんと胸に落ちた単語の辺りが温かくなった。お母さん、何とも焦げれる言葉なのだろう。
 しばらく晴矢は目を泳がせ、風介に視線を合わせた。

「意味分かんない」

 素っ気無い呆れたようなものではなく、困ったような口調で、困ったような笑いをして晴矢は言った。
 と、下からヒロトの声がした。いつの間に帰ってきたのだろう。晴矢ー、風介ー、と自分たちの事を呼んでいる。無視だ、と晴矢が呟く。

「おでん買ってきたのにー」
「すぐ行く!」
「変わり身が早いな」

 ばたばた階段を下りていく晴矢の後を、溶けかかったアイスと共に追うとリビングの暑い空間にこれまた暑いものを用意されていた。

「晴矢は大根とちくわと昆布ね。風介は卵とがんもとはんぺんで、もち巾は全部俺のー」
「何それ! 昆布ともち巾の交換を要求する!」
「やだ」
「意味分かんねえ!」

 おでんの事だけでこんなに騒げるものなのか。多分自分がアイスに対するこだわりと同じだろうか。
 それにしても、意味分かんないとうるさいが満更でもないだろう? そう晴矢に言おうと思ったがやめておいた。







い:意味不明な事が好きな君




2010.02.05









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